(2)地質精査

地質精査は、地形判読及び地質概査の結果により抽出された4地区(精査範囲:5.6km2)を対象に、長良川上流断層帯を構成する各断層の位置の絞り込みや構造把

握及び活動性評価を目的として実施した。大野断層については、地質精査地区を設定せず、東海北陸自動車道の白鳥インター工事に伴う法面掘削工事により出現した法面に対し、地質観察および1/500のスケッチを実施した。

那留断層についてはその分布が確実視されるため、中位位段丘堆積物分布地域での断層位置及び基底面での変位量把握を行うための反射法弾性波探査測線の検討を行った。

地質精査の成果として1/2,500の地質図の作成および1/20露頭スケッチ(白鳥インター工事により出現した法面に対しては1/500スケッチ)を実施した。

大野断層については、白鳥町(1996):「平成7年度活断層調査委託報告書」の報告内容を検討し、断層の有無・活動性を評価した。

地質精査項目は次の10項目(@〜I)である。

地質精査項目(@〜I)毎に結果を述べる。

1)二日町断層

@ 露頭番号7地点1/2,500地質精査

本地点の調査位置(1/5,000)を図2−2−3−2に、地質図(1/2,500)を図2−2−3−3に示す。

白鳥町干田野から向小駄良にかけて連続して分布する断層変位地形の連続が本地点を通る。本地点では奥美濃酸性岩類が基盤岩として広く分布し、谷沿いおよび山腹斜面には崖錐堆積物が分布する。奥美濃酸性岩類は灰白〜黄褐色を示し、弱い熱水変質を被っており軟質もしくは角礫状を示す場合が多い。

断層露頭は露頭番号7のみである。ここでは、流紋岩中に幅2〜3cmの断層粘土が観察でき、断層面の走向傾斜はN41W,54Nを示す。断層面の見掛け下位(東側)では、粘土状及び角礫状の流紋岩を示し、見掛け上位(西側)では角礫状の流紋岩を示す。

露頭番号20では、流紋岩中に層相の不連続面が存在し、その走向傾斜はN40W,83Nと露頭番号7の断層面と調和的であるが、地表の樹木の根曲がりが顕著であり地すべりのすべり面と考えた。

露頭番号7で見られる断層粘土の方向は断層変位地形の連続により推定される八幡断層のニアメントとは斜交しており、リニアメントの直接的な成因とは考えられない。また、これらの断層粘土の走向方向には、角礫状の岩盤が分布するものの同じ様な断層粘土は認められない。

本地点では熱水変質を被っている露頭が多く、変質帯の分布とリニアメントと関連が推定される。

図2−2−3−2 露頭番号7地点調査位置図

図2−2−3−3 露頭番号7地点地質図(1/2,500)

A 露頭番号7の詳細観察

詳細観察箇所は前述の図2−2−3−3 地質図(1/2,500)に示す。詳細観察結果を図2−2−3−4 に示す(1/20のスケッチを71%縮小しており、1/28.57の縮尺になっている)。

詳細観察を行った露頭位置は活断層研究会(1991)のリニアメントと一致する。

崖錐堆積物と基盤の奥美濃酸性岩類が薄い粘土を境界に接している露頭として地質概査の際に認められ、活断層の可能性があると考え、詳細な観察を行った。

以下に露頭に認められた地層について古い順に記す。

<奥美濃酸性岩類>

層相により、断層の見掛け状下位の流紋岩質凝灰角礫岩1と上位の流紋岩質凝灰角礫岩2に二区分される。

<<流紋岩質凝灰角礫岩1>>

断層の下盤側に位置する。割れ目が多く一部角礫状を示すが、破砕されてはいない。また変質作用も受けていない。割れ目沿いには褐色の酸化鉄および一部流入粘土が挟在する。

<<流紋岩質凝灰角礫岩2>>

断層の上盤側に位置する。弱い熱水変質作用を被り、軟質となっている。灰白色を示す。割れ目沿いには褐色の酸化鉄および一部流入粘土が挟在する。

<断層及び破砕帯>

幅3cm程度の明褐色の断層粘土及び破砕帯である。断層面には条線および鏡肌は認められない。地表面に近いところでは二条に分岐し、上盤側では幅10〜15cmの角礫状破砕帯を伴う。この角礫状破砕帯は崖錐堆積物と直接接するが、上方に向かってせん滅し、崖錐堆積物には連続しない。したがって崖錐堆積物の堆積前の古い断層による破砕帯であり、ある程度侵食が進んだところで崖錐堆積物が不整合関係で堆積した可能性が高い。断層面の方向はN35゜〜41゜Wで、北に52〜62゜で傾斜する。本地点でのリニアメントの方向はN30゜Wで断層面とは若干斜交する。

