(5)火山灰分析

a)平成15年度調査(橘湾北部)

鏡下観察結果から火山灰層の可能性がある30試料について、鉱物組成、重鉱物組成、火山ガラスの形態分類、火山ガラスの屈折率測定を行った結果を表5−2−3に示す。

今回の火山灰分析試料は、コアから採取は5cmごとに採取した試料を用いた。したがって、火山灰の純層から選択的に試料採取をしたものではなく、層厚の薄い火山灰層の場合は他の砕屑物と混合した情報になっている。また、堆積構造などの岩相を考慮して採取していないことから、再堆積した火山灰層との明確な区分も困難である。火山灰層の認定及び各火山灰層の対比に際してはこれらを考慮した。

分析を行った30試料のうちTAT03−1(175−180cm)、TAT03−1(340−345cm)、TAT03−1 (525−530cm)、TAT03−04 (155−160cm)、TAT03−04(300−305cm)およびTAT03−04(450−455cm)の6試料については、火山ガラスの含有率が10%以下と少ないこと、その他の鉱物粒子に円磨されたものが認められることから、ここでは火山灰層として認定しなかった。

火山灰層とした24試料について、各試料の岩石学的特徴及び産出層準を検討した結果、11層の火山灰層を識別した。これらを上位からそれぞれ火山灰層1〜11と呼ぶ。

以下に各火山灰層の記載岩石学的特徴を示す。

(i) 火山灰層1

挟在層準 TAT03−13(420−425)、TAT03−11(465−470)

火山ガラスおよび長石の含有率が多く、それぞれ40%以上である。重鉱物は、斜方輝石・単斜輝石を多く含み、角閃石を含む。火山ガラスの形態はHa、Hb型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.490、1.503−1.518(1.504−1.509)を示す。

(ii) 火山灰層2

挟在層準 TAT03−01(390−395cm)、TAT03−04(315−320cm)

火山ガラスの含有率は30〜50%程度。重鉱物は斜方輝石・単斜輝石を多く含み、また角閃石も含まれる。火山ガラスの形態はCa型・Ta型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.495−1.509(1.502−1.509)を示す。

(iii) 火山灰層3

挟在層準 TAT03−13(610−615cm)、TAT03−11(690−695cm)、TAT03−04(330−335cm)

火山ガラスの含有率は70%程度。重鉱物は斜方輝石・単斜輝石を多く含み、また角閃石も含まれる。火山ガラスの形態はCa・Ta型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.504、1.508、1.510−1.509(1.514−1.515)を示し、複数のモードがみられる。TAT03−04の330−335は火山ガラスの含有率が40%程度と少ないが、その他の特徴が一致するので火山灰層3とした。

(iv) 火山灰層4

挟在層準 TAT03−13(620−625cm)、TAT03−11(735−740cm)

火山ガラスの含有率は50〜60%程度。重鉱物は斜方輝石・単斜輝石を多く含み、角閃石も多く含む。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.502−1.517(1.504、1.509、1.514−1.517)であり、複数のモードがみられる。

(v) 火山灰層5

挟在層準 TAT03−01(405−410cm)

火山ガラスの含有率は30%程度、長石を60%程度含む。重鉱物は斜方輝石・単斜輝石を多く含み、また角閃石も含まれる。火山ガラスの形態はCa型・Hb型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.505−1.513 (1.510−1.513)を示す。

(vi) 火山灰層6

挟在層準 TAT03−13(900−905cm)、TAT03−11(1005−1010cm)、TAT03−01(640−645cm)、TAT03−04(550−555cm)

火山ガラスの含有量は50%程度。重鉱物は角閃石を多く含み、斜方輝石・単斜輝石も多く含む。火山ガラスの形態はHa・Hb型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.503−1.513(1.507−1.509)であり、明瞭なモードを示す。

(vii) 火山灰層7

挟在層準 TAT03−13(1080−1085cm)

火山ガラスの含有率は72%程度。重鉱物は角閃石・斜方輝石を多く含み、単斜輝石も多く含む。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.503−1.511(1.504−1.509)である。

(viii) 火山灰層7’

挟在層準 TAT03−11(1190−1195cm)

