(1)湯河内火砕流堆積物

低位扇状地T面及びT’面は、新期雲仙火山野岳期(70−20ka)の湯河内火砕流堆積物及びその二次堆積物で構成される(立山他、2002)。

図4−6−4に湯河内火砕流堆積物の模式地(図4−6−2−1図4−6−2−2:露頭@)における層序を示す。立山他(2002)によれば、湯河内火砕流堆積物は、下位よりY1、Y2、Y3、及びY4(Y4A、Y4Bのサブユニットに細区分)の4ユニットに区分される。本報告書では立山他の区分を踏襲する。

最下位のY1は風化したクサリ礫主体の火砕流堆積物である。上位のY2との間にローム層が挟在されること、及びY1に含まれる礫の大半が風化してクサリ礫となっていることから、Y1はY2以降に比してかなり古い時代のものと推定される。

Y2は帯紫灰褐色の火砕流堆積物である。Y3の褐灰色火砕流堆積物はサージ堆積物を伴いY2を直接覆っている。模式地で見る限り両者の間に時間間隙は認められず、ほぼ連続的に噴出したものと推定される。

Y3と最上位のY4の間には黄褐色ロームが挟在されることから、Y3とY4の間には時間間隙が考えられる。この黄褐色ローム層中には赤褐色を呈し、軽石を多く含む層がはさまれる。火山灰分析の結果では少量含まれる火山ガラスの屈折率は1.506〜1.5078を示す。雲仙地域に見られる火山ガラスの屈折率は層準に関わらず1.50を示すものが多いが、これらに比べて高い屈折率を示す。町田・新井(2003)によればAso−4の火山ガラスの屈折率は1.506−1.51であり、また、低位扇状地T面の海岸部にはAso−4火砕流堆積物が分布することが知られていることから、この赤褐色ローム層はAso−4火山灰(85−90ka)由来の可能性がある。

湯河内火砕流堆積物の噴出年代に関しては直接の年代測定資料はない。Y3とY4の間にAso−4火山灰(85−90ka:町田・新井、2003)が挟在されること、Y2とY3がほぼ同時期であることから、本報告書ではY2・Y3の年代を約90ka、Y4をおよそ80kaとする。

模式地における湯河内火砕流の層序は以上に示したが、扇状地の下流部ではこれらの火砕流堆積物間に各火砕流堆積物の二次堆積物である土石流堆積物が挟在されている。

図4−6−5に深江断層の断層崖における近接した2露頭の観察結果に基づく低位扇状地T’面構成層の柱状図を示す(図4−6−2−1図4−6−2−2:露頭A)。この地点では、土石流堆積物に挟在される火砕流堆積物が3枚確認された。これらの火砕流堆積物は未風化の礫を主体としており、最上位の火砕流の下位に挟在される土石流堆積物の上部に堆積間隙の存在を示すと考えられる風化帯が認められた。以上の露頭観察と模式地(露頭@)における湯河内火砕流の基本層序から、3枚の火砕流堆積物は下位よりそれぞれY2、Y3、Y4と判断される。地表踏査における湯河内火砕流の各ユニットの判定は同様の判断基準で行った。