<崖錐堆積物>

流紋岩質凝灰角礫岩に不整合に重なる。径5〜50cmの流紋岩亜角礫を含む比較的締まりの良い砂礫からなる。礫は全て流紋岩からなる。崖錐堆積物中の礫には、断層運動によって変形を受けたと思われるような礫の定方位配列や礫の割れは認められない。しかし、崖錐堆積物にはオリジナルの堆積構造が認められないため、断層変位に伴う変形を受けていない言える積極的な証拠はない。

断層の有無については、基盤岩には断層が存在するが、崖錐堆積物中には基盤の断層の延長上に断層粘土は認められなかった。また、礫の定方位配列や割れは認められなかった。

一方、崖錐の基底面の形状は、断層を挟んで約2mの段差があることが観察され、段差の位置に断層破砕帯が存在することが判明した。この破砕帯の分布は基盤と崖錐の境界部の下方にのみ分布し、上方に向かってせん滅している。したがって、二次的に浸食を受けている可能性が高い。

以上を総括すると、両者は不整合で接している可能性が高いが、崖錐の基底に段差があることから活断層である可能性を完全に否定できていない。

図2−2−3−4 露頭番号7地点露頭スケッチ

表2−2−3−3 露頭番号7地点露頭スケッチ凡例

a) 二日町断層に関する考察

詳細観察を行った断層露頭(露頭番号7地点)の位置は、活断層研究会(1991)のリニアメントと一致しており、この露頭では、崖錐堆積物と基盤の奥美濃酸性岩類が薄い粘土を境界に接している。崖錐を変位させている可能性があったため、露頭のクリーニングを行い詳細な観察を行った。

観察の結果、基盤岩にはリニアメントの方向(NNW)とやや斜交したN35〜41W,52〜62Nの断層が存在するが、断層の崖錐堆積物への連続性は確認できなかった。両者は不整合で接している可能性が高いが、崖錐堆積物にオリジナルの堆積構造が存在しておらず、変位を受けていないことを示す積極的な証拠も得られなかった。

本露頭を含む周辺露頭には、熱水変質による流紋岩の軟質化が認められ、広域的にはリニアメントと平行に熱水変質帯が分布すると考えられる。

本地域周辺には露頭番号7以外にも断層露頭(露頭番号1〜6)がリニアメント沿いに分布し、北側(露頭番号1〜3)では、N57〜70W,56〜90Sの断層面を示し、リニアメントの方向とは斜交する。これに対し南側(露頭番号4,5,7)では、走向方向がN20〜41W,傾斜が52〜62Wと75Eを示し、走向方向はリニアメントの方向と概ね調和的であるが、傾斜方向にばらつきが認められた。また、リニアメント沿いの露頭では熱水変質帯が多数が確認された。

したがって、二日町断層のリニアメントは、共役な小断層の集合により形成された断層破砕帯であると考えられる。断層破砕帯形成後には熱水の貫入があり、熱水変質によりさらに軟質化しているため、明瞭なリニアメントとして抽出できるものと考えられる。

リニアメントの方向と同一の断層面及び破砕帯は、多くの露頭として発見できなかったが、このリニアメントを二日町断層と断定した。発見された断層露頭の走向傾斜から推定すれば、二日町断層は左横ずれ断層を形成する応力により形成されたと考えられる。

二日町断層の活動性は、第四紀層との関係が明らかになっていないため不明であるが、調査結果からは、リニアメント(二日町断層)が活断層であるという明らかな証拠は得られなかった。

