(2)各断面の解釈

(1)府内城測線(図5−1−49図5−1−50参照)

・反射面の分布

基盤上面に相当すると考えられる明瞭な反射面は、測点200mより南側では深度42m付近に、測点110m付近より北側では深度65m前後に出現し、いずれの区間でも、全体としては水平に近い構造を示す。両区間の間では、グラーベン状に下がる構造を示す。

沖積層中では、測点200mより南で、深度38m付近と深度24m付近に、明瞭な反射面がみられる。これに相当する面が、測点110mより北では、深度50mと35m付近に出現する。両反射面の間には、水平に近く、あまり明瞭でない複数の反射面がいくつかみられる。これらは、ボーリング調査結果(後述)からみて、それぞれ下部の砂礫層・砂層の上面及び中部泥層中の挟み層(おそらくK−Ah火山灰層)と考えられる。これらの面も、測線中央付近でグラーベン状に下がっている。測線北部では、下部の砂礫層・砂層の上面に相当する反射面の下位に、さらに2面の明瞭な反射面がみられる。

フォアセット構造のみられる部分の下限は、測線の南部で深度20m付近、北部で深度28m付近である。上部砂礫層の下限に相当する反射面は、測線南部で深度5m付近、北部で深度12m付近にみられる。両区間では、ほぼ水平に近い。測点150〜190mでは、この面は、深度20m付近まで下がっている。

・地質構造の解釈

断層の位置・変位の向き

測点100〜200m間に、各反射面の不連続から、複数の断層の存在が読み取れる。全体としてみると、これらの断層群を挟んで、沖積層下限以浅の反射面は、すべて北落ちに変位している。

南端は、測点190〜200m付近の地表ないし沖積層中部から下にみられる60°〜75°で北へ傾斜する、北落ち変位の2条の断層(f1、f2)、北端は、測点100m付近の沖積層中部から下にみられる60°〜70°で南へ傾斜する、南落ち変位の断層(f4)である。このほか、測点120〜 130m付近(f3)と測点150〜165m(f2‘)に南傾斜・南落ちの断層の存在が読み取れる

断層の性格と形態

反射面のずれから推定される断層の変位量は、南端のf2断層で最も大きく、反射面は、この断層の南側では北傾斜、北側では南傾斜で、この断層は明確に地質構造の境界となっている。

断層相互の関係をみると、測点150〜165mの断層(f2‘)は、最も変位の大きいf2断層から分岐しているようである。この断面では深度70m以深の構造は確認できないが、f2断層における変位の規模、地質構造境界としての性格を考慮し、後述する大分川左岸測線で読み取れる断層形態から類推すると、北傾斜のf2(ないしf1)断層が主断層として地下深部まで延びており、この主断層での北落ちの断層運動に際しての上盤側(北側)でのロールオーバー背斜・グラーベン構造の形成に伴い、南傾斜の断層がantithetic(アンチセティック)断層として形成されたと考えられる(第6章参照)。

変位量と断層活動の時期

断層変位区間の両側での対応する各反射面のずれ量の相違からみて、この測線の断層群では、変位が累積していると判断される。沖積層下限では、累積変位は20m近くに達する。また、ずれの量の差が生じている層準を断層活動の時期とみると、古い方から順に次の時期に断層活動が生じたと推定される。

B 沖積層下限−下部砂礫層・砂層上限の間

A K−Ah火山灰−上部砂層下限の間

@ 上部砂礫層下限−現在の地表面形成の間

(2)大分川左岸測線 (図5−1−51図5−1−52図5−1−53参照)

・反射面の分布

<P波探査結果>

P波探査では、表層の沖積層中の反射面に加えて、深度200m付近までの基盤中

の反射面が確認できた。

基盤上面に相当すると考えられる反射面は、測点300mより南側では、深度45m付近に、測点130m付近より北側では、深度70m前後に出現し、いずれの区間でも、全体としては水平に近い構造を示す。両区間の間では、階段状に北へ下がっている。

基盤中には、層理面に相当するとみられる反射面が多数認められる。これらの反射面の傾斜は、測点140〜150m付近を境として、北側では10°〜15°の南傾斜、南側では約30°の北傾斜を示す。

沖積層中では、3面ないし5面程度の反射面が認められる。測点260mより南側と測点150m付近から北側では、ほぼ水平で、その間ではグラーベン状に下がっている。これらの反射面の層序的な対応は、この断面では必ずしも明確ではないが、最上位の反射面は、沖積層上部の砂礫層下限に対応していると推定される。

