3 まとめ及び今後の調査計画

月岡断層およびその周辺の活断層調査は、断層の位置・長さ、平均変位速度、再来間隔、最新活動時期、単位変位量等を明らかにし、地震防災に関する基礎資料を得ることを目的として、平成8年〜9年の2年間の予定で調査が実施されている。

今年度は、文献調査、地形・地質調査、ボーリング調査、反射法探査を実施し、断層の位置・長さ、平均変位速度、最新活動時期等に関するデータを取得した。今年度の調査結果および検討課題をまとめると表3−1−1となる。

月岡断層

・断層の位置・長さ・・・笹神丘陵と村杉低地の境界付近に位置し、NNE−SSW方向に延る長さ20kmの断層で、地表付近では長さ4〜7kmの雁行配列した断層からなる。

・断層のセンス戸板沢地区、月岡南地区のボーリングで断層が確認され、西上がりの逆断層であることが明らかになった。戸板沢地区および月岡南地区で確認された断層は、共に西に25°傾斜している。また、笹神村出湯〜同村上坂町間で実施した反射法探査結果によれば、リニアメントのやや東側から西に傾斜する逆断層が想定される。断層の傾斜は表層部で約50°、深部で約60°である。

月岡断層は、西に傾斜する逆断層で、地表付近ではかなり低角度であることが明らかになった。

断層の水平ずれについては、巨視的にみると、河川の左屈曲が認められるが、五頭山側から流れる河川の延長上にあたる断層西側の笹神丘陵には、旧流路跡である風隙がみられることが多く、今回の調査では、水平ずれの有無について結論を出すに至っていない。今後、トレンチ調査で、断層面にみられる条線等から水平成分について検討する必要がある。

・平均変位速度・・・地形面の分布標高、堆積年代から月岡断層の縦ずれ成分の平均変位速度を求めると図3−1−1−1図3−1−1−2及び表3−1−2−1表3−1−2−2表3−1−2−3表3−1−2−4となる。T1〜T4面の平均変位速度は、いずれの面でも似た値を示し、0.13〜0.49mm/y以上である。このうち、同一地形面より求めた平均変位速度は、0.24〜0.45mm/yである。ボーリング調査による野中地区のT4面から求まる縦ずれ成分の平均変位速度は、0.44〜0.46mm/yである。

月岡断層の縦ずれ成分の平均変位速度は、おおむね0.4〜0.5mm/y程度と考えられる。横ずれ成分については、今後の検討課題である。

なお、T4面の高度差から平均変位速度を求めるために実施した野中地区のボーリングでは、断層西側のボーリングが断層運動により変形(引きずられた)した部分に位置し、正確な変位量が求まっていない。今後、この地点の変位量を精度よく求めることが望ましい。

・最新活動時期・・・戸板沢地区のボーリングでは、副次的な断層が約7,000〜8,000年前の堆積物(D層)に約1mの変位を及ぼし、それ以降の堆積物にほとんど変位がみられないことが明らかになった。主断層については、約30,000年前の堆積物(C層)が堆積後、断層が活動したことは明らかになったが、その後の活動については検討できなかった。今後、追加ボーリングを実施し、最新活動年代を明らかにする必要がある。

月岡南地区のボーリングでは、約7,000年前の扇状地堆積物(C1層)が堆積した後、断層が変位していることが明らかになった。本地区ではC2層(約5,500年前の堆積物)やそれ以降の堆積物(C3層)が分布しており、今後、トレンチ調査や追加ボーリングにより、最新活動時期や単位変位量等を明らかにする必要がある。

・単位変位量・・・今回の調査では、地表踏査で直接断層を確認することができず、単位変位量を求めることができなかった。月岡南地区のトレンチ調査や戸板沢地区のボーリング調査等を総合的に検討し、単位変位量を求めていく必要がある。

村松断層

・断層の位置・長さ・・・活断層研究会(1991)の村松断層の北半部である愛宕が原東縁部にNNE−SSW方向、長さ3.5kmのリニアメントが判読される。活断層研究会(1991)による村松断層の南半部は、リニアメントを挟んで変位地形が認められず、活構造以外に起因したリニアメントと判断される。

・断層のセンス・・・渡辺・宇根(1985)により、西傾斜の逆断層露頭が確認されており、このリニアメントは西上がりの逆断層からなると判断される。高浜ほか(1980)の正断層露頭付近でも、西山層中に西上がりの逆断層(小断層)が確認される。断層の横ずれ成分については、渡辺・宇根(1985)により左横ずれが指摘されているが、今回の調査では、リニアメントを横断する沢等がなく、判断できなかった。今後の検討課題である。

・平均変位速度ほか・・・今回の現地調査ではスポット調査を実施したのみで、地形面の堆積年代が特定できていない。柳田(1981)に従いM1面をT4面に対比すると、鉛直方向の平均変位速度は0.39〜0.6mm/yとなる。

今後、トレンチ調査、ボーリング調査等の実施により、平均変位速度、単位変位量等を求め、月岡断層との関連性について検討を進めていく必要がある。

月岡断層〜村松断層間

・断層の位置・長さ・・・月岡断層と村松断層の中間地点の中川集落東側には、NNE−SSW〜N−S方向、長さ1.5kmの西上がりのリニアメントが判読される。

・断層の有無・・・上記リニアメントが断層変位地形であるかどうかを検討するため、ボーリング調査を実施した。ボーリング調査結果によれば、リニアメントを挟んで地層はおおむね連続しており、断層を確認できなかった。この付近の既存ボーリング結果やリニアメント分布から断層はボーリング地点より東側に位置する可能性もある。本地点は、村松断層と月岡断層の関連性を検討する上で、重要な位置にあり、さらに調査を進める必要があると考えられる。