2)八幡断層

@ 落部地点1/2,500地質精査

本地点の調査位置(1/5,000)を図2−2−3−5に、地質図(1/2,500)を図2−2−3−6に示す。

本地点の中央部には、脇田(1984):5万分の1「八幡地域の地質」 で報告している断層露頭が位置する。

調査地のほぼ中央を南北に地形鞍部および河川・尾根の屈曲の連続により推定されるリニアメントが存在する。

地質はリニアメントを境に、西側の奥美濃酸性岩類と東側の中・古生層のチャート・頁岩(一部形質頁岩)に区分できる。

奥美濃酸性岩類は径2〜5mmの石英粒を多く含む石英斑岩様の岩相を示し、熱水変質を被っているところでは灰白色のやや粘土化した岩相を示す。熱水変質は八幡町から白鳥町にかけて八幡断層のリニアメント沿いにしばしば認められるが、本地点では特に顕著である。変質帯はやや東へ振る方向で八幡断層と斜交する。幅はもっとも広いところで200mにおよぶ。

一方、中・古生層は希に熱水変質粘土が挟在するが、概ね健岩が分布している。調査地域北部では珪質頁岩および珪質な凝灰岩が分布する。凝灰岩は中・古生層の一部で、奥美濃酸性岩類ではない。また中央部やや南側には頁岩が分布する。

第四紀層は崖錐堆積物が谷沿いおよび山腹斜面に分布する。中央やや北の断層東側には崖錐堆積物の緩斜面が広がっている。

この時点では、脇田(1984)で報告している断層露頭は崖錐部分が露出しているのみである。

これらの情報から、八幡断層は地質境界を形成する断層であり、主に奥美濃流紋岩類を破砕させ変位したものと考えられる。

八幡断層を覆って崖錐堆積物が存在するが地形面に変位は認められない。

図2−2−3−5 落部地点調査位置図

図2−2−3−6 落部地点地質図

A落部地点の詳細観察

詳細観察箇所は前述の図2−2−3−6 地質図(1/2,500)に示す。詳細観察結果を図2−2−3−7 に示す。

露頭位置はリニアメントの位置と一致する。

脇田(1984):5万分の1「八幡地域の地質」 に報告されている露頭であるが、法面が浸食され、図幅作成時と比べて50cm〜1m山側へ後退していると推定される。

以下に露頭に認められた地層について古い順に記す。

<中・古生層堆積岩類>

中・古生層堆積岩類のチャートが破砕され、粘土中の角礫として分布する。Φ数cmのチャートの角礫とともに流紋岩が取り込まれ,軟質化し断層方向に延びている。流紋岩礫が断層運動によりチャート中に取り込まれている範囲は、断層面から最大で2.8mである。

断層面の走向方向はN11〜20Wで八幡断層のリニアメントの方向と一致し、52〜76Wで傾斜する。

<流紋岩> 

角礫状,径2〜5mmの石英粒を多く含む石英斑岩様の岩相を示す。崖錐堆積物を切る断層によって,チャートと接する。上位は崖錐堆積物によって不整合で覆われる。

<崖錐堆積物>

崖錐堆積物は、奥美濃酸性岩類および中・古生層堆積岩類を不整合に覆って分布する。

基質は粘土混じり細粒砂。礫はφ2〜30cm,最大1m以上の亜円〜亜角礫を含み,礫種は主に流紋岩および安山岩で中・古生層起源の礫は少ない。

中・古生層に接する断層面では、断層粘土が認められる。

断層面の延長上では礫の定方位配列や,割れている礫も認められる。

崖錐堆積物の基底面を変位基準面とした場合に、露頭面での変位量は約1m(垂直変位量は約0.8m)である。

詳細な観察の結果、中・古生層のチャートと奥美濃酸性岩類の流紋岩との境界断層となっている。また、中・古生層のチャートと崖錐との境界断層となっている。

以上の事実から、詳細観察を行った断層露頭は八幡断層本体と断定した。

チャートは著しく破砕・粘土化され、粘土の中に礫状のチャートを確認できる程度である。中・古生層と奥美濃酸性岩類との境界断層面には粘土が分布し、上位に重なるルーズな崖錐堆積物まで延びており、崖錐堆積物中の断層面の延長上では礫の定方位配列や礫の割れが認められ、崖錐堆積以降も活動している断層であることを確認した。露頭面での断層の変位量は約1m(垂直変位量は約0.8m)であることを確認した。

