(4)原生沼

原生沼は雲仙温泉の西端部、絹笠山の東麓にある湿原で、ミズゴケ湿原として国立公園特別地域および国指定天然記念物に指定されている。原生沼の堆積物に関しては、長崎県環境部(1980)の調査により、ボーリング調査が行われている(図3−1−20)。

長崎県によれば、原生沼は少なくとも深度−4mまで泥炭層が堆積している。放射性年代測定によれば、最下部の深度−385〜−380cmで6380±100yBP、−270〜−260cmで2770±80yBP、−130〜−120cmで625±55yBP、−85〜−80cmで300±75yBPである。この結果から得られた堆積速度は、下層から中層は0.032cm/yから0.065cm/yと西日本の山地湿原や池沼で見られる一般的な堆積速度に近いが、上層では0.139cm/yから0.283cm/yと異常に大きな値を示す。

同時に実施された花粉分析結果によれば、沼野植物の花粉が出現するのが1000〜500年前であり、上記の堆積速度変化からみると、1000年前以降にゆっくり堆積が進んでいた池から沼野の環境になり、500年前以降に植物遺体が急速に堆積したと考えられる。

原生沼は雲仙岳に近く、流出入する河川もない山間の池沼であることから、少なくとも6000年前以降の雲仙火山の降下火山灰が保存されている可能性が高い。