2−1−2 文献リスト・主要文献の概要

平成8年度調査で収集した文献リストは、表2−1−1のとおりである。このうちから天白河口断層の存否の評価に直接関連する主要文献を選定し、その概要を「文献抄録」としてとりまとめた(巻末資料1−@)。

(1)地形地質

 調査地域の地形は、天白川の中・下流域から河口・海域にかけて、丘陵・台地・沖積低地・干拓地・埋立地の地形単元に区分される。台地面は高位・中位・低位の3種の段丘面に細分され、天白川の河口域では、その左岸側に低位段丘面が連続分布している。

 図2−1−1は、調査地域を含む、濃尾平野および周辺地域の層序とその形成史の概要を示したものである。図2−1−2に、最新名古屋地盤図(1988)を基に作成した地質図を示す。

 天白河口断層は、天白川の河口・海域部の沖積低地・干拓地・埋立地の地下に存在するものと推定されている(活断層研究会、1980・1991、最新名古屋地盤図1988、名古屋地域地質断面図集1987)。「1:25,000 都市圏活断層図(建設省国土地理院1996)」では、「名古屋市港区および南区の天白川(下流)沿いに“天白河口断層”の存在が指摘されている。明瞭な変位地形は確認されないため、本図幅には記載していないが、今後調査が必要である。」としている。

図2−1−1 濃尾平野および周辺地域の層序とその形成史

(桑原「名古屋地域地質断面図集:解説(1987)」から一部改変を引用)

図2−1−2 最新名古屋地盤図による地質図(1/50,000)

調査地域の地下を構成する地層の分布と構造は、図1−3−1に示されるようになっており、下位から鮮新世の東海層群(矢田川累層)、更新世中期の海部・弥富累層(第二礫層・第三礫層を含む)、更新世後期の熱田層、大曽根層・鳥居松礫層、第一礫層、濃尾層および完新世の沖積層(南陽層)が分布する。

 東海層群矢田川累層は、礫層・砂層・粘性土層よりなり、変位基準となる火山灰層や亜炭層をはさむ。熱田層の下位に分布する更新統(洪積層)は、旧「名古屋地盤図」で八事・唐山層とされていたが、「最新名古屋地盤図」では、更新世前期・中期層の地質時代区分の再検討を行い、それが海部・弥富累層であることを明らかにした。熱田層は、砂層を主体とする最下部、厚い海成粘土層からなる下部、軽石をはさむ砂層からなる上部に分けられる(最新名古屋地盤図)。熱田層上部にある軽石は御岳火山起源で、基底部付近のものがPm−T(Kobayashi.Kほか,1967)、その他のものはPm−V(小林国夫ほか,1967)とされている。大曽根層、鳥居松礫層および第一礫層は、最終氷期の最大海面低下期に向かって海面が低下してゆく過程で生成した、礫層を主体とする一連の堆積物である。濃尾層および南陽層は、最終氷期次降の堆積物で、更新世後期から完新世にかけての沖積層である。濃尾層は、N値が異常に大きく、16,000−18,000年の14C年代を示す(古川博恭,1972)。南陽層は、下部粘土層・上部砂層・最上部粘土層に分けられ(最新名古屋地盤図)、下部粘土層基底の14C年代は9,000−11,000年の値を示す(井関ほか,1982)。

 図2−1−3は、調査地域を含む伊勢湾周辺地域における、第四紀後期以降の氷河性海面変動曲線を示したものである。第二礫層と第一礫層の2時期に顕著な海面低下期がある。

図2−1−3 伊勢湾周辺地域における氷河性海面変動曲線(桑原ほか,1982)

(2)地質構造(天白河口断層に関連する)

 第四紀更新世中期(約100万年前)になると、図2−1−4に示されるように、かつての東海湖域は、断層運動によっていくつかの地塊ブロックに分かれ、それぞれの地塊ブロックが、上昇あるいは沈降と、個別の運動を始めた(最新名古屋地盤図)。天白河口断層は、濃尾傾動地塊(傾動盆地)の南東縁を限る構造線であり(桑原 徹,1976)、この傾動地塊の北西縁を限る養老断層・伊勢湾断層とは共役断層の関係にある(桑原 徹,1985.濃尾平野の地盤沈下と地下水)。

図2−1−4 東海湖盆域の断層地塊への細分化(桑原 徹,1969)

図2−1−5に示されるように、名古屋市域の東部丘陵地域に分布する八事・唐山層の基底面(東海層群の上面)は、西に傾く東山丘陵域と北北西に傾く天白川南部域とで著しく不連続なパターンを示しており、これは天白河口断層の活動による変形とも考えられる(最新名古屋地盤図)。

図2−1−5 八事・唐山層の基底面等高線図(T.P.基準,m)

 天白河口断層のこれより西方への延長は、「名古屋地域地質断面図集」の4本の南北断面図と2本の東西断面図に、その存在が記載されている(図1−3−1)。解説書によれば、「天白河口断層は、東北東−西南西方向に延び、相対的に北側のブロックが落ちる正断層であり、海部・弥富累層より古い地層を変位させている。」とされている。

 これらの地質断面図は、断面線に隣接するメッシュ(東西約2.3Km南北約1.9km)内のボーリング資料、あるいは、断面線より1メッシュ以上離れたボーリング資料(柱状図が不足する所)をもとに作成されている。

 図2−1−6には、下記に示した文献による天白河口断層の推定位置を図示した。

最新名古屋地盤図(1988)

名古屋地域地質断面図集(1987)

新編日本の活断層(1991)

図2−1−6 天白河口断層に関する位置図

表2−1−1−1 収集した文献リスト −その1−

表2−1−1−2 収集した文献リスト −その2−