断層の活動時期については、崖錐堆積物の中から時代を特定できる可能性のある試料を採取することはできなかったため不明である。

図2−2−3−7 落部地点露頭スケッチ

表2−2−3−4 落部地点露頭スケッチ凡例

a) 八幡断層に関する考察

詳細観察を行った断層露頭(落部地点)の位置は、活断層研究会(1991)のリニアメントと一致しており、この露頭では、中・古生層堆積岩類のチャートが断層関係で奥美濃酸性岩類および崖錐堆積物と接している。

また、面的な地質分布から八幡断層は中・古生層堆積岩類と奥美濃酸性岩類の境界断層であることが想定できている。

以上のことから、本地点の断層が八幡断層の本体であると断定でき、崖錐堆積物を変位させている断層であることも明らかになった。

しかしながら、崖錐堆積物の年代を特定できる試料が発見できなかったため最終活動年代の絞り込みが困難である。

また、複数回の活動履歴があるかどうかも本地点の露頭からは判断できず、「繰り返し活動する可能性のある活断層」であるという証拠は得られていない。

崖錐堆積物の基底面を変位基準面とした場合に、露頭面での変位量は約1m(垂直変位量は約0.8m)である。

3)那留断層

那留断層は、地形調査により白鳥町那留−大和町大間見の間の北区間(活断層研究会(1991)の確実度T区間)と大和町小間見付近の南区間(〃確実度V区間)に分かれている可能性が指摘された。

したがって、北区間,南区間の二区間に分けて地質精査を実施した。

北区間,南区間の順に結果を示す。

D 那留地点(確実度T区間)の1/2,500地質精査

本地点の調査位置(1/5,000)を図2−2−3−8に、地質図(1/2,500)を図2−2−3−9に示す。

地形調査では、白鳥町那留の和田川左岸に分布する高位段丘の段丘崖を境に、高位段丘面と中位段丘面の傾斜方向が異なることから、この断層崖が低断層崖である可能性を指摘した。また、この段丘崖の南東部では、那留の南東の日枝洞から大和町大間見までの山中に地形鞍部が連続し、連続方向が段丘崖の方向と調和的であることから一連の断層である可能性を指摘した。

白鳥町(1996):「活断層調査委託報告書」にも和田川沿いの河川改修工事の際に現れた断層露頭が報告されている。

調査地の地質分布は、中・古生層の砂岩および砂岩頁岩互層を基盤とし、これを覆って段丘堆積物および沖積層が分布する。また、二反田の段丘崖を形成する斜面には崖錐堆積物が分布する。

中・古生層の砂岩および砂岩頁岩互層は、和田川沿いと梅ヶ窪東方に露頭が認められる。

和田川沿いでは、風化により軟質化しているものの破砕を受けた痕跡は認められない。

梅ヶ窪東方の露頭(露頭番号17)では強風化により、全体に軟質化しており、砂岩と砂岩に挟在する頁岩との境界に、那留断層のリニアメントと調和的な走向傾斜(N29W,22W)を示す断層粘土が認められる。リニアメントからは約300m離れている。第四紀層は表土のみで、表土基底面および地表面に変位は認められない。

段丘面は標高420mから450mにかけて調査地域の西側および北側に広がり、低位段丘面、中位段丘面および高位段丘面の三面に区分できる。

堆積物はいずれもφ5〜20cmの亜円〜円礫からなる砂礫層で、高位段丘堆積物にもくさり礫を含まない。礫は中・古生層の砂岩、奥美濃酸性岩類および烏帽子岳火山岩類起源の安山岩からなる。

段丘面上には断層運動に伴うと思われる低断層崖や撓曲崖等の断層変位地形は認められない。

沖積層は径5〜50cmの中・古生層の砂岩、奥美濃酸性岩類および烏帽子岳火山岩類起源の安山岩を礫として含む砂礫からなり、和田川沿いに分布する。露頭観察地点で幅100m、梅ヶ窪で最も広く幅150mである。礫層の層厚は露頭観察地点では1〜2mと極めて浅い。

