2−3−1 音波探査の概要

(1)探査概要

@目的

マルチチャンネル音波探査は、海底下の地層の連続性や地質構造の把握、断層の通過位置等を把握するために実施した。

A探査位置および探査仕様を決定した理由

 探査位置の候補地としては、名古屋港北航路の東側(潮見町9号地西側)、潮見橋を通過する9号地の東側航路等が挙がった。北航路の東側は船舶の航行数が多く、船尾にストリーマーケーブルを曳航して探査を実施することを考慮すると、安全上問題があるとの判断で、本調査位置が決定された。

 探査方法については、マルチチャンネル反射方式およびベイケーブル方式が提案され、予算面等の制約からマルチチャンネル反射方式が決定された。

 マルチチャンネル音波探査は、調査船に音波探査装置を搭載して、音源のエアガンと受波器(ストリーマーケーブル)を所定の深度と距離で船尾より曳航して行われる。断層調査を目的とした大深度の地質構造調査には、ストリーマーケーブルを600m程度曳航しておこなっている。しかし、この方法では、船舶の航行の激しい航路付近や、港内や狭い海域での適用は困難である。従って、探査仕様については、調査の安全を考慮して、ストリーマーケーブルの出来るだけ短いものが採用された。

B測線の位置(活断層との関連)および測線長

 本調査の対象となる天白河口断層は、名古屋市市街域に近接した活断層で確実度U(「新編:日本の活断層(1991)」)とされている伏在断層であるが、天白河口断層の存在位置にしても、文献により異っていて、十分な把握がなされているとはいえない。

 このために、天白河口断層の通過位置を確実に捉える必要があり、調査測線をできるだけ長く計画した。測線長は、港内の地形を考慮して、ガーデン埠頭先〜潮見橋〜東海市東海町に至る線上5Kmが決定された。測定位置は、図2−3−8の音波探査測線図に示した。

C探査対象深度(又は目的深度)

 探査対象深度は、新第三系の東海層群(矢田川累層)の変位・変形を把握するには、大深度までの地質構造の把握が必要であるが、今回、決定されたマルチチャンネル音波探査装置では、技術的に困難(50mのストリーマーケーブルで取得されたデータでは、大深度までの十分な処理ができない)なため、300m以上と決定された。

D探査実施期間

 現地探査は、船舶航行量の少ない日曜日を設定して実施した。

  現地準備・探査 :平成8年8月24〜25日(現地調査は、8月25日に実施)

E従事技術者

 国際航業(株)東日本事業本部 海洋エンジニアリング部 調査2G

宮野 正実

    酒井 健二

国際航業(株)東日本事業本部 地質一部 地質G

林  雅一(技術士:応用理学)

F探査作業の概要

1)計画・準備

 現地調査に先駆け、関係機関への調査内容の周知徹底および作業協力のお願い、ポスターによる関係者への周知、海上保安部への作業許可申請等の手続きを行った。

 海上位置測定のために必要な従局点・誘導点を設置するために、基準点測量を行い3点の基準点を決定した。

2)探査作業

 調査は図2−3−1に示すように、マルチチャンネル音波探査装置、音響測深機および電波測位システムを調査船に搭載し、音源のG.Iガンとストリーマーケーブル(受振ケーブル)を船尾から所定の距離および深度で曳航して行った。

 調査船は図2−3−2の概念図に示すように速度を約2〜3 ノットに保ち、所定の距離間隔(8.0m間隔)で音波の発震・受波を繰り返しながら調査測線上を航行した。調査は、音波の発震・受信間隔が4.0m間隔になるように、同一測線を2回航行してデータの取得を行った。

 音源で発震された音波は、海底面、地層境界面などで反射し、再び海面に戻ってきたところをストリーマーケーブルで受振される。曳航されるストリーマーケーブルは波浪、スクリューなどの雑音を避けるため出来るだけ船尾から遠く、海面下3mに沈めて実施した。

ストリーマーケーブルで受振される反射波は、船上のマルチチャンネル音波探査装置でアナログ信号からデジタル信号に変換し、磁気テープに収録した。マルチチャンネル方式は、共通反射点(CDP)重合法とコンピューターによるデジタルフィルター処理の適用により、従来のシングルチャンネル・アナログ方式による記録断面図と比べ、 S/N(信号/雑音)比の改善と地層分解能の向上が飛躍的に図ることができる。

 上記のCDP重合は、発震を計画測線上で等間隔で繰り返して得られる記録を用いる。このため、調査船が計画測線上を航行するように、トランシットと無線機を使用して直線誘導を行った。発震点間隔の制御は、電波測位システムで得られる基点(従局点)からの距離を基に行った。

なお、南側の調査海域では、潮見橋の下が狭海域であり調査船は航路中央部を航行するしか方法がないことと、泊地となっているため停泊している船舶および錨索を避けて探査を行った。このため、調査測線は測線が湾曲しないよう、直線性を優先したために、南側と北側の2本にわかれている。

G探査状況

現地探査状況は、巻末資料2−Aの現地調査写真にとりまとめた。