<S波探査結果>

S波探査では、測点150〜180m付近が橋梁基礎の範囲にあたっており、diffaractionパターンで反射面が不明瞭になっているものの、いくつかの反射面が認定できる。

基盤上面に相当すると考えられる反射面は、測点300mより南側では、深度30m付近に、測点110m付近より北側では、深度50m前後に出現する。測線南部では、水平に近い構造、北部では水平ないし南傾斜の構造を示す。P波と比べてみかけの出現深度が浅いようにみえるのは、解析上での地表から反射面までの弾性波速度の設定の相違によるものと考えられる。また、測線の北部と南部では、基盤中に、P波断面と同様の傾斜した反射面が認定できる。

沖積層中には、水平に近い多くの反射面がみられる。春日神社付近や府内城付近と違い、フォアセット構造が発達する部分は確認できないが、上部砂礫層下限に相当するとみられる反射面が、測点250m付近より南では深度8〜10mに、測点130m付近より北では深度約12mに出現する。それぞれの区間では、ほぼ水平な構造を示す。

・地質構造の解釈

断層の位置・変位の向き

P波断面とS波断面のいずれにおいても、測点120〜320m間に、反射面の不連続から、複数の断層が読み取れる。主な断層については、両方の断面で読み取れる。

南端は、測点310m付近の沖積層中部から約45°で北へ傾斜している断層(f1)、北端は、測点120〜130m付近の沖積層上部から60°〜70°で南へ傾斜している、南落ち変位の断層(f3)である。また、測点230〜240m付近の沖積層上部から60〜70°で北へ傾斜している、北落ちの断層(f3)も明瞭である。ほかにも、f2、f3と同系統の断層が少なくとも5〜6条認められる。

断層の性格と形態

P波断面でみると、表層の断層群は、北傾斜の主断層に南傾斜のantithetic断層が伴う形態を示す。また、測点150m付近の深度130m以深では、基盤中の1条の断層(F)に収斂しており、全体としてフラワー構造を形成している。このF断層は、平成11年度に実施された深部反射法探査でも確認されており、深度700m付近まで追跡されている。深部では傾斜が約30°まで小さくなり、全体として下に凸のlistric断層の形態を示すとされている(平成11年度調査報告書を参照)。

変位量と断層活動の時期

これらの断層群を挟んで、基盤上面相当の反射面は、約20〜25m北へ下がっている。この量は、府内城測線での値とほぼ同じである。同様に、沖積層の上部砂礫層下限は、北へ5m弱下がっている。

前述したように断層付近での反射波のdiffaractionにより、反射面の細かい対比が確定できないため、反射面のずれ量の差が生じている層準から断層活動の時期を推定することは難しい。

(3)−1.春日神社測線(図5−1−54参照)

・反射面の分布

深度20m〜25m付近に、基盤上面に相当すると考えられる、南から北へ緩く傾斜する、きわめて明瞭な反射面が存在する。測点120〜130m付近と、測点20〜70m付近では、この反射面が凹状に下がっている。

この反射面の2〜3m上にも、連続性のよい明瞭な反射面がみられる。測点140m付近から南では、明瞭な反射面は1面であるが、北側では、上位の面もかなり明瞭になる。120〜130m付近では、下位にも面が出現し、局所的に3面の反射面がみられる。これらの面は、沖積層下部の砂礫層ないし砂層、及び中部泥層の境界に相当する面と推定される。

さらに上位には、前進する三角州のフォアセット構造とみられる、海側(北側)へ5°〜12°で傾斜する反射面が多数存在する部分(上部砂層相当)がある。上・下位層との境界では、toplapとdownlap構造が明瞭である。この部分の層厚は6〜15mで、海側へ厚くなっている。ただし、測点80m付近から海側では、この構造は見えにくい。

最も地表面に近い、深度4〜6m付近には、水平に近い反射面が断続的にみられる。これは、沖積層最上部の砂礫層の下限に相当すると推定される。この反射面も海側へ向かって徐々に下がる傾向があり、さらに、測点70m付近から海側では、凹状に窪む傾向があるようだが、面自体が不明瞭になるため、詳細は確認できない

