(2)貝化石分析結果

年代決定のために、ボーリングコアから原地性の貝化石を抽出し、14C年代測定に供したが、この作業の中で得られた貝化石の種の同定、棲息環境の解析等も、合わせて実施した。以下にその結果をまとめる。分析作業は、首藤次男九州大学名誉教授、応用地質株式会社顧問によって行われた。

@)概     要

ボーリングbS,6,7のコアから採取した試料157個のうち、103個から分類可能な貝化石を得た。各資料の化石集団※の種構成は貧弱であり、10種以上で構成されているものは30集団、個体数が20個以上検出されたものは35集団に過ぎない。構成種は二枚貝35種、ツノガイ1種、巻貝57種の計93種にのぼるが、種レベル、個体レベルで出現頻度の高いのは、Clathrofenella reticulata,(A. Adams)(65/103),Eufenella pupoides(A. Adams)(60/103),Al− venis ojianus(Yokoyama)(44/103),Theora fragilis A. Adams(33/103),Micr− ocirce dilecta Gould(31/103),Ringicula dorialis Gould(25/103),Sulcore− tusa minima(Yamakawa)(24/103),Decorifer insignis(Pilsbry)(22/103) の8種である。中でもEufenella,Clathrofenella,Alveniusは最優占種となってい

ることが多い。このことから窺えるように化石集団の種構成は互いに似通ったものになっている。種数や個体数が少ないことと相俟って、化石集団を区別するのを難しくしている。従って化石集団によって確実に対比できる層準は少数に限定されている。

化石集団は原地性ないし準原地性のものが多いが、原地性ないし混合型化石集団もある。

表3−5−1−1−1  貝化石分析結果の概要

※ここでは、生態学的な意味合いを持つ「群集」(community)ではなく、より一般的な意味でほぼ同じ層準に出現する化石の集合という意味に限定し、「集団」(assemblage)を用いておく。

A化石集団の対比

Eufenella,Clathrofenella,Alveniusなどに優占された化石集団が多いなかで、もっとも異質的であるために対比に有効と考えられるのはDiffalaba picta votrea(S0werby) が高率(35−58%)で出現する化石集団である。この集団はボーリングbVの深度11.64〜12.10m間の3試料とbUの深度17.70〜17.80m間の1試料に認められる。Diffalabaに続いてClathrofenella,Decor−iferなどが優勢な種となっていることとも似ている。この層準が対比できることは確実であり、これをA層準とする。この層準は、上部砂層の最上部にあり、上部砂礫層との境界に近い。bU、bV孔ではこの層準の下位には前述したほとんど貝化石を産出しない地層が厚く続いている。bSではbU、bVに比べて貝化石の産出が多いにもかかわらず、A層準に相当するものは認められない。

K−Ah火山灰直下の化石集団は3ボーリングとも Clathrofenella,Alvenius, Eufenella,Microcirceを優占種とし、Sulcoretusa,Ringiculaを含みK−Ahとの層序関係を除いても安全に対比できる。この層準をB層準とする。

B層準の数メートル下位に、上記の優勢種にTheora,Ringiculaが加わった集団が各ボーリングに出現し、互いに対比できる。これをC層準とする。

bSでは深度30mを境として、それより下位33.91mまではClathrofellaを際立った最優占種(46−76%)とし、Gomphina,Pitarina,Batillaria,Hiniaなどの潮間帯に限られる種が加わっている。103個の化石集団のなかでもっとも浅い環境を示すものである。この集団の垂直分布の上限をD層準とする。B〜D層準間は貝化石のほかに、Ammonia beccari(有孔虫)の出現で特徴づけられる。bU,bVではD層準までは、ボーリングの掘削が到達していない。

B化石集団からみた堆積環境の変化

B−1.貝化石の産出頻度の変化

貝化石は、沖積層のすべての層準からまんべんなく産出するのではなく、産出層準にかなり偏りがある。すなわち、

・下部砂層から中部泥層にかけては産出頻度、産出する種・個体数共に多いが、上部砂層では全体に産出が少なく、上部砂礫層では、ごく一部で産出するにすぎない。これは、上部砂層が三角州底置相としての性格を有し、後述するように堆積速度が比較的大きいことを反映しているとみられる。

・中部泥層でも、K−Ah火山灰より上位の層準では、断層上り側のbS孔で産出頻度、種や個体の数が共に比較的多いのに対し、断層落ち側のbU孔、bV孔では貝化石の産出が極めてまれである。これらの孔では、この層準の堆積速度が極めて大きく、同時にK−Ah火山灰の再堆積部が厚いなどの特徴があり、これらの条件が貝の棲息および化石の保存に不利に働いたと考えられる。

B−2.堆積水深の推定

抽出された貝化石集団中の種構成から堆積時の水深の推定を行った。推定方法を図− に、得られた水深を表− にまとめた。

この推定水深を深度方向に表現すると、図− のようになる。

この図から次の点が読み取れる。

・沖積層の堆積開始以後、下部砂層から中部泥層中のK−Ah火山灰層準に至るまで、堆積水深は徐々に深くなる(水深5m前後→10〜15m前後)。

・K−Ah火山灰層準付近で水深は最も深くなり、水深10〜15mに達する。最も深い水深の計算値では、水深20mに近い。断層の上り側(bS孔)と落ち側(bV孔)を比較すると、落ち側の方でやや深い水深を示す値が得られている。

・K−Ah火山灰層準より上では、水深は徐々に浅くなり、上部砂層の推定堆積水深は5〜10mである。断層の上り側では、落ち側に比べて、この変化が急激である。