2−1−5 解釈図面の作成及び考察

(1)探査位置及び記録

東海市新宝町で実施した浅層反射法探査測線の位置を図2−1−8に示す。また、本探査におけるショット記録を図2−1−11−1図2−1−11−2に示す。

図2−1−11−1は追加距離175,525,1050mで取得されたショット記録で、オリジナルのショットレコードにAGC(300msec)をかけたものである。図2−1−11−2は重合直前の記録で、Refraction Statics,Residual Statics,Spiking Deconvolution,AGC(300msec)及びF−K Filterの処理をしている。

測線南端に近い化学工場の影響を受け、北側での起震に対し、南側での受振データからの初動の判別がやや難しい。

全データに測線南方からと思われるリニアノイズが認められる。ノイズの周波数は約20〜25Hzである。

重合直前の記録では、F−K Filterにより、全体に卓越するリニアノイズが減衰されている。反射波は300〜700msecに認められる。

図2−1−11−1本探査中の記録(オリジナルのショットレコード)

図2−1−11−2本探査中の記録(重合直前の処理記録)

(2)深部断面の解析結果

深度1000mまでの深部断面の解析結果として、図2−1−12−1図2−1−14−3の図面を作成した。

図2−1−12−1 深部 時間断面図〈マイグレーション前〉

図2−1−12−2 深部 時間断面図〈マイグレーション後〉

図2−1−13  深部 速度構造図(時間断面)

図2−1−14−1 深部 深度断面図〈マイグレーション前〉(縮尺1/10,000)

図2−1−14−2 深部 深度断面図〈マイグレーション後〉(縮尺1/10,000)

図2−1−14−3 深部 深度断面図カラー表示〈マイグレーション後〉(縮尺1/10000)

図2−1−12−1の時間断面図〈マイグレーション前〉では、700〜850msecまで水平に連続した反射面が明瞭認められる。特に、追加距離600m〜2000mは連続性がよい。

図2−1−12−2の時間断面図〈マイグレーション後〉は、図2−1−12−1をマイグレーション処理したもので、傾斜した構造は正しい位置に修正されると共に、回折波がなくなり、記録が整理されているのがわかる。

時間断面図の上部に示す速度は、反射法の処理の仮定で得られた速度で、この重合速度(INTV)を測線方向に平滑化してコンターで結んだものが図2−1−13である。速度は表層付近でほとんど水平に分布し、深部になるにつれ速度が早くなっている。ただし、追加距離200〜800m付近では、速度構造がやや複雑になっている。表層から深度100mまでは1300〜1700m/sec、深度400mまでは2000m/sec以下、深度900mでは約3000m/secである。

図2−1−14−1図2−1−14−2の深度断面図は、図2−1−12−1図2−1−12−2の時間断面図を図2−1−13の速度構造に基づき深度に変換したものである。図2−1−14−3は、図2−1−14−2をカラー表示したものである。

図2−1−12−1 浅層反射法探査 深部 時間断面図〈マイグレーション前〉

図2−1−12−2 浅層反射法探査 深部 時間断面図〈マイグレーション後〉

図2−1−13 浅層反射法探査 深部 速度構造図

(縮尺:1/10,000)

図2−1−14−1 浅層反射法探査 深部 深度断面図〈マイグレーション前〉

(縮尺:1/10,000)

図2−1−14−2 浅層反射法探査 深部 深度断面図〈マイグレーション後〉

(縮尺:1/10,000)

図2−1−14−3 浅層反射法探査 深部 深度断面図カラー表示〈マイグレーション後〉

(縮尺:1/10,000)

図2−1−15 浅層反射法探査 深部 地質構造解釈図

(縮尺:1/10,000)

(3)深部断面の考察(地質構造解釈)

図2−1−15の地質構造解釈図は、図2−1−14−2深度断面図〈マイグレーション後〉に調査ボーリングB−1の層序と、地質資料による地層境界等の解釈を加えて作成した。最新名古屋地盤図(1988)の地質層序を参考に、表2−1−5に示す区分とした。

名古屋港周辺における温泉井戸の資料によれば、600〜700mで美濃帯中古生層や片麻岩・花崗岩などの基盤に達するものと、1000〜1200mを越えても第三紀層(東海層群)中のものがある。また、古本ほか(1987)の資料では、東海市新宝町周辺の中新統−鮮新統の境界深度はおよそ800〜900mとされている。

