(1)放射性炭素同位体年代測定(14C年代測定)

(1)放射性炭素同位体年代測定(14C年代測定)の概要

生物遺体中の放射性炭素14C濃度が、生物の死後、時間とともに減少することを利用した年代測定法で、現在から約5万年までの間に適用される。測定試料は木材・炭・貝殻・泥炭・骨などで、その中の14C濃度を放射能計測(β線計数法)あるいは加速器を使用した質量分析器で測定(AMS)するものである。

(2)分析実施機関

BETA ANALYTIC INC.

株式会社 地球科学研究所

(3)分析期間

分析開始:平成9年12月10日

分析終了:平成10年2月10日

(4)試料採取

本調査においては、南陽層上部から貝片1試料、南陽層下部から木材片2試料、熱田層から木材片1試料を採取し、測定用試料とした。

採取された試料からは、前処理・試料調製後、0.3g未満(10mg以上)のCarbonしか抽出できなかったため、β線計測法を採用できず、AMS法(加速器による14Cの質量分析)を行った。

(5)分析方法(第四紀試料分析法,日本第四紀学会,1993)

壊変定数を用いた年代測定では、指標核種(14C)の初期量(C0)、壊変量(C0−Ct)、現在量(Ct)のうち2つの量を測定し、壊変定数(λ)を用いて年代(A)を算出する。一般に初期量の一部は壊変して減少しているから、実際の測定は、壊変量(C0−Ct)と現在量(Ct)について行うことになる。年代を産出する一般的な式は、

式2−2−4−1

で示される。

壊変定数(λ)と、半減期(T1/2)の関係は、CtがC0の1/2になるときの年代(A)がT1/2であるから、T1/2=ln2=0.6931である。

14C年代測定法におけるパラメータは、一般的に次に示すようである。

指標核種:放射性炭素(14C),壊変定数 λ=1.22×10−3a−1

壊変生成核種:(窒素),半減期 T1/2=5568a

測定可能年代範囲:0−3×104a(GPC),(閉鎖系,減衰法,破壊法)

0−6×104a(AMS)

測定方法・機器:ガス比例計数管,液体比例計数管,加速器質量分析計

測定対象試料:生物遺体,測定される年代の意味:生物体の死滅した時期

成層圏で窒素原子と中性子の原子核反応によって生じた放射性炭素は、炭酸ガスとして対流圏に入り、大部分は直接大洋に溶け込むが、一部は光合成を通じて植物体内に入り、食物連鎖を通じて広く生物圏に広がる。生物体の生命活動が停止すると、新たな放射性炭素の補給は行われず、放射性炭素は5730年の半減期で減衰していく(初期の測定値と整合性を保つため5568年が用いられる)。

試料をメチレンなどの期待にしてガス比例計数管(GPC)で測定するβ線計数法では、測定時間内に新たに壊変した放射性炭素の量から、放射性炭素の残存量を推定する。従って、この方法は減衰法である。

ガス比例計数管方式(β線計数法)で炭素2〜3gを使用する場合の試料の必要量は、最小で木炭10g、木10g、泥炭100g、貝殻100gである。

新たに開発された加速器質量分析(AMS)による放射性炭素の現在量の直接測定による方法では、測定に要する試料の量がガス比例計数管による方法の約1/1000になり、適用できる試料の種類および量的な範囲が著しく広がった。

この方法では、放射性炭素の現在量の測定は可能であるが、壊変生成核種の窒素は天然にごく普通に存在する元素であるから、放射性起源の窒素の特定、つまり壊変量の測定はできない。従って、壊変量と現在量の総和である大気中の放射性炭素の初期量は常に一定であったという前提に基づいて年代を算出する。この前提に含まれる過誤を補正するため、年輪の放射性炭素年代測定と年輪年代の比較からMASCA補正値(ペンシルベニア大学)などが提案されている。

(6)測定結果

14C年代測定結果を表2−2−6に示す。

表2−2−6 14C年代測定結果

注)1.補正14C年代値:試料の炭素安定同位体比(13C/12C)を測定して試料の炭素の同位体分別を知り、14C/12Cの測定値に補正値を加えた上で算出した年代。

2.暦年代:過去の宇宙線強度の変動による、大気中14C濃度の変動に対する補正により暦年代を算出する。具体的には、年代既知の樹木年輪の14Cの詳細な測定値により、補正曲線を作成し、暦年代を算出する(Stuiver et al,1993;Vogel et al,1993,;Talma and Vogel,1993)。ただし、この補正は約10,000y.B.P.より古い試料には適用できない(2σは95%の確度、1σは68%の確度の値)。

(7)考察

年代測定試料の採取層準は、試料No.1(11.50m)が南陽層上部砂層、試料No.2(14.50m)および試料No.3(18.37m)が南陽層下部粘土層、試料No.4(25.20m)が熱田層上部にあたると考えられる。

名古屋港西地区ボーリングコア分析調査報告(1996)によると、南陽層上部(標高:−4.47m)で1,320±230y.B.P.、南陽層下部(標高:−15.43)で6,360±230y.B.P、熱田層上部(標高:−22.27m)で>53,880y.B.Pの年代値が報告されている(ボーリングTB−1の位置は、図2−2−3を参照)。層厚の変化による深度の違いが考えられるため、単純に比較することは出来ないが、深度と年代値の前後関係は、両ボーリング試料の間で良い一致を示していると言える。ただし、本調査の試料No.1は一個体の貝殻ではなく、貝片を集めたものを用いているので年代値の取り扱いには注意が必要かも知れない。

本調査の年代分析結果から、南陽層は少なくとも1,320±230y.B.P.から6,510±60y.B.Pまでの年代値を持つことが判明した。また、熱田層上部についてはTB−1で>53,880y.B.P、本調査で>54,390y.B.Pを示す。両試料とも、14C年代値としては測定限界値に近いため測定誤差等に不明な点を残すが、本調査の分析結果は、熱田層の形成年代は5〜6万年より古いであろうという、上記報告中の記述を補足する結果となった。

本調査においてボーリング試料から確認されなかった鬼界アカホヤテフラ(K−Ah)の降下年代(6500y.B.P.)に一致するNo.3の測定結果が得られた。このことから、深度18.37m付近の採取コアには、肉眼では確認されなかったものの、K−Ahがわずかに含まれている可能性が考えられる。

14C年代測定法は、約5万年前以降にしか適用できない。そのため、No.4の測定年代については、適用年代を超えている可能性がある。そのため、54390y.B.Pよりも古いとする測定結果は、あくまで参考値として取り扱うこととする。