(3)データ処理

データ処理は、当社保有の専用システムを用いて行なった。図2−2−11にシステム構成図を示す。図中、各ハードウェアからの吹き出しは、搭載しているソフトウェアの名称を示している。また同図に赤字で示した機器は、今回のデータ処理に使用したものである。

主な機器の性能と今回の処理での用途は、次のとおりである。

 種 類       名 称      性能     用 途

コンピュータ   SGI Power−Challenge 600Mflops   データ処理

  〃      SUN Sparc−IPX     20Mips    静補正

  〃      Convex C1−XP     40Mflops   データ転送

 プロッタ    Versatec 7424    白黒     プロット

  〃      HP 650C       カラー プロット

ソフトウェア   CSD Focus−2D           データ処理

今回のデータ処理で採用した手順は、図2−2−12に示したとおりである。以下では、図2−2−12に赤の星印で示した処理の詳細について述べる。

(1) 振幅調整

観測される地震波は時間と共に減衰してゆく。この原因は主として波頭面積の増大(エネルギーの幾何学的発散)にある。

振幅調整は、この減衰を補償するために行なわれるが、反射波の振幅を規格化された入射波に対する振幅(反射強度)に近づけることや、各種のフィルタ処理の効果を高めるために反射時系列の定常性を増大させることをも目的とする。

図2−2−13図2−2−14に、振幅調整前後のショット・ギャザーの例を示す。

(2) デコンボリューション(重合前)

振源から発せられた地震パルスは、地層の非弾性や観測システムのフィルタ作用によって歪められ、分解能の悪い波形となる。また反射トレースには層内マルチプルが混入するが、この効果も一種のフィルタ作用である。

デコンボリューションは、これらの作用を補償するために用いる逆フィルタである。

デコンボリューションの理論は地震波の統計的な性質にいくつかの仮定をして組み立てられているが、実際の統計的な性質が未知であることから、適用にあたっては試行錯誤的なテストによって決定するパラメタの選定が重要である。

今回は通常の(ウィナー・レビンソン型)予測デコンボリューションを、オペレータ長30ms、予測長20msとして用いた。設計及び適用ゲートは、それぞれ50〜600ms、及び全長とした。図2−2−15にデコンボリューション後のショット・ギャザーの例を示す。

(3) 周波数フィルタ(重合前)

反射トレースに含まれる各種雑音のうち、地震パルスと周波数帯域を異にする成分は周波数フィルタによって容易に除去できる。今回はテストによって、重合前フィルタの通過帯域を20〜100Hzと決め適用した。図2−2−16に周波数フィルタ適用後のショット・ギャザーの例を示す。

(4) 速度フィルタ

反射トレースに含まれる各種雑音のうち、地震パルスと周波数帯域が重なるものでも、反射波と軌跡の傾斜(見掛け速度)を異にするコヒーレントな雑音は、速度差を利用して除去できる。このために使用する2次元フィルタを総称して速度フィルタという。

今回は混入の認められたSV波や音波を除去する目的で、時間−距離領域の速度フィルタを使用した。除去した傾斜は、トレース当たり2.5〜6.0msの範囲である。図2−2−17に速度フィルタ適用後のショット・ギャザーの例を示す。

(5) 静補正計算(3D版)、静補正

観測点の標高の変化や、表層の速度や厚さの変化は、反射パルスに(観測における展開長=スパンと比較して)長周期及び短周期の位相ずれを与える。これらはいずれも、CDP重合法と重合後マイグレーションを基本とするイメージング法では補償できない。そこで浅部の速度構造を別途に解析し、それをもとに(一般に表層の下位に設定する)基準面(データム・レベル)での仮想的な観測走時に変換することを行なう。これを静補正という。

今回は読みとった初動走時をもとに、測線の屈曲を考慮して3次元のトモグラフィックなアルゴリズムを採用し、タイム・ターム法による解析を行なった。データム・レベルは、次のとおりとした(間は直線的に内挿)。

