5−1−2 橘湾西部(茂木沖)音波探査結果

橘湾西部(茂木沖)は既往調査(松岡・岡村、2000)の範囲外であり、断層の分布に関して空白域となっていた。この海域における断層の分布を確認するため音波探査を実施した。

既往調査結果との関係を見るため、既往調査海域から長崎半島の海岸部まで南北方向の測線を設定した。測線間隔は経度30秒(約0.78km*)を基本としたが、断層の連続性を確認するため、一部では経度15秒(約0.39km*)間隔で実施した(*:探査海域の北緯32°40’ における値)。調査時はGPSを用いて船位を計測した。

音波探査の結果、従来知られていなかった断層群が発見されたため、調査範囲を当初計画より拡げ、また断層の連続性を確認するため測線間隔を密にした結果、当初計画よりも測線長が増加し、橘湾西部(茂木沖)における測線長は153kmとなった。

橘湾西部(茂木沖)における音波探査の測線位置及び音波探査で確認した断層の分布図を図5−1−5に、各測線の音波探査記録を図5−1−6−1図5−1−6−2図5−1−6−3図5−1−6−4図5−1−6−5に示す。

海底地形としては、探査範囲の南東端付近において、測線112〜116の南端付近に東北東から西南西へ向かって谷幅が広くなる谷地形があり、地層が切られていることから浸食作用の存在が認められる。この谷は西南西へ連続するものと推測されるが、測線118以西の側線では認められない。

音波探査記録から判読した各断層の長さ、K−Ah層準の変位量、落ちのセンス、変位の累積性の有無を表5−1−1にまとめた。

音波探査の結果、橘湾西部(茂木沖)では34本の断層が認められた。断層は探査海域の南半部に集中し、大崎沖に多数分布する。複数の測線で確認された断層はいずれも走向は東西方向で、最長のものでは約3.1kmである。1測線でのみ確認された断層については測線間隔(約0.39km)から表5−1−1では長さを0.4kmとした。

この海域の34断層のほとんどが南落ちを示し、北落ちを示すのは6断層である。これらの北落ちを示す断層のうち、複数の測線で確認されたのは断層F(長さ約3.1km)と断層B(長さ0.8km)のみで、他は1測線のみで確認された短い断層である。

各断層の累積性の有無に関しては、音波探査記録から変位の累積性が認められるのは12断層(内6断層では不明瞭)である。これ以外の累積性の読み取れない断層についても、音波散乱等による探査結果の不明瞭さにより変位の累積性が読み取れない場合も考えられ、今回の音波探査記録からは変位の累積性がないとは言えない。

図5−1−5に示すように、松岡・岡村(2000)ではK−Ah層準が3m以上の変位を示す断層は橘湾の中央より東側に限られる。長崎県雲仙活断層群調査委員の高知大学岡村教授によれば、南串山から連続する断層群は西に向かって次第に変位量が小さくなる傾向が知られていた。

今回の橘湾西部(茂木沖)の音波探査結果から、松岡・岡村(2000)で報告された橘湾南東部の南串山付近から橘湾南部を連続する断層群の西方延長が長崎半島付近まで連続することが確認された。これらの断層群の活動性に関しては表5−1−1に示すように、長崎半島沖でK−Ah層準の変位量が最大3.1mに及ぶ活動性の比較的大きな断層が発見された。

このことは雲仙活断層群の南縁をなす北落ち主体の南串山沖の断層群が西に向かって徐々に活動性が小さくなり、橘湾西部(茂木沖)では再び活動性の大きな南落ち主体の断層群が分布していることを示す。したがって、今回発見された橘湾西部(茂木沖)の活動性の大きな断層群は、変位量が大きいこと、落ちのセンスが南落ち主体であることから、雲仙活断層群とは別の断層群である可能性もある。