火山ガラスの含有率は81%程度。重鉱物は角閃石・斜方輝石・単斜輝石を多く含み、黒雲母も含む。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.503−1.511(1.504−1.509)である。本火山灰層は火山灰層7と重鉱物以外の特徴は極めて類似するが、黒雲母を含んでおり異なる火山灰層である可能性があることからここでは火山灰層7’とした。

(ix) 火山灰層8

挟在層準 TAT03−04(870−875cm)

火山ガラスの含有率は41%程度。重鉱物は斜方輝石を多く含み、単斜輝石・角閃石を伴う。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.494、1.497、1.501−1.508(1.494、1.497、1.504−1.509)で、複数のモードがみられる。

(x) 火山灰層8’

挟在層準 TAT03−01(870−875cm)

火山ガラスの含有率は28%程度。重鉱物は角閃石・斜方輝石・単斜輝石をそれぞれ25%程度含む。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.493−1.495、1.500−1.510 (1.494、1.503−1.505)で、複数のモードがみられる。本火山灰層は火山灰層8と層位的な位置や火山ガラスの形態で類似しているが、火山灰層8と比較し、角閃石がや少なく、斜方輝石がやや多いことから、異なる火山灰層である可能性も否定できないことからここでは火山灰層8’とした。

(xi) 火山灰層9

挟在層準 TAT03−13(1355−1360cm)

火山ガラスの含有率は56%程度。重鉱物は角閃石・斜方輝石・単斜輝石を多く。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.496−1.510、1.511−1.515、1.517−1.519(1.503−1.509、1.513、1.518) で、複数のモードがみられる。

(xii) 火山灰層9’

挟在層準 TAT03−11(1355−1360cm)

火山ガラスの含有率は57%程度。重鉱物は角閃石・斜方輝石・単斜輝石を多く。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.502−1.518(1.508−1.515) である。本火山灰層は火山灰層9と火山ガラスの形態や重鉱物組成では極めて類似しているが、火山ガラスの屈折率が火山灰層9では複数のモードが見られ必ずしも一致するとはいえないことから、ここでは火山灰層9’とした。

(xiii) 火山灰層10

挟在層準 TAT03−01(1095−1100cm)

火山ガラスの含有率は43%程度。重鉱物は角閃石が60%程度を占め、斜方輝石・単斜輝石がそれに伴う。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.498−1.501、1.505−1.511(1.507−1.509)である。

(xiv) 火山灰層10’

挟在層準 TAT03−04(970−975cm)

火山ガラスの含有率は25%程度。重鉱物は角閃石と斜方輝石が主体で、単斜輝石がそれに伴う。火山ガラスの形態はHb・Ca・Ha型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.493−1.495、1.500−1.510(1.493、1.503−1.505)で、複数のモードがみられる。本火山灰層は火山灰層10と火山ガラスの形態や重鉱物組成では極めて類似しているが、火山ガラスの屈折率において本火山灰層では複数のモードが見られ必ずしも一致するとはいえないことから、ここでは火山灰層10’とした。

(xv) 火山灰層11

挟在層準 TAT03−13(1605−1610cm)

火山ガラスの含有率は83%と高い。重鉱物は角閃石と斜方輝石が主体で、単斜輝石がそれに伴う。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.500−1.514 (1.506−1.507)である。

(xvi) 火山灰層11’

挟在層準 TAT03−11(1665−1670cm)

火山ガラスの含有率は71%程度と高い。重鉱物は角閃石が42%程度を占め、斜方輝石・単斜輝石がそれに伴う。火山ガラスの形態はHb・Ca型が卓越する。火山ガラスの屈折率はn=1.502−1.518(1.508−1.515) である。本火山灰層は火山灰層12と火山ガラスの形態や屈折率では極めて類似しているが、角閃石がやや少なく、不透明鉱物が多く必ずしも一致するとはいえないことから、ここでは火山灰層11’とした。

b)平成14年度調査(橘湾東部)

橘湾全体における火山灰層序を検討するため、H14年度採取コア(小浜・金浜沖断層)における火山灰分析結果を以下に示す。

(i) V−1

火山ガラスの形状はHa、Hb(扁平型)が優勢、屈折率はn=1.497−8、1.503−7の2モードがみられる。TAT02−05、TAT02−07、TAT02−09、TAT02−12で確認された。

