1−1 調査地域北部の断層(鹿鳴越断層以北)

緩く北方に傾斜する古い火山山体(鹿鳴越火山)の斜面とその周辺の火山麓扇状地面の上の逆向き断層崖で特徴づけられる。風隙や谷の閉塞が各所にみられ、地形的には比較的明瞭であるが、中でも唐木山断層による唐木山南西側の谷の閉塞は顕著である。この地域の東部を中心に右横ズレを示す地形もみられる。鹿鳴越断層は、最も比高の大きい断層崖をなすが、断層崖は崩壊による後退が著しい。

活動度は唐木山断層より北の断層はC級、唐木山断層以南は概ねB級である。いくつかの断層露頭を確認したが、確実にK−Ah火山灰を変位させている証拠は得られていない。ただし、活動度の高い唐木山断層以南の断層(他に常磐断層・鹿鳴越断層など)は、閉塞谷の地質状況からみて、K−Ah火山灰以後も活動した可能性がある。今回の調査では、閉塞谷の堆積物に断層活動が記録されている可能性があり、相対的に活動度が高いとみられる唐木山断層を、北部地域の代表地点として、トレンチ調査を実施し活動性を評価した。

唐木山断層のトレンチでは、閉塞谷の中にKj−P1層より古いとみられる堆積物(年代は5〜6万年オーダー)と、それを不整合に覆うK−Ah火山灰以降の新しい堆積物が確認された。断層の推定位置を挟んで南北方向に延長約65mのトレンチを掘削したが、トレンチ北端の山麓部を除き、トレンチ内の地層には断層によるとみられる変形・変位は確認できなかった。トレンチ北端部では、地形からみた断層の変位センスとは逆の、みかけ南上りのドラッグを示す小断層がみられた。この断層は、不整合面とその上位のK−Ah火山灰以降の地層を変位させているが、変位量はごく小さく、堆積物の分布・層相にもほとんど影響を与えていない。

一方、地形的に想定される南落ちの断層運動がごく新しい時代まで継続していたとすると、5〜6万年オーダーと推定される堆積物が現地表下の深度2m以内という浅い位置に出現し、かつ、その後の堆積物が順次累重するのではなく、不整合面を介してK−Ah火山灰以後の堆積物が直接重なるという現象は説明し難い。

以上の諸点を考慮すると、唐木山断層では、地形から想定される南落ちの断層運動は、少なくとも5〜6万年BP以後は生じていないと判断される。トレンチ北端の小断層についても、その性状からみて、起震断層とは考え難く、他地域で生じた断層運動により、山麓斜面末端の不安定な堆積物中に生じた派生的・受動的な断層である可能性が考えられる。

このような、北部地域の中では、地形・地質調査結果からみて、かなり活動的と考えられる唐木山断層のトレンチ結果をもとにして考えると、唐木山断層以上に活動的とは考えにくい、他の断層の活動性は全体的に低いと判断される。このことからみると、唐木山断層をはじめとする北部地域の断層群は、地震防災上重要な断層とは考えなくてよいと思われる。※

※平成10年度調査結果でも示されたように、唐木山断層以南の断層の中には、鹿鳴越断層のように、、唐木山断層より変位量が大きいものもあり、必ずしも唐木山断層より活動性が低いと断定できない面もあるが、活動性を確認するためのトレンチ調査の適地がないという実際的な問題もあるので、ここでは、北部地域の断層群として一括して評価する。

また、以上の評価は、数10万年前に形成された火山斜面の変位から推定される唐木山断層の断層活動が、その後も同様のセンスで継続していたという想定にもとづいたものである。しかしながら、後述する地溝南縁の断層群の活動史にみられるようにここ数万年という時間内で別府−万年山断層帯のテクトニクスに変化があった可能性が考えられる。唐木山断層についても、今回のトレンチの北端に出現した小断層は、完新世に至って横ズレ優先の断層活動が生じたことを示唆するものである可能性は否定できない。この点については、現時点で明確に判断を下すには材料が少なすぎ、今後の検討課題としたい。