(4)愛野−千々石

1)千々石断層

千々石断層は、愛野町から千々石町にかけて中位扇状地U面を構成する古期雲仙火山麓扇状地を南落ちに変位させている。断層落ち側は橘湾及び沖積面下に埋没していると推定される。

リニアメント位置において、古期雲仙火山後期の扇状地堆積物を変位させている断層露頭が確認された(図7−1の地点D)。道路工事に伴う掘削により断層落ち側は削剥されており変位量や活動時期は不明である。断層面に垂直な条線が認められたことから、横ずれ成分を持たない正断層であることが確認された。

断層上り側の中位扇状地U面(古期雲仙火山後期:309ka)を基準面とした上下方向の位量は、断層落ち側に中位扇状地U面が存在しないことから30m以上と考えられ、平均変位速度は0.10m/千年以上となり、活動度はB級である。活動時期に関する情報は得られていない。

2)小倉断層

小倉断層は千々石断層から分岐する、古期雲仙火山後期の溶岩を南落ちに変位させる西南西−東北東走向の2条の断層である。

松岡他(2004)によるトレンチ調査の結果、小倉断層に平行な比高約1mの低崖が確認された。断層周辺には断層に平行な割れ目が発達しており、割れ目中に落ち込んだ土砂に姶良−Tn火山灰の混入が確認された(図7−12図7−1の地点E)。

このことから、小倉断層の最新活動時期は、姶良−Tn火山灰降下(2.6〜2.9万年前)以降と考えられる。姶良−Tn火山灰降下以降の変位量が約1mであることから平均変位速度は0.04m/千年以上と考えられる。

鉢巻山溶岩(古期雲仙火山前期:327ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は145m以上で平均変位速度は0.44m/千年以上、九千部岳溶岩(古期雲仙火山後期:191ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は30〜35mで、平均変位速度は0.16〜0.18m/千年であり、活動度はB級となる。

3)九千部岳T断層

九千部岳T断層は、九千部岳西方の古期雲仙火山後期の九千部岳溶岩を南落ちに変位させている断層である。

九千部岳溶岩(古期雲仙火山後期:199ka)を基準面としたときの上下方向の変位量は122mで、平均変位速度は0.61m/千年となり、活動度はB級とである。九千部岳T断層の活動性に関する情報は得られていない。

4)白新田断層

白新田断層は九千部岳T断層から分岐するようにみえる、西南西−東北東走向の断層である。活動のセンスは北落ちで、他の北縁断層帯の断層と異なる。山間低地の崖錐堆積物面上に比高約6mの北落ちの低崖を形成しているが、東西延長部の古期雲仙火山の山体には変位地形は認められない。

リニアメント位置における群列ボーリングの結果、崖錐堆積物上面には断層による変位は認められない(図7−13図7−1の地点F)。崖錐堆積物上に姶良−Tn火山灰が堆積しているのが確認されたことより、少なくとも、姶良−Tn火山灰降下(2.6〜2.9万年前)以後は活動していないと考えられる。

姶良−Tn火山灰に覆われる崖錐堆積物の上下方向の変位量が6mであることから、平均変位速度は0.2m/千年以下と考えられる。