(2)千々石断層断層崖

唐比低地から東方の千々石町にかけては、比高60m〜100mの東西方向の挑戦的な崖が連続する。古期雲仙火山の山麓に形成された火山麓扇状地面(中位扇状地T面)の分布がこの崖によって途切れる。

この中位扇状地T面構成層は火砕流堆積物・土石流堆積物からなり、220kaのカリウムアルゴン年代値が得られており、古期雲仙火山前期に形成されたものである。このことから橘湾に中心のあった山体が、千々石断層の南落ちの活動によって現在は橘湾の下へ落ち込んでいると考えられる。この崖の沖合で実施した音波探査結果にからは、水深35m〜40mの海底下には30m以上の完新世堆積物が確認されている。これから推定される変位量は170m以上である。しかし、火山麓扇状地が北へ傾斜していることから、橘湾に存在したと推定される山体を考えた場合、この山体が橘湾の海底下へ落ち込んでいるとすると、変位量ははるかに大きいと推定される。

断層崖は多くの場合、直接橘湾に面しているが、唐比漁港の東方では、断層崖が陸側へ後退した場所の前面に、崖を開析した小河川によって供給された土砂からなる小規模な扇状地が形成されている(図3−3−5)。空中写真判読の結果では、千々石断層はこの扇状地の扇頂部を横断していると予想されるが、扇状地面には変状地形は認められない。扇状地堆積物の年代から千々石断層の最終活動時期の上限を決定できる可能性が高いと考えられるので、トレンチ調査等の候補地として選定した。