月岡断層〜加治川断層

・断層の連続性・・・文献調査結果によれば、越後平野東縁を画する一連の活断層のうち、北側の加治川断層、櫛形山地西方断層に関しては、1990年代に断層の活動性等について詳しい研究がなされていることが明らかになった。活断層研究会(1991)によれば、村松断層から櫛形山地西方断層までの活断層は、越後平野の形成に関連した一連の断層活動によるものと推定されると記されている。月岡断層とその北側の加治川断層までは約12km離れているが、その間は加治川による沖積面が広く分布し、断層が伏在している可能性がある。今後、両断層の関連性を明らかにするため、両断層間について空中写真判読等を実施し、連続性等について検討をすすめる必要がある。

来年度の調査は、活断層調査の最終年度として、上記した検討課題を解決するため、今年度の補足調査、トレンチ調査を実施して、活断層から予想される地震の場所、時期、規模について検討を行うこととする。

以下に具体的な調査内容を示す。また、表3−1−4には調査数量を、図3−1−2には調査位置を示す。

(1) 戸板沢地区(図3−1−3参照)

目的:本年度の調査により、約7,000年前の扇状地堆積物(C1層)を点は沖積面に変位地形が認められない地点であり、断層を被覆する沖積層を利用して最新活動時期を検討する。

調査内容:本地点は断層を確認し、かつ、沖積層が厚く堆積しており、活断層を評価する上で、良好な地点である。トレンチ調査を実施するのが望ましいが、沖積層が厚く堆積しているため、ボーリング調査を実施する。

主断層を確認した戸板−4孔の東側で2孔のボーリングを、副次的な断層を確認した戸板−2孔の東側で1孔のボーリングを実施し、最新活動時期を検討する。また、戸板−4孔の西側で1孔のボーリングを実施し、断層の傾等について検討する。

(2) 月岡南地区(図3−1−4参照)

目的:本年度の調査で、約7,000年前の扇状地堆積物(C1層)を切る逆断層を確認した。しかしながら、本年度の調査はトレンチ候補地点としての予備調査であり、C1層より新しい地層に変位が及んでいるかは確認されていない。また、ボーリング地点がやや離れているため、断層の両側に同じ地層が分布するのか確認することができなかった。断層の最新活動時期、単位変位量、横ずれ成分の有無等を明らかにするため、トレンチ調査や追加ボーリングを実施する必要がある。また、新しい扇状地面上にみられる崖についても、ミニトレンチ調査を実施し、その成因について検討する。

調査内容:トレンチ1か所(長さ25m×幅15m×深さ7m程度)

ミニトレンチ1か所(長さ15m×幅11m×深さ5m程度)

ボーリング2孔(15m×2孔)

(3) 野中地区(図3−1−5参照)

目的:T4面の平均変位速度をより精度良く求めるため、ボーリング調査を実施する。

調査内容:本年度実施した断層東側の2孔は断層運動による変形を受けた地点のボーリングであり、その東側で2孔ボーリングを実施し、T4面の平均変位速度を精度よく求める。

(4) 中川地区(図3−1−6参照)

目的:本年度の調査結果によれば、リニアメントを挟んで地層がおおむね連続しており、断層を確認することができなかった。しかしながら、断層はボーリング地点の東側に位置する可能性があり、本年度のボーリング地点より南側でボーリングを実施し、断層の有無について再度検討する。

調査内容:リニアメントを挟んで両側に2孔づつ、計4孔のボーリングを実施し、リニアメントの成因について検討を行う。

(5) 村松断層地区(図3−1−7参照)

目的:村松断層は、本年度の調査で、月岡断層と同様にNNE−SSW方向で西上がりの逆断層であることがおおむね明らかになったが、地形面の堆積年代が不明で平均変位速度等が求まっていない。村松断層についても、平均変位速度、単位変位量、最新活動時期等を明らかにし、月岡断層との関連(同一セグメントであるか)を検討する必要がある。リニアメント沿いには水路があり、トレンチ調査が不可能な状況にある。このため、断層を挟んで分布するM1,M3面を利用して、ボーリング調査等を実施し、月岡断層との連続性について検討する。

調査内容:M1,M3面でそれぞれピットを1か所づつ掘削し、堆積年代の検討を行う。また、不明瞭なリニアメントが認められる村松町矢津北方のM3面上で、リニアメントを挟んでボーリングを2孔づつ計4孔掘削し、変位がM3面まで及んでいるか検討する。

(6) 月岡断層以北

目的:月岡断層の北方には、越後平野の形成に関連した一連の断層活動によるものと考えられる加治川断層が分布する。月岡断層とその北側の加治川断層までは約12km離れているが、その間には沖積面が広く分布し、断層が伏在している可能性がある。このため、沖積段丘面の追跡等により、両断層の連続性について検討を進める。

調査内容:加治川断層については、小松原(1991)等により断層の活動性等に関する詳しい研究がなされている。加治川断層の活動性については小松原(1991)の研究成果を利用することとし、月岡断層から加治川断層までの約12kmの沖積面について空中写真判読を実施し、リニアメントの有無等について検討する。