SP(距離程)    データム・レベル

   0m         GL +10m

 1455m +20m

2455m +45m

解析結果を図2−2−18に示す。また静補正を施さない場合と施した場合の重合断面の一部を、図2−2−19(a)、図2−2−19(b)に示す。

(6) DMO

CDP重合法(より正確にはCMP重合法)においては、速度構造の設定やイメージング操作が地下座標(CDP)系ではなく、地表座標(CMP)系で行なわれる。その結果、傾斜した反射面上の各反射点には、CDP毎に別々の座標が割り振られることになる。そしてこの不具合は、イメージング速度の見掛けの増大となって現れる。従って例えば不整合部のような、同一の地下座標に異なる傾斜の反射面が混在するような場所では、各々に対して適切な見掛け速度を与えることができないため、各々を同時にイメージングすることができないという不都合が生ずる。

DMO補正は、CMP重合法と地下座標系でのイメージング法(重合前マイグレーション)の中間的な手法であり、各反射点と地表座標を1対1に対応させることによって、地表座標系を用いる通常の手続きの範囲内で不具合を除去する手法である。今回の調査地には顕著な不整合構造が認められたので、コモンオフセット・ギャザーでのキルヒホッフ積分法によるDMOを適用した。静補正とDMOを施した重合断面の一部を、図2−2−19(c)に示す。

(7) 速度解析

CDPギャザーに含まれている(地表座標系での)共通反射点からの反射波は、重合速度を与えてNMO補正することによって同位相となる。この性質を逆に利用して、さまざまな速度を与えてNMO補正することによって、反射波が同位相となる場合を探し出せば重合速度が求まる。これが速度解析である。

今回は14ヶ所で速度解析を行なった。解析用の図面例を図2−2−20に示す。また解析結果を、重合断面に重ねる様式で図2−2−21に示す。

(8) ミュート

入射角の大きい反射パルスは、鉛直方向の見掛け速度(DMOに関連して述べた見掛け速度とは意味が異なる)が速いため分解能が悪い。そこでそのような部分を切取る操作を施す。これをミュートという。

今回は次のスキームでのミュートを行なった。

オフセット距離    ミュート走時

   0m          0ms

109m 0ms

110m 70ms

350m 170ms

450m 410ms

(9) 残留静補正

静補正を行なっても、ごく高周波の位相ずれは補正しきれないのが普通である。そこで統計的な手法によって、このようなずれをさらに補正することを行なう。これを残留静補正という。静補正とDMOに加えて残留静補正をも施した重合断面の一部を、図2−2−19(d)に示す。

(10)デコンボリューション(重合後)

重合前のデコンボリューションが理想的には働かないことによって残留する位相を、重合後に再びデコンボリューションを適用することによって取り除くことを、重合後デコンボリューション(DAS)という。

今回のデータには長周期と短周期の繰り返し位相が認められたので、次の要領でDASを2回適用した。

オペレータ長  予測長   設計ゲート   適用ゲート

  60ms      8ms 30 〜 400ms    全長

400ms 200ms  100 〜 1000ms 全長

DAS適用前後の重合断面の一部を、図2−2−22(b)に示す。

(11)周波数フィルタ(重合後)

DASによって増幅された低S/N帯域の周波数成分を除去するために、周波数フィルタを再び適用した。通過帯域は30〜100Hzとした。周波数フィルタ後の重合断面の一部を、図2−2−22(c)に示す。

(12)速度構造モデリング

速度解析の結果得られる重合速度は、簡単な計算によって区間速度に変換できる。しかしこうして得られる区間速度は一般に精度が良くないので、地質学的なセンスをも加味しつつスムージングによって速度構造をモデリングし、マイグレーションと深度変換に利用する。

マイグレーションと深度変換に用いた速度構造モデルを、それぞれ図2−2−23図2−2−24に示す。両図はそれぞれマイグレーション断面と深度断面に重ねて表示してある。

(13)マイグレーション

CDP重合が地表座標(CMP)系で行なわれるイメージングであることから、重合断面は真の座標系(地下座標系)では歪んで見える。この歪みは、例えば傾斜した反射面の見掛けの傾斜角や不連続部からの回折波として現れる。

そこで地表座標系と地下座標系を対応づける方程式(波動方程式)を用いて座標変換を行ない、歪みを取り除くことを行なう。これをマイグレーションという。今回は時間領域の差分法によってこれを行なった。マイグレーション後の断面の一部を、図2−2−22(d)に示す。

(14)深度変換

一連の処理の最後に時間軸で観測、処理された断面を、速度モデルを用いて伸縮させ深度軸で表現し直すことを行なう。これを深度変換という。