二反田から下ヶ市にかけては、リニアメント沿いに西落ちの段差が3ヶ所で認められる。一つは露頭観察を実施した地点で、段差の高さは約1mでありリニアメントとは斜交する。他は下ヶ市東方で高さ3mの段差が2ヶ所である。下ヶ市の段差はリニアメントと調和的に100m〜150m追跡できる。

これら段差の成因は、露頭観察地点では盛土であり、下ヶ市東方の2ヶ所についても人工改変の可能性がある。

崖錐堆積物は山腹斜面に分布するが、二反田から下ヶ市の段丘崖を形成する緩い斜面に分布するもの以外は広範な分布を示すものはない。

地質精査結果では、那留断層の存在を示す断層露頭や断層の存在を示唆する露頭は発見できなかった。

図2−2−3−8 那留地点調査位置図

図2−2−3−9 那留地点地質図

E那留地点の詳細観察

詳細観察箇所は前述の図2−2−3−9 地質図(1/2,500)に示す。

この露頭は、白鳥町(1995):「活断層調査委託報告書」で和田川沿いの河川改修工事の際に現れた断層露頭として報告されているものである。

詳細観察結果を図2−2−3−10に示す(1/20のスケッチを50%縮小し、1/40の縮尺になっている)。

本地点に分布する地質は,中・古生層の砂岩,烏帽子岳火山岩類,礫層,人工造成土からなる。

以下にこれらの地質について説明する。

<中・古生層(美濃帯)砂岩>

灰色塊状細粒砂岩からなり,頁岩などは挟まない。割れ目間隔2〜20cm程度の密着した割れ目が発達するが,岩質は硬い。一部S面8−9では風化が進み,やや軟質の砂状となっている。

S面で3条,N面で7条の断層が断層粘土や流入物質を挟む亀裂により確認できる。顕著な破砕帯の分布は認められない。

<烏帽子岳火山岩類>

凝灰質な礫層で,灰白色〜明褐色を示す。基質は未固結な流紋岩質細粒砂からなり,径5〜40cmの流紋岩,安山岩の円〜亜円礫を含む。また基底部には中・古生層の砂岩礫を含む。礫はくさり礫が多い。

本層は下位の中・古生層の砂岩を不整合で覆う。不整合面は不規則な凹凸をなし,若干北側(上流側)に傾斜する。

本層は、S面では1箇所,N面で2箇所、断層関係で中・古生層と接している。

上位は上流側で礫層Aによってほぼ水平に不整合で覆われる。

層厚は平均的な部分で約120cmである。

本層は露頭中央部付近で,南に30〜40゜傾斜する不整合面によって削られてせん滅し,礫層B,C,Dがアバットする。

礫層C,Dの河床との比高差が数メートル以内であることから、この南傾斜の不整合面は完新世の(沖積)段丘崖であると推定される。

<礫層A>

基質はルーズな粘土混じり中粒砂で,径2〜30cmの流紋岩,安山岩,砂岩,及び頁岩亜円礫を含む。暗灰〜かつ灰色を示し,堆積構造は見られない。

下位の烏帽子岳火山岩類をほぼ水平な不整合で覆う。下流に向かって薄くなり,下位の烏帽子岳火山岩類と共に南に30〜40゜傾斜する不整合面によって削られてせん滅し,礫層Dと黒色耕作土がこれにアバットする。さらにその上位は盛土によって覆われる。

層厚は最大130cmで,4−5地点で0cmとなる。

<礫層B>

基質はアルコース質細粒砂。径2〜15cmの亜円礫を含む。N面にのみレンズ状に分布する。灰白色を示し,基質が流紋岩質であるため,烏帽子岳火山岩類を起源として,局所的に堆積した堆積物であると考えられる。

 中・古生層の砂岩と烏帽子岳火山岩類を不整合で覆い,上位は礫層Cによって覆われる。層厚は0〜20cmである。

<礫層C>

基質はシルト混じり砂で,径5〜50cmの流紋岩,安山岩,砂岩,及び頁岩の円〜亜円礫を主とし,径80cm程度の礫を含む礫層である。灰〜暗黄灰色を示す。N面では北に約20゜傾斜する礫のインブリケーションが認められるが,S面ではやや不明瞭である。

