(3)ボーリング調査

ボーリング調査は当初計画にはなかったが、平成14年9月21日に開催された第2回長崎県雲仙活断層群調査委員会における審議結果を受けて、雲仙活断層群の活動性を評価する際の指標となる雲仙火山の活動年代尺度を確立するため、ボーリング調査およびコアの各種分析を行った。調査地点および内容は以下のとおりである。

@ 唐比低地

1)調査の目的

唐比低地は既存のボーリング資料(松岡他、1990、1996)により約2万年前以降の堆積物の存在が知られている。ボーリング調査では採取したコアの火山灰分析・年代測定・化石分析を行い、雲仙火山の活動史ならびに唐比低地の古環境史の解析から千々石断層西端部の活動史を明らかにするかにすることを目的とした。

2)調査法・数量

 a.ボーリング調査:オールコアボーリング:40m×1本、17m×1本

 b.試料分析:1式(火山灰分析・放射性炭素年代測定・化石分析)

A 田代原

1)調査の目的

田代原は千々石断層断の落ち側の低地で、千々石断層の活動開始から現在までの堆積物が存在すると推定される。ボーリング調査では、コアの火山灰分析・年代測定により、千々石断層主部の活動史を明らかにすることを目的とした。

*:火山灰分析は(株)京都フィッション・トラックに依頼した。

*:放射性年代測定は福岡大学奥野講師に依頼した。

2)調査法・数量

a.ボーリング調査:オールコアボーリング:15m×1本

b.試料分析:1式(火山灰分析・放射性炭素年代測定)

B ボーリング仕様

ボーリング調査は、オイルフィード式ロータリーボーリングマシンを用いて実施した。作業場の仮設状況、ボーリングマシンの概要を図2−3−2−1図2−3−2−2に、使用機材一覧表を表2−3−1にそれぞれ示す。

1)掘進方法

・掘進は、孔径86mmのオールコアボーリングとした。

・コアの原形を損じないように、ビニールスリーブ付き二重管式コアチューブ(通称コアパックチューブ)を用いた。また、地層の状態に応じて使用するビットおよびコアバレルの種類を選ぶとともに、ビット給圧、回転数、送水量を加減するなど、堆積構造の原形を損じないコアを100%採取するよう最大の努力を払った。

・掘進にあたって孔壁崩壊の可能性がある場合は、必要用に応じてケーシングパイプの挿入を実施し、孔壁の保護を行った。

・掘進終了後は、孔を閉塞し、周辺部も含め、原形復旧した。

2)コアの処理・地質観察

・採取したコアは縦方向に半割にし、半分を分析用、残り半分を保存用とし、1mごとに区切られた5m分のコア箱に収めた。ただし、礫層、固結層等は、コア状況によっては、半割を実施しなかった。

・コア箱に収めたコアは、色見本を添えてカラー写真撮影し、以下の点に留意して地質観察を行った。

 粒度変化、色調変化、堆積構造、含有物(貝化石、腐植物等)、火山灰、その他

・地質観察は、縮尺1/10程度の地質柱状図として記録した。

・半割コアの分析用部分から地層対比および堆積年代決定に有効と判断される試料を採取し、分析に供した。特に14C年代測定用試料となる貝化石、泥炭および火山灰分析用の火山灰層等に留意して採取した。

D 試料分析

対比層準や地層の年代決定のために、ボーリングコアを用いて試料分析を行った。実施内容と方法は、次の通りである。

1)火山灰分析*3)

(イ)帯磁率測定

コア中に含まれる肉眼で認定できない火山灰を抽出するため、帯磁率測定を行った。

帯磁率測定は、コア試料を連続的に2cm毎にサンプルホルダーに採取し、Bartington社製MS2を用いて測定した。この測定器は試料に地球磁場程度(0.1mT)の強さ数百Hzの交流磁場をかけて、その時誘導される磁化から初磁化率を測定する装置である。

測定に当っては、まず標準試料を測定した後、試料と空気測定を交互に行い、5試料毎に標準試料を測定した。この空気測定はDearing(1994)によって提案された方法で、試料の前後の空気を測定することによって、測定中のノイズや変動などを検出する方法である。

帯磁率測定の結果により、磁性鉱物の多い層準および肉眼観察で認定した火山灰層について火山灰分析を実施した。

(ロ)火山灰分析

火山灰分析の処理は以下の手順で行った。

試料を洗浄、乾燥させた後、250μmと63μmの篩を用いて篩い分けを行い、以下の処理は250〜60μmの粒子を用いた。重液分離にはブロモホルムを用い、重鉱物を分離する際には比重2.8に、火山ガラスのみを抽出する際には比重2.5にそれぞれ調整して行った。試料の封入に際してはグリコールフタレートを用いてスライドに封入した。

全鉱物組成、火山ガラスの形状割合、重鉱物組成については顕微鏡下で200粒子以上カウントして百分率で示した。火山ガラスの形状分類は吉川(1976)の分類に従った。なお、含有量が極端に少ないものについては、その量比を定性的に示すにとどめた。火山ガラスの屈折率測定は古澤地質調査事務所製の温度変化型屈折率測定装置“MAIOT”を用いて行い、1試料につき25粒子以上を測定した。

火山灰分析の結果から、火山灰の供給源および噴出年代を特定した。

*3):火山灰分析(帯磁率測定含む)は大阪市立大学吉川助教授に依頼した。

2)放射性炭素年代測定*4)

コア中の泥炭や炭化木片、貝等の化石について放射性炭素年代測定を行った。泥炭や木片については、コア採取後なるべく速やかに採取し、現在周辺にある炭素の影響を防いで分析に供した。コア試料という量的制約からAMS法による測定を行った。

3)化石分析*5)

(イ)花粉化石分析

花粉化石分析は、花粉の構成から、堆積時の周辺環境、特に気候(温度)を推定することを目的に実施した。

コアの泥質部を中心に約20cm間隔で採取した試料について、花粉化石分析はHF −KOH法で行い、さらにアセトリシス法を用いた。また、単位体積当たりの花粉数を算出するためにマーカー(ミクロスフェアー)を投入した。花粉・胞子化石の同定では原則としてプレパラート一枚を全面観察した。ただし、植生の推定に必要な樹木花粉300個以上を同定した場合には随意に同定を終了した。単位体積当たりの花粉数を求めるために、花粉・胞子化石の同定と同時にマーカーの個数も計数した。

(ロ)珪藻化石分析

珪藻化石分析は、海水性種、汽水性種、淡水性種の含有比率から堆積環境を推定する目的で実施した。

コアの泥質部を中心に約20cm間隔で採取した試料に対して、珪藻化石分析を以下の手順で実施した。過酸化水素水を使用して試料を漂白し、また、沈殿法により粗粒なものを取り除く処理を行って、永久プレパラートを作成し,600倍の光学顕微鏡下で同定を行った.同定計数には200個体を目安としたが、試料によっては産出が少なく、200個に達しない場合もあった。

(ハ)貝化石分析

貝化石分析は、貝化石の含まれる層準の堆積時の水深や環境を推定するために実施した。

*4):放射性炭素年代測定は福岡大学奥野講師に依頼した。

*5):化石分析のうち、花粉化石分析・珪藻化石分析は熊本大学長谷助教授へ依頼した。

貝化石分析は、試料中のコアから20〜50cm程度の間隔で採取した試料を水洗し、乾燥させた後に、実体鏡下で観察して拾い出し、種の同定を行った。

同定した貝化石について現生種の生息環境・深度から、堆積環境・深度を推定した。