(1)千本木付近の地形

島原市千本木付近は、垂木台地から東の島原湾へ流下する中尾川によって形成された扇状地(低位扇状地V面)が広がっている(図4−33)。この扇状地の東端部海岸付近には島原城がある。1792年の地震の際には島原城から武家屋敷にかけて、東西方向の地割れが2条(一部3条)できたことが古文書に記されている(図4−33図3−8)。

古期雲仙火山新期の溶岩を南落ちに変位させる千本木断層の断層崖の東端部付近で行われた道路工事の法面に、古い岩屑なだれ堆積物を覆うローム層と崖錐堆積物が、急傾斜面を境に接する露頭が確認された(図4−33図4−34の@AB)。この急傾斜の境界が断層である可能性もあるが、境界の上部を鬼界アカホヤ火山灰(K−Ah)層が覆っており、少なくとも7,300年前以降は活動していないと考えられる(図4−34、写真・スケッチB)。

また、千本木断層の断層崖の東端部における掘削面に、千本木断層にほぼ平行な割れ目(走向傾斜:N75E90、N820W65S等)が多く見られた(図4−35、写真D)。千本木断層の活動に伴う割れ目系である可能性があるが、表層に被覆層がなく、変位量や時期については不明である。

千本木断層の断層崖の東方延長付近には、リニアメント延長を横切るように、南西−北東方向の古期雲仙火山の高まりがあり(図4−33)、地表を六ツ木火砕流堆積物(4ka)が覆っている(図4−36、写真G)。

平成噴火以前の空中写真や地形図では、この台地上のリニアメント延長位置に、南下がりの段差地形が認められる。現在は道路工事等に伴う掘削のために地形改変されており、六ツ木火砕流堆積物が変位しているかどうかは確認できない(図4−36、写真E、F)。

この高まりのさらに東側の低位扇状地V面に、変位地形が認められないことから、この台地の段差は断層地形であったとしても、六ツ木火砕流堆積以前の古い地形である可能性もある。

低位扇状地V面上には、東西方向の直線的な段差地形が認められる(図4−33図4−37の写真H、I、J)が、何れも連続性が悪く、扇状地面上を流下した河川の浸食崖の可能性が否定できない。

また、低位扇状地V面の分布域には、眉山の北麓に沿って、比高数十mの島原岩屑なだれ堆積物の流山が点在している。島原岩屑なだれの時代は不明であるが、その分布から、眉山形成(4ka)以後の可能性もある。

以上に示したように、千本木断層の東方延長部には、断層の存在を示す可能性のある地形や地質が分布するものの、断層の存在を示す明瞭な情報は得られなかった。