下位は中・古生層の砂岩をほぼ水平の不整合面で覆い,側方では烏帽子岳火山岩類にアバットする。上位には礫層Dが重なる。層厚は約100cmで,露頭中央部でせん滅する。

沖積段丘の基底礫層と考えられる。

<礫層D>

基質は粘土混じり砂で,径10〜30cmの流紋岩,安山岩,砂岩,及び頁岩からなる亜円礫を含む礫層である。暗灰〜褐灰色を示す。

下位の礫層Cが北に傾斜する礫のインブリケーションが認められるのに対し,礫層Dはほぼ水平のインブリケーションが弱く発達する。

N面に黒色粘土(厚さ6cm,水平35cm),S面には暗褐色礫混じりシルト(厚さ16cm,水平1.2m)を挟在する。側方で烏帽子岳火山岩類と礫層Aにアバットし,礫層Cの上位に水平的に重なる。上位は黒色耕作土によって覆われる。層厚は最大1mである。

沖積段丘堆積物と考えられる。

<黒色耕作土>

径2〜20cmの亜円〜亜角礫を含む人工改変の可能性のある有機質粘性土である。下位の礫層Dを覆って分布し,側方では礫層Dと同様に礫層Aにアバットする。

層厚は60cm程度で,上流側でせん滅する。

<盛土>

黄褐色の礫混じり粘性土である。8−9地点の段差を形成する。礫層Aと黒色耕作土を覆って分布する。

層厚は0〜110cmである。

<表土>

N面に僅かに分布する暗褐色粘土混じりの砂である。盛土を覆う。

層厚は0〜25cmである。

詳細な観察の結果、基盤岩である中・古生層(美濃帯)砂岩と烏帽子岳火山岩類は断層関係で接しており、第四紀の活動が確実な断層が確認できた。

しかし、断層面を覆う沖積段丘まで断層が及んでいないことや、この北西延長上に分布する中位段丘面上に変位地形が認められないことから、中位段丘堆積以降に活動している証拠は認められない。また、基盤岩中の破砕がほとんど認められないことから、繰り返し活動している断層ではないと考えられる。

したがって、白鳥町(1996):「活断層調査委託報告書」に示されている和田川沿いの河川改修工事の際に現れた断層露頭は、那留断層本体とは考えにくい。

図2−2−3−10 那留地点露頭スケッチ 表2−2−3−5 那留地点露頭スケッチ凡例

a) 那留断層北区間(確実度T区間)に関する考察

白鳥町(1996):「活断層調査委託報告書」 に記載された和田川沿いの河川改修工事の際に現れた断層露頭は、基盤の中・古生層および更新世初期の烏帽子岳火山噴出物層を切る断層であり、沖積層まで変位を与えるようなものではなかった。また、繰り返し断層活動があったという証拠は得られなかった。

詳細観察を行った那留地点の位置は活断層研究会(1991)の断層位置と一致していない。また、観察された断層は、第四紀の活動が確実であるにも関わらず地形的に追跡することが困難である(図示できない)。そのため、活断層研究会(1991)で示されている那留断層との関係を考察するために断層面及び割れ目(節理や密着亀裂)の走向傾斜を表2−2−3−6 那留地点砂岩中の割れ目及び断層一覧表,図2−2−3−11 断層面のシュミットネット投影にまとめ、那留断層との関係を考察することとした。

砂岩中の割れ目は節理や密着亀裂を34箇所計測した。図2−2−3−11から走向がN40〜53W,北に51〜82゜傾斜する域に若干集中するが、顕著な傾向は認められない。

断層は計10条認められたが,N面とS面に連続するものはない。断層面の走向は断層番号2,6を除く8条がNW走向,北傾斜(28゜〜84゜)を示し,走向/傾斜の平均値はN40W/56Nである。このNW走向は活断層研究会(1991)によるリニアメントの方向と一致する。破砕帯の幅は(断層4を除いて)数mm〜数cmで,灰白〜黄褐色粘土あるいは砂状物質を挟在する。