牧野内・中山(1990,アーバンクボタNo.29)によれば、東海層群に対比される知多半島の常滑層群は下記のように区分されている。

牧野内・中山(1990)の層序区分:本探査の記号

布土累層上部(最大層厚約300m): P4

布土累層下部(最大層厚約200m): P3

河和累層(最大層厚約180m): P2

豊丘累層(最大層厚約 85m): P1

図2−1−15の地質構造解釈図に示すように、東海層群は全体層厚が750〜850mであり、反射面の特徴から、比較的明瞭に4層に区分でき、かつ、それぞれの層厚もほぼ認定できる。この反射面の特徴及びそれぞれの層厚分布の傾向は、名古屋市港区潮見町(9号地)での探査結果とよく調和している。したがって、東海層群の解釈は、9号地での探査結果と同様に、本探査結果ともよく整合する牧野内・中山(1990)の層序区分を引用することとし、下位からそれぞれP1〜P4とした。

表2−1−5 層序表

図2−1−15の地質構造解釈図では、深度200〜900mの間に、測線南側から北側に緩く傾斜する明瞭な反射層が4層認められる。反射面のパターン及び古本ほか(1987)の資料などから、最下位の反射層(深度800〜900m)は中新統(M)に対比され、その上位の3つの反射層は東海層群(P1〜P4)に相当する。

深度100m以浅の地層は、後述の浅部断面で述べるが、東海層群(P4)のほかに、海部・弥富累層(Dm)や熱田層(D3)、第一礫層(D5)沖積層(A)に対比される。

第三紀中新世(M)〜鮮新世(P1〜P4)の地層を切る断層が、測線北側の追加距離350mと600mの2箇所に認められた。その形態は階段状北落ち(傾斜角70〜80度)の正断層である。9号地での探査では、水平距離約400mの間に4条(F1〜F4)の断層が推定されたが、本探査による明瞭な断層は2条(F1・F4)である。反射面のずれは、北側のF4(約60〜90m)が、南側のF1(約25〜40m)よりも大きく、9号地での探査結果とは逆である。断層帯の幅は約250mで、9号地の約400mから音波探査での約300mと、西側から東側に向かって狭まっている。なお、断層の変位量や累積性の有無についてはボーリング調査および年代測定・諸分析結果も含めて、総合解析において記述する。

F1・F4は、深度100m以浅の海部・弥富累層(Dm)に対比される地層の反射面も不連続にずらしている可能性が高い(後述)。

なお、測線南側(追加距離600〜1190m)では、断層は存在しないことが確認できた。また、測線北側(追加距離0〜350m)では、9号地での反射法探査及び海上での音波探査結果も含めて、断層は存在しないことがほぼ確実である。

以上のとおり、深部断面から下記の事項が把握された。

@東海層群(P1〜P4)の明瞭な反射面が認められ、測線北側(追加距離0〜350m)と南側(追加距離600〜1190m)は、反射面がほぼ水平に分布して乱れがなく、断層は存在しない。

A測線中央からやや北側(追加距離350mと600m)2箇所に、F1・F4の2条の断層が認められ、断層帯の幅約250mで、第三紀中新世の中新統(M)及び鮮新世(〜更新世)の東海層群を切っている。

B断層の傾斜はほぼ70〜80度で、その形態は階段状北落ちの正断層と考えられる。

(4)浅部断面の解析結果

深度150mまでの浅部断面の解析結果として、図2−1−16図2−1−18−2の図面を作成した。

図2−1−16  浅部 時間断面図〈マイグレーション前〉

図2−1−17  浅部 速度構造図(時間断面)

図2−1−18−1浅部 深度断面図〈マイグレーション後〉

(横:1/5,000、縦:1/1,000)

図2−1−18−2浅部 深度断面図カラー表示〈マイグレーション後〉

(横:1/5,000、縦:1/1,000)

図2−1−16の時間断面図〈マイグレーション前〉は、重合前後で低周波除去の帯域通過フィルターをかけるなどの再処理を行ったものである。反射面の連続性は、深部断面図に比べてあまり良くない。しかし、平成8年度の浅層反射法による浅部断面図に比較すると、反射面がよく現れている。深部ではかなり明瞭に反射面が認められることから、震源の起震力が不十分であったとはいえず、もともと浅部での高周波の反射記録に乏しかったためと考えられる。

反射法の処理の仮定で得られた重合速度(INTV)を測線方向に平滑化してコンターで結んだものが図2−1−17である。速度は深度40mから深度120mまでほぼ水平に分布し、深度120m以深では、追加距離300〜700mの区間で低速度帯となっている。深度100mまでは1300〜1650m/sec、それ以深は追加距離300〜700mで1750m/sec以下、その他の区間では1700〜1900m/secである。

