(3)粘土混濁水の電気伝導度測定

(1)粘土混濁水の電気伝導度測定法の概要

海成層と淡水層の互層からなっている未固結層、たとえば大阪層群に挟まれている海成粘土層は海進期に堆積していて、間氷期の堆積物と考えられている。こうした推定を検討するために行われたのが、粘土混濁水の電気伝導度測定法である。

電気伝導度は水溶液中のイオン量に支配されるので、その測定によって溶液中のイオン量の微妙な変化を知ることができる。また、自然水に含まれている陰イオンの量は淡水に比べて海水の方が多いのは当然であるから、粘土に含まれる陰イオンの量に着目し、その量を測定することによって粘土の堆積環境を推定できるはずである。

1987年に新しい試みとして大阪北方の千里山丘陵東端部で採取したボーリングコアの粘土試料を対象に、粘土混濁水の電気伝導度および水素イオンの濃度測定と硫酸イオンの定量が行われ、粘土混濁水の電気伝導度が古環境推定に非常に有効であることが実証された(横山・佐藤,1987)。その後の測定によっても追認されつつある(横山・佐藤,1989;小荒井ほか,1991;佐藤・横山,1992)。

粘土混濁水の電気伝導度測定(以下、電気伝導度測定と呼ぶ)には、次に示す4つの利点がある(第四紀試料分析法,日本第四紀学会,1993)。

@粘土混濁水は乾燥した粘土を粉砕し、一定量の水道水を加えて攪拌したものであるからサンプルが容易に入手できる。

A測定方法や装置は簡単でしかも実験誤差が小さい。一般に電気伝導度測定では誤差が1/100以下である。

B電気伝導度を支えている硫酸イオンは安定で、温度などの外界の条件が変化しても測定値に変化が少ない。また沈殿形である硫酸バリウムの溶解度が小さいため自然界での移動が少ないと考えられるうえに、沈殿法によって容易に定量ができる。

C乾燥したサンプルを用いるため、長期間放置あるいは貯蔵されていた場合など、どんな状態の試料でも使用できる。

(2)分析実施機関

株式会社 クレアテラ(CREATERRA INC.)

(3)分析期間

分析開始:平成10年2月3日

分析終了:平成10年2月17日

(4)試料採取

本調査における試料採取は、対象を熱田層に絞ることとした。これは、天白河口断層が熱田層に変位を与えているか否かが、その活動履歴の評価に重要と考えられるためである。これにより、前述のイオウ分析結果を補い、熱田層の対比に有意な指標となることが期待される。

試料採取にあたっては、深度24.2〜27.7mを50cm間隔で7区間(@〜F)に分け、それぞれの区間内から均等に試料を採取した。分析には試料採取用のコアを使用した。

(5)分析方法

採取試料は、ただちにビニール袋に保管し、採取区間を明記のうえ、以下の手順で分析を実施した(第四紀試料分析法,日本第四紀学会,1993)。

@試料ビン等に保管されている試料を約20g程度蒸発皿に取り、乾燥機中で温度110℃、48時間放置して乾燥させる。

A乾燥した試料を十分細かくなるまで粉砕し、正確に10.00g秤量してビーカーなどの容器に入れ、水(水道水を電気伝導度を測定してから用いてもよい)を120?加える。

B上記の試料を攪拌機によって3分間攪拌する。

C攪拌した試料は静かな場所で1時間放置し、粘土粒子を沈殿させる。

D上澄み液内の水面から5cmの深さで電気伝導度とpHの測定を行う。測定は攪拌後1時間経過後と5日経過後の2回行い、測定値に大きな変化がなければ後者を測定結果として採用する。大きく変化した場合は再測定する。(6)測定結果

本調査における電気伝導度測定結果を表2−2−8に示す。また、深度に対する電気伝導度の変化を図2−2−4に示す。

表2−2−8 電気伝導度測定結果

図2−2−4 深度に対する電気伝導度の変化

(7)考察

試料採取深度により電気伝導度が大きく異なる。

Aが最小で0.31mS/cm、Dが最大で3.37mS/cmである。電気伝導度の違いから、7試料を@〜CとD〜Fの2つのグループに分けることができる。このことから、2つのグループの間には、堆積環境の大きな差異があると予想される。

横山・佐藤(1987)は、未固結の粘土層における粘土混濁水の電気伝導度から、堆積時における古環境の推定を試みている。

それによると、千里山東縁部(大阪層群)のボーリングコアの場合、電気伝導度とpHの関係から、電気伝導度は海成粘土層で1.3〜3.0mS/cm、汽水成粘土層で0.4〜1.2mS/cm、淡水成粘土層で0.2〜0.4mS/cmという推定のもとに、電気伝導度と古環境を関係づけている(図2−2−5参照)。

図2−2−5 粘土混濁水の電気伝導度とpHの関係

この推定を本調査の対象である熱田層に単純にあてはめることはできないが、横山・佐藤が大阪層群以外にも多くの分析例を検証していること、本調査で得られた@〜Fにおける数値の分布範囲が概ね0.2〜3.0mS/cmの範囲内にあることから、熱田層の堆積環境の推定に、横山・佐藤の推定を目安のひとつとして適用することは間違いではないと言える。

これにより、電気伝導度測定結果からは、@〜Cを熱田層上部層、D〜Fを熱田層下部層の可能性が高いとして分けることができるが、本調査における熱田層の全体層厚がわずか3.7mであり、熱田層をいわゆる上部層と下部層に識別することは、今後のボーリング調査結果を含めて検討する必要がある。