(3)大分川左岸測線(S波)

大分川P波探査の結果(現場での簡易解析)の結果をもとに測線を断層近傍の300m区間に絞って、断層付近での地下の浅い部分の情報を得るために、S波による探査を実施した。S波探査はP波探査同様に堤内法尻に測線を設けた。当初は他の測線同様にS波バイブレータを振源とした探査を試みたが、堤防の特性に起因するとみられる。弾性波の地表部での減衰が大きく、S波バイブレータのエネルギーでは不十分である判断した。したがって、よりエネルギーの大きい重錘を用いた板たたき(板は重機で地表に固定)振源に交換して探査を実施した。

図5−1−17に相互相関処理後のオリジナル波形例、図5−1−18にフィルター処理後波形例を起振点50m毎に示す。バンドパスフィルターでは30〜150Hzを通過周波数帯とし、AGCのオペレータ長は300msとした。図5−1−19にデコンボリューションパラメータテスト(オペレータ長を10,25,100msと変更)結果例を示す。本測線においては、S/Nが良好で無かったため、さらにS/Nを下げるおそれのあるデコンボリューションは適用しなかった。図5−1−18のスタック前の波形例を観察すると、図中の全記録において、往復走時300msとなる反射波が顕著であり、これより上位にも多数の反射波を認めることができる。また、測線北側にあたる起振位置50m、100mの記録では、往復走時を500ms前後とする反射波も認めることができる。

図5−1−20には速度解析結果より求めた区間速度分布を示す。図5−1−21には速度解析結果よりCDP重合を行った結果である時間断面を示す。時間断面を観察すると、測線北側(測線距離50m〜120m程度)では往復走時を500ms前後とする反射波が顕著であり、測線南側(測線距離250m付近〜350m)では往復走時を300ms程度とする反射波が顕著である。測線中央部(測線距離140〜250m)では全体に反射波の連続性が悪い。測線距離160m付近を頂点とする上に凸の得意な反射波パターンが見られるが、これは地下浅部に存在する舞鶴橋橋脚部基礎部で反射し、水平方向に伝播する波(ディフラクションと呼ばれる)によるものである。この反射波パターンの影響で、より深部の地層境界からの反射波が隠されてしまっている。図5−1−22には、マイグレーション後時間断面を示す。マイグレーションには、速度解析で求めた速度テーブルを用いた。マイグレーション処理には、ディフラクションによる反射波パターンを解消する効果もあり、図5−1−21で見られていたディフラクションによる反射波パターンは解消され、地下の地層境界からの反射波が見やすくなっている。したがって、この測線の解釈には主にマイグレーション処理後の時間断面を用いた。

図5−1−23には、マイグレーション後時間断面に深度変換を施した結果(深度断面)を示す。深度変換には、図5−1−20に示した速度テーブルを平滑化して用いた。