図2−1−18−1の深度断面図は、図2−1−17の速度構造に基づき深度に変換したものである。図2−1−18−2は、図2−1−18−1をカラー表示したものである。

図2−1−16 浅層反射法探査 浅部 時間断面図〈マイグレーション前〉

図2−1−17 浅層反射法探査 浅部 速度構造図(時間断面)

(横:1/10,000、縦:1/1,000)

図2−1−18−1 浅層反射法探査 浅部 深度断面図〈マイグレーション後〉

(横:1/10,000、縦:1/1,000)

図2−1−18−2 浅層反射法探査 浅部 深度断面図カラー表示〈マイグレーション後〉

(横:1/10,000、縦:1/1,000)

図2−1−19 浅層反射法探査 浅部 地質構造解釈図

(横:1/10,000、縦:1/1,000)

(5)浅部断面の考察(地質構造解釈)

図2−1−19の地質構造解釈図は、図2−1−18−1深度断面図〈マイグレーション後〉に地質資料による地層境界等の解釈を加えて作成した。地質資料は、探査測線上に位置する3本のボーリング資料(MK3−1〜MK3−3:平成8年度収集)と探査測線の東側約230mに位置する4本のボーリング資料(地質断面図D:平成8年度作成)を採用した。

盛土(B)は、柱状図から判定できるだけで、反射記録からは不明である。

沖積層(A)は、N値0〜3程度の砂・シルト・粘土層からなり、上部砂層(層厚6〜14m)と下部粘土層(層厚8〜14m)に区分されるが、反射面の連続性は良くない。沖積層(A)全体としては、測線南側で深度約15m、北側で深度約25mの間に分布し、南から北に向かって厚くなっている。

濃尾第一礫層(D5)は、ボーリング資料では層厚2〜3mで連続分布するが、反射面は測線の北側で断続的、南側では不明である。

熱田層(D3)は、砂・シルト・粘性土からなり、分布深度は測線南側で14〜17m(層厚約3m)、北側で25〜34m(層厚約9m)である。反射面は不明瞭である。

海部・弥富累層(Dm)は、N値8〜15程度のシルト・粘土層、N値50以上の礫層と砂・シルト層からなり、測線北側(追加距離0〜350m)は深度50〜60mまで分布する。一方、測線南側(追加距離600〜1200m)は深度20〜25mと浅く分布する。測線中央(追加距離350〜600m)は、探査測線上の既存ボーリングがないが、反射パターンと測線東側のボーリング資料の投影から深度32〜38mまで分布するものと推定した。

東海層群(P4:常滑層群布土累層上部に相当)の上面は、測線南側(追加距離600〜1200m)は深度20〜27mと浅く分布するものと推定されるが、既存ボーリングが深度不足のため不確実である。一方、測線北側(追加距離0〜350m)のP4上面は、反射パターンと既存ボーリング資料から、深度50〜60mにあるものと推定される。また、測線中央(追加距離350〜600m)では、同様に深度32〜38mにあると推定される。しかし、これらのP4上面の深度は、測線南側と同様に既存ボーリングが深度不足であり、確実なものではない。

深部断面で認められた東海層群(P4)を切る断層は、浅部断面では反射面の連続性があまり良くないため幾分不明瞭であるが、F1・F4はともにP4層上面まで反射面をずらしており、かつ、海部・弥富層(Dm)の一部を変位させて、濃尾第二礫層(Dm)の付近で断層活動を停止しているように読みとれる。P4層上面の断層両側の比高差は、F1で約5m、F4で約15mであり、F1・F4の両側で約20mである。ただし、上記のように、F1断層南側のP4層上面は、濃尾第二礫層により削剥されており、断層変位量は不明である。

熱田層(D3)、濃尾第一礫層(D5)及び沖積層(A)などの新しい地層については、今回の反射記録及び既存ボーリング資料から断層変位を読み取ることができない。

以上のとおり、浅部断面の反射面の連続性はあまり良くなく不明瞭であり、かつ、既存ボーリング資料による地層の対比であることから、確実性に欠けるが、下記の事項が把握された。

@深部断面で把握されたF1・F4

断層は東海層群を切っており、かつ、海部・弥富層の一部を変位させて、濃尾第二礫層の付近で断層活動が停止している可能性がある。

Aその上位の更新世中期〜後期の熱田層や完新世の沖積層などの新しい地層の変位については不明である。

B東海層群や海部・弥富累層の変位量及び上位層も含めた地質分布等については、反射面と既存ボーリング資料による推定であり、正確な情報は今後の確認調査で明らかにする必要がある。