(4)断層活動イベントの推定

以上のようなNo.5孔のコアにみられる堆積環境や堆積速度の変化は、海水準変動などによるものとは考えにくく、何らかの構造運動に起因するものと考えられる。また、変化はかなり急激で、かつ、間欠的に生じたと推定される。このような現象としては、断層活動による断続的な堆積場の沈降と埋積が、最も合理的と考える。

ただし、断層活動イベント(以下、イベントと略す)としての確実性は、同様ではない。以下では、想定される各イベント層準について、確実性とその年代を検討する。表2−5−2−1に、イベント推定根拠をまとめた。

層準T:深度9.4〜9.6m

層相・化石により堆積場の沈降が明瞭に示されており、かなり確実なイベントと考えられる。

イベントが生じた年代は、堆積場の沈降が生じた層準をはさむ上・下位の層の年代からみると、570〜2,060年BPとなるが、堆積場の沈降によって形成された地層の年代が、1,420年〜1,750年BPであることからみると、その直前として1,500〜1,800年BPという狭い年代が考えられる。しかしながら、一部で深度と年代値の関係が逆転していることからみると、程度は小さいものの、これらの試料が再堆積している可能性は否定できない。また、確実な海成試料の年代値は得られていない。したがって、ここでは、ほぼ確実なイベント年代として、上限は、確実な海成試料の年代、下限はイベント直後の地層の年代(陸成試料)として、やや幅はあるが、600〜1,400年BPと考える。

層準U:深度17.2〜17.4m

化石により堆積場の沈降が明瞭に示されており、堆積速度の急変深度ともよく対応する。かなり確実なイベントと考えられる。

イベントが生じた年代は、堆積場の沈降によって形成された地層の年代が、およそ2,060年BPであることからみて、この直前として、2,100年BP頃と考えられる。

層準V−1:深度29.3m付近

層相・化石により堆積場の沈降が明瞭に示されており、堆積速度の急変深度ともよく対応する。かなり確実なイベントと考えられる。。

イベントが生じた年代は、堆積場の沈降によって形成された地層の年代が、およそ3,500年BP前後であることからみて、この直前と考えられる。

層準V−2:深度34.7m付近

層相変化はみられるが、化石の根拠は、他の層準より弱い。また、堆積速度の急変深度とは対応していない。この層準については、三佐断層の断層活動イベントである可能性はやや低いと考える。

層準V−3:深度42m付近

貝化石からは古水深の深化が推定されるが、前述のように、古水深の変化を断層運動によるものとみなす前提となる、この時代の海水準の相対的な安定性(停滞か下降傾向かであることが必要)に関して確実とは言い切れない。また、対応する層相の変化はみられない。この層準の上位、下位の年代値は、それぞれかなりまとまっており、堆積速度の急変が生じているようにみえるが、現時点で得られているデータの深度間隔がやや広いため、古水深変化と堆積速度変化の対応関係は、確実とは言い切れない。すなわち、この層準では、断層活動が生じた可能性はあるが、根拠となるデータが不足している。

仮に、この層準でも断層活動が生じていたとすると、イベントが生じた年代は、堆積場の沈降によって形成された地層の年代が、およそ3,700〜3,800年BP前後であることから、この直前と推定される。その場合、層準V−1の推定年代と極めて近くなる。

層準W:深度51m付近

貝化石からは古水深の深化が推定されるが、層準V−3と同様に、前提に問題がある。また、対応する層相の変化はみられない。この層準で断層活動が生じていたとすると、イベントが生じた年代は、堆積場の沈降によって形成された地層の年代が、およそ5,200年BP前後であることから、この直前と推定される。

すなわち、T、U、V−1は、イベント層準である可能性がかなり高いといえる。V−2は、三佐断層のイベントである可能性は低い。V−3とWは、イベントである可能性はあるが、上の3つに比べて、根拠となるデータの確実性が低いため、現時点では、参考データとして扱う。