・地質構造の解釈

測点120〜130m付近、測点20〜70m付近では、基盤上面が凹状に下がっており、沖積層下部では、南側に存在しない地層の堆積もしくは層厚の増大が生じていると推定される。一方、周辺の既往ボーリング資料の解析では、この付近に沖積層の北落ち構造が推定されており、海域の音波探査で推定された断層を陸側へ延長すると、この付近を通る。

以上の点を考慮すると、反射断面でみられる上記の構造は、変位量はあまり大きくないものの、断層によるグラーベン状の変形である可能性が高いと判断される。

この部分での、断層運動によるとみられる変位量は、沖積層下部で最大でも5m程度である。フォアセット構造のみられる下部砂層〜中部泥層相当部には、変形は及んでいないと判断される。

(3)−2.春日神社東方測線(図5−1−55参照)

・反射面の分布

全体に春日神社測線に類似するが、対応する反射面の深度が、より深くなっている。

基盤上面に相当すると考えられる、きわめて明瞭な反射面の深度は、20m〜35m

で、南から北へ緩く傾斜する。測点120〜145m付近と、測点15〜30m付近では、この反射面が凹状に下がっている。測点30mと120m付近では、この面に比較的明瞭な北落ちのずれが認められる。

この反射面の直上から10〜13m程度上までの部分には、、沖積層下部の砂礫層ないし砂層及び中部泥層の境界に相当する面と推定される、連続性のよい明瞭な反射面が複数みられる。測点145m付近から南では、明瞭な反射面は2面であるが、その北側では、その間に面が付け加わって、3面が認められる。また、測点145m付近から南では、北側に比べて反射面がより明瞭である。これは、何らかの堆積相の変化をしめしている可能性があると思われる。

さらに上位のフォアセット構造のみられる部分(上部砂層相当)の層厚は、6〜12mである。海側へ向かって厚くなっている。

沖積層最上部の砂礫層の下限に相当する面は、深度6〜8m付近にみられる。ほぼ水平に近く、比較的連続性がよい。測点70m付近から海側では、反射面が2面認められる。

・地質構造の解釈

春日神社測線と同様に、測点120〜145m付近、測点15〜30m付近にみられる、基盤上面の凹状の下がりは、断層によるグラーベン状の変形と推定される。測点145m付近から海側の沖積層下部に、反射面が増え、南側にない地層が堆積しているか南側より層厚が厚くなっているとみられることも、この推定を支持する。

断層によるとみられる変位量は、基盤上面と沖積層下部で最大でも4m程度であり、

かつ、下部砂層ないし中部泥層相当部には、変形は及んでいないと推定される。

この測線では、春日神社測線と同様の断層の存在が、より明確に示されているといえる。

(4)芸術会館測線(図5−1−56図5−1−57参照)

・反射面の分布

測点220m付近から南では深度22〜25m、測点200m付近から北では深度30〜25mに明瞭な反射面が認められるが、後述するボーリング調査からみると、この反射面は、基盤上面ではなく、沖積層下部の砂礫層の境界に対応していると考えられる。この明瞭な面の下(測点295〜320mで深度37m付近、測点115〜170m付近で深度40m付近)に断続的ではあるが、比較的明瞭に識別できる反射面を、基盤上面に対応する反射面と推定した。

このほかに、沖積層中のフォアセット構造の下限に相当する反射面が、測点235mより南では深度12〜15m、測点200mより北では深度16〜17m付近にみられる。上部砂礫層の下限に相当する反射面は、測点230mより南では深度5m付近に、測点200mより北でも深度5m付近にみられる。

最上位のものを除く反射面は、測点190〜230m付近を境として北へ下がっており、その南側と北側では、それぞれほぼ水平に近い構造を示している。最上位の反射面は、全体としてほぼ水平である。

・地質構造の解釈

断層の位置・変位の向き

測点190〜230m間の反射面の北落ち変形は、断層運動によるものと判断される。反射面が不連続になる位置を結ぶと、70°〜80°北傾斜の断層の存在が読み取れる。

断層の性格と形態

この断層では、他の測線と違い、グラーベン状の変形構造やそれに伴うantithetic断層は、明瞭には認められない。

変位量と断層活動の時期

最上位の上部砂礫層下限相当の反射面には、明瞭な北落ち変位は認められない。中位の反射面の北落ち変位量は約4m、下位の反射面の北落ち変位量は、約8mで、変位の累積が認められる。すなわち、この2面の間の時期にあたる、下部砂層・中部泥層の堆積期間中に断層活動が生じたと推定される。