(6)舞岳付近

1)千々石断層

千々石断層は、舞岳付近では古期雲仙火山の溶岩を南落ちに変位させている。舞岳溶岩(古期雲仙火山後期:260ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は71mで、平均変位速度は0.27m/千年であり、活動度はB級である。

リニアメント位置において、道路法面に古期雲仙火山の自破砕溶岩や火砕流堆積物が、ほぼ垂直な崖で、崖錐堆積物やローム層と接している露頭を確認した(図7−1の地点H)。露頭の位置や走向が一致することから、千々石断層の断層運動に関連した露頭と考えられる。

断層落ち側には崖錐堆積物上に堆積したローム層の下部に姶良−Tn火山灰(2.6〜2.9万年前)が混入している。また、ローム層上部には西暦1427−1484を示す炭化木を挟在していることから、15世紀以降にこの断層が活動した可能性もある。

2)千々石断層南分枝

 千々石断層は田代原の東端付近で南へ分岐する。この千々石断層南分枝は古期雲仙火山後期の溶岩を南落ちに変位させている。矢筈岳溶岩(古期雲仙火山後期:260ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は19mで平均変位速度は0.07m/千年であり、活動度はC級となる。

a)千々石断層南分枝の派生断層

千々石断層南分枝リニアメント位置の東西方向の谷の北側の林道法面において、姶良−Tn火山灰を変位させる断層露頭が確認された(図7−1の地点I)。

トレンチ調査の結果から、この断層は走向がN40Wの南落ちの断層であることが確認され、その走向から千々石断層南分枝の派生断層と考えられる。

古期雲仙火山後期の舞岳の火砕岩(260ka)上面の上下方向の変位量は約2.5mで、平均変位速度は0.01m/千年とC級を示す。この断層は礫石原火砕流堆積物(1.9万年前)やその上位の湯江川火砕流堆積物(仮称:1.6万年前)を変位させていることから、16,000年前以降に活動したと考えられるが、鬼界アカホヤ火山灰層(7,300年前)には変位は認められない。

3)九千部岳T断層

九千部岳T断層は舞岳付近で古期雲仙火山後期の溶岩を南落ちに変位させている。舞岳溶岩(古期雲仙火山後期:260ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は60mで、平均変位速度は0.23m/千年となり、活動度はB級を示す。

松岡他(2004)は、鬼界アカホヤ火山灰を1m以上変位させている九千部岳T断層の断層露頭を報告した(図7−14図7−1の地点J)。本調査における同露頭での年代測定結果からは、断層上部を覆う表土が14〜15世紀の年代を示したが、人為的に撹乱されている可能性が高い。

鬼界アカホヤ火山灰(7,300年前)を1m以上変位させていることから、平均変位速度は0.14m/千年以上と考えられる。

a)九千部岳T断層派生断層

 九千部岳T断層の北側に、九千部岳T断層に平行な南落ちの断層露頭が確認された。周辺の地表にはこの断層による変位地形は認められない。この断層の活動時期は不明である。

4)九千部岳U断層

九千部岳U断層は、舞岳付近において新期雲仙火山の溶岩に南落ちの逆向き低崖を形成している東西走向の断層である。妙見岳溶岩(新期雲仙火山:19ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は12mで、平均変位速度は0.63m/千年とB級を示す。

リニアメント位置に、新期雲仙火山の火砕流堆積物が、リニアメントに平行な、ほぼ垂直な面を境に、崖錐堆積物と接する露頭が確認された(図7−1の地点K)。断層落ち側の崖錐堆積物の上位に二次堆積したと考えられる黒ボクが堆積している。この黒ボクは西暦1476−1634という年代値を示したことから、15世紀以降に発生した地震により、二次堆積した可能性がある。