(ii) V−2

火山ガラスの形状は中間型(Ca、Cb)が優勢、屈折率はn=1.505−7、1.510−11の2モードがみられる。TAT02−03、TAT02−05、TAT02−07、TAT02−12で確認された。

(iii) V−3、V−3’

事前の鏡下観察でpumice層として認められていたもの。TAT02−05(V−3)、TAT02−07(V−3’)で確認された。V−3は火山ガラスの形状は偏平型(Ha、Hb)が優勢、屈折率はn=1.504−5、1.507−10の2モードがみられる。V−3で’は火山ガラスの形状は偏平型(Ha、Hb)から中間型(Ca、Cb)が優勢、屈折率はn=1.507にモードがみられる。両者は層位・重鉱物組成・火山ガラスの形態組成ともに類似しているが、屈折率に相違があることから区分した。

(iv) V−4

TAT02−07で確認された。火山ガラスの形状は偏平型(Ha、Hb)が優勢、屈折率はn=1.507−11に明瞭なモードがみられる。

(v) V−5、V−5’

火山ガラスの形状は中間型(Ca)〜多孔質(Ta)が優勢、屈折率はn=1.495、1.501−3の2モードがみられる。重鉱物では角閃石が優勢である。V−5はTAT02−05、V−5’はTAT02−07で確認された。

帯磁率測定等の結果から求められた対比層準との関係をみた場合、年代に若干の差がある可能性が考えられることから、区分した。

(vi) V−6

火山ガラスの形状は偏平型(Ha、Hb)が優勢、屈折率はn=1.505−6にモードがみられる。重鉱物では角閃石が優勢である。TAT02−05で確認された。

(vii) V−7

火山ガラスに乏しく、屈折率はn=1.496−1.510とレンジが広くモードが顕著でない。重鉱物では角閃石が優勢である。TAT02−05で確認された。

c)火山灰層の対比

平成14年度と平成15年度調査結果から、橘湾南東部と橘湾北部の火山灰層の対比結果を表5−2−4に示す。

平成14年度調査において、橘湾南東部のV−4火山灰は広域テフラのK−Ah火山灰に対比されている。橘湾北部の火山灰層4も岩石学的特徴が類似することからK−Ahに対比される。K−Ahは重鉱物組成は、斜方輝石および単斜輝石を主体とし角閃石をわずかに含み、火山ガラスの形態はH型およびC型を主体とし、屈折率はn=1.508−1.516の範囲に集中するという特徴をもつとされている(町田・新井、1978)。火山灰層4および火山灰層V−4は角閃石の含有率がK−Ahに比べやや高いが、角閃石を含む雲仙火山の火山岩の混入によるものと考えられる。

橘湾北部の火山灰層1は黒色の火山ガラス(スコリア)を特徴的に含むことで特徴付けられる。他の層準で類似した特徴を示す火山灰は認められていないことから、橘湾南東部の火山灰層V−1(scoria)に対比される。このスコリアを含む層準は後述する14C年代測定結果から3300〜2760年前の噴火活動によると考えられるが、スコリアを含むという岩石学的特徴からは雲仙火山起源とは考えにくい。

橘湾北部の火山灰層2、3、4、5は軽石型火山ガラスを含むことで特徴付けられるが、同一コアにおいて2層準が識別されることから、少なくとも2層以上の火山灰層と考えられる。また、軽石を含む特徴から橘湾南東部の火山灰層V−2、3、3’と対比される可能性もある。

雲仙火山では例の少ない軽石型火山ガラスを含むという岩石学的特徴を持つこと、また同一コアにおける層序的な間隔が10cm〜50cmと時代的にそれほど差がないと考えられることから、これらの軽石型火山ガラスを含む火山灰は5500〜4400前の雲仙火山の比較的短期間の一連の噴火により形成された可能性もある。この軽石型火山ガラスを含む噴火活動は、陸域・海域を含めて対比の鍵層となる可能性があり、陸域における同時代の火砕流堆積物や火山灰層との対比も含めて検討する必要がある。