(1)火山灰分析の結果

島原半島では雲仙火山の溶岩や火砕流堆積物、及びそれらが2次的に移動した土石流堆積物や岩屑なだれ堆積物が広く分布しており、地層の対比が難しい場合が多い。

地形・地質調査やボーリングコアについて、地層対比や堆積時代を検討するために、雲仙火山の火砕流や広域テフラを同定する目的で、火山灰分析を実施した。

分析試料は露頭、トレンチ法面及びボーリングコアにおいて、肉眼観察により火砕流及び火山灰層の可能性のあるもの選んで採取した。また、ボーリング試料については水洗した後の残渣を検鏡し、火山ガラスの含有量の多い層準について、火山ガラスの由来を確認するため火山灰分析を行った。

分析項目は鉱物組成分析、重鉱物分析、火山ガラス形態分類及び火山ガラス屈折率測定を実施した。広域テフラの確認のため、1試料については、広域テフラ(阿蘇4)の同定を確実にするため、鉱物屈折率測定をあわせて実施した。

火山灰分析結果の一覧表を表4−2に示す。詳細な分析結果を巻末資料に示す。

個々の分析試料採取地点・採取層準及び分析結果に関する考察については、4章の調査結果に示した。

島原半島地域では、火山ガラス屈折率が1.5前後を示す火山灰が各層準に多く認められる。これらの屈折率1.5前後を示す火山灰の一部は、火山ガラスの色や形態から姶良−Tn火山灰(AT)(26−29kaに降下)と判定される。しかし、それ以外のものは調査地域の各層準から産出し、雲仙火山の噴出物と考えられ、一覧表では雲仙系とした。

このように雲仙地域では火山ガラスの屈折率では雲仙火山噴出物の対比は困難である。これらの火山灰を区別できれば雲仙火山の噴火史を解明するための有効な手段となる可能性がある。火山ガラスの化学成分分析や随伴する鉱物の屈折率・化学分析によってはこれらが区別される可能性もあり、今後の研究の進展が期待される。

本調査では、時代的に従来知られていなかった3つの火砕流を識別した。雲仙火山における火山層序を検討するため、これらの新規の火砕流や、従来知られていた雲仙火山の火砕流について、火山灰分析を行った。火砕流の分析については次項に示す。

一方、調査地域における対比に有効な広域テフラとしては、上述の姶良−Tn(AT)火山灰(26−26a)他に、鬼界アカホヤ(K−Ah)火山灰(7.3ka)と阿蘇4(Aso−4)火山灰(85−90ka)が識別された。なお本報告書においては、これらの広域テフラの降下年代(暦年)は町田・新井(2003)に従う。