断層4と断層5を除く8条の断層は,中・古生層の砂岩中のもので,上位の烏帽子岳火山岩類と沖積層までは連続しない。

N面の断層4と断層5は,中・古生層の砂岩と烏帽子岳火山岩類との境界をなす断層である。この2条の断層は共にNW走向,北傾斜で粘土を挟み,互いにずれのセンスが逆で砂岩の中の烏帽子岳火山岩類の分布の両端を囲っており,共役断層の可能性がある。断層によって囲まれて分布する烏帽子岳火山岩類には,断層4の断層粘土が付着している。断層周辺の砂岩と,これに挟まれる烏帽子岳火山岩類の上位は,ほぼ水平の不整合面で礫層Cによって覆われる。礫層Cに断層(断層粘土)は連続しない。礫層Cには北に約20゜傾斜する礫の並びが認められるが,断層延長上に限らずこの構造は認められるため,これは堆積構造であり,断層の影響によるものではないと考えられる。

本地点の露頭観察において中・古生層の砂岩に見られる断層は10条認められ,8条は活断層研究会(1991)に示されている那留断層の方向と一致するNW−SE走向である。このNW−SE走向は,割れ目(節理や密着亀裂)の傾向にも一致する。

したがって、那留断層(確実度T区間)の活動に伴い形成された断層及び割れ目である可能性が示唆される。

しかし、那留断層(確実度T区間)の本体の位置や活動性については、依然把握できていない。これらを明らかにするためには、地形調査により低断層崖の可能性が指摘されている那留地点の西側に存在する段丘崖(高位段丘面と中位段丘面の間)を反射法探査及びボーリング調査により調査することが適当と考えられる。

表2−2−3−6 那留地点砂岩中の割れ目及び断層一覧表

図2−2−3−11 断層面の節理及び割れ目のシュミットネット投影(下半球)

(走向の数字は磁北、プロットは真北)

F小間見地点(確実度V区間)の1/2,500地質精査

本地点の調査位置(1/5000)を図2−2−3−12に、地質図(1/2500)を図2−2−3−13に示す。

地質概査では、本地点で中・古生層の砂岩と崖錐堆積物を境する活断層が認められた(露頭番号19地点)。この断層は方向および露頭位置が那留断層のリニアメントの方向および位置と一致する。

地形調査では、断層露頭近傍と断層露頭の南東約1km地点に鞍部が2箇所認められるのみである。

活断層研究会(1991)では本地点での那留断層は確実度Vで、尾根の屈曲等から断層の活動方向は左横ずれであるとしている。

地質精査の結果、調査範囲の地質は、中・古生層の砂岩を基盤とし、小間見川沿いに段丘堆積物、崖錐堆積物および沖積層が分布する。

中・古生層の砂岩には頁岩の薄層が挟在し、断層の東側では東西方向の走向で北に緩く傾斜する。一方断層の西側では北西−南東方向の走向で南に緩く傾斜し、断層を挟んで地質構造に違いが見られる。

段丘堆積物はリニアメントの近傍に、低位段丘堆積物が分布し、上流左岸側に中位段丘堆積物が分布する。

崖錐堆積物は小間見川が形成する谷を広く埋めており、緩傾斜の谷底低地を形成している。比較的締まりの良い二次ローム(礫層の分布から堆積構造がわかる)からなり、礫は径5cm〜1mの亜円〜角礫で、中・古生層の砂岩を主体とし、奥美濃酸性岩類の流紋岩が混じる。

谷底低地には、断層の存在を示唆するような地形的特徴(段差等)は認められない。

沖積層は砂、礫からなり、調査地域の南西方、小間見川の下流に分布する。 那留断層のリニアメントは断層露頭から南へは南東方に延びる谷沿いに分布し、北へは山腹斜面に延びる。本調査地域では中央の断層露頭以外で、断層の存在を示す証拠は認められない。 図2−2−3−12 小間見地点調査位置図

図2−2−3−13 小間見地点地質図

G 小間見地点の詳細観察

詳細観察箇所は前述の図2−2−3−13 地質図(1/2,500)に示す。詳細観察結果を図2−2−3−14に示す。図2−2−3−14には、得られた14C補正年代値を併せて示した。

