2−6 補 論)断層のテクトニクスについての問題

この断層については、反射法探査により、震度1,000m付近までの深部構造も明らかになっている。反射断面に示された大分層群以深の地層の構造をみると、この断層の性格および関連するテクトニクスについて、今後の解明が必要ないくつかの問題点がでてくる。

○変位センスの問題

沖積層の変位からみると、この断層は北落ちの正断層センスを有する。また、今回のボーリング調査で得られた断層の落ち側と上がり側の基盤(大分層群ないし硯南層群)のコアに含まれている花粉化石からみると、落ち側の基盤の方がより新しい時代の地層から成る可能性が高い。この結果は、北落ちの正断層的な変位センスが、後期更新世までさかのぼれることを示唆する。

一方、反射断面に示された基盤の大分層群中の構造には、断層近傍上盤側の背斜構造あるいは下盤側の北傾斜が断層付近で急になる現象など、むしろ圧縮応力場で形成された、逆断層に伴うものと考える方が自然な地質構造が多く認められる。このことからみると、この断層が大分層群の堆積中ないし堆積以後に逆断層として活動した時期があったと考えられる。ボーリング調査結果と合わせて考えると、更新世のある段階で、断層の変位センスが逆から正へ、反転(inversion)したということになる。

中・北部九州の更新世の構造運動史については、具体的なメカニズムは示されていないものの、構造運動の反転があったとする報告(下山ほか、1999)があり、今回確認した現象は、そのような広域的な構造運動の反転を示すものである可能性も考えられる。

○周辺の地質構造の問題

また、深部の地質構造の形成には、この断層のほかに、もう少し広域的な周辺の構造運動の影響があった可能性がある。たとえば、上盤側(北側)の層厚が北方へ厚くなる現象は、この断層の運動だけでは説明しがたいが、北方に南傾斜・南落ちのリストリック正断層の存在を仮定するとよく説明できる。さらに、測線中央部の背斜構造についても、このような断層の存在に加えて、この断層を特異な形状の正断層と仮定することで、必ずしも圧縮応力を考えなくても形成が説明できることが池田委員によるディスロケーションモデルで明らかにされた(図2−10参照)。現実的にも、この断層と北方の別府湾中央断層の関係は、このようなモデルに合致しているようにみえる。ただしこのモデルでは、下盤側の北傾斜構造は説明できない。

○その他の問題

このほかにも、下盤側浅部の多数の亀裂の成因など、説明困難な現象が残っている。

これらの問題は、当面解明すべき、この伏在断層の活断層としての活動性の問題とは、切り離して考えるべきであるが、今後より広範囲に調査を進め、中央構造線本体の活断層としての性格を解明するというような問題が生じた際には、活断層相互の関係を検討するために重要な問題になることが考えられる。次年度以降の調査の中では、周辺地域の地質構造あるいは応力変遷についても念頭において、データを得ていくようにするべきであろう。