詳細観察を行った露頭位置は活断層研究会(1991)のリニアメントと一致する。

地質概査の際に、中・古生層の堆積岩類と崖錐堆積物が一部断層関係で接している露頭である。詳細観察の結果、崖錐堆積物は表土を含め8層に区分された。さらに表土の上位には人工改変による盛土が重なる。

以下に露頭に認められた地層について古い順に記す。

<中・古生層(美濃帯)砂岩>

塊状細〜極細粒砂岩。厚さ数cm〜数十cmの頁岩を挟む。

<中・古生層(美濃帯)頁岩>

片理が細かく発達し,数cm間隔で割れやすい。露頭右端では頁岩中に砂岩レンズを含む。

<断層破砕帯>

やや軟質の断層粘土に,径2〜30cmの頁岩の角礫が含まれる。断層面には数条の条線が認められ,鏡肌となっている。

<地層T>

基質は粘土混じり砂。径5〜30cmの円〜亜角礫が多く,最大約1mの礫を含む。礫種は中・古生層の砂岩,頁岩,チャートが主で,僅かに流紋岩礫を含む。

<地層U>

基質はシルト質砂よりなる。径2〜10cmの亜角〜角礫を主として含み,最大60cmの礫を含む。中・古生層起源の礫が多い。断層の北側だけに分布が認められる。

<地層V>

ルーズな中〜細粒砂で,上部でシルト質となる。径5〜20cm程度の亜円礫を含む。断層を挟んで分布し,断層延長上ではほぼ垂直に層理面が立ち,構造が乱されている。

<地層W>

ルーズな凝灰質細粒砂で,径5cm以内の亜円礫をわずかに含む。断層の北側にのみ分布する。

<地層X>

基質はローム質シルトよりなる。径2〜20cmの亜円礫を多く含み,最大70cmの礫や,少量の亜角礫が含まれる。礫種は上位の2次ローム層と同じく,中・古生層起源の礫と少量の流紋岩礫が含まれる。断層の延長上ではこの層準に含まれる礫が立っている。

<礫混じりローム層T>

二次ローム層である。

断層北側にのみ分布する。

基質は粘土質ロームからなり、上位のローム層Uよりも礫径が小さく,0.2〜20cmの砂岩,頁岩,チャート及び少量の流紋岩からなる亜角礫を含む。南に約30゜傾斜する弱い堆積構造を示す。

<礫混じりローム層U>

二次ローム層である。

下位の地層を覆って断層の両側に分布する。

基質は粘土質ロームからなり、径2〜30cmの砂岩,頁岩,チャート及び少量の流紋岩からなる亜角礫を含む。

断層近傍では下位の礫層Vとともに堆積構造が乱されている。

本層の上部では堆積構造の乱れが認められない。

<黒色土>

礫混じりローム層を覆って連続的に分布する。

旧表土と考えられる。

<盛土>

径2〜30cmの亜角礫を含むが,露頭中央より右では,礫はほとんど含まれない。

断層は中・古生層の堆積岩の中では、幅約40cmの破砕帯を伴い、断層面には鏡肌および条線が認められる。断層の走向はN37゜〜60゜W、傾斜は北に82゜である。これとは逆に38゜南傾斜を示すものもある。

ストリエーション(条線)の方向は断層の走向に対して、西に60゜〜70゜傾斜したものと東に40゜傾斜したものも見られる。前者では断層運動は左横ずれで垂直成分が卓越し、後者は垂直成分と右横ずれ(水平)成分がほぼ同程度であることを示している(断層面の方向については図2−2−3−15のシュミットネット投影に示した)。

図2−2−3−14 小間見地点露頭スケッチ

表2−2−3−7 小間見地点露頭スケッチ凡例

図2−2−3−15 断層面のシュミットネット投影(下半球)

(走向の数字は磁北、プロットは真北)

また、この露頭では、5試料の14C年代測定試料を採取し、試料採取した地層の年代地を得ることができた。年代測定結果を表2−2−3−8に示す。14C年代測定に用いた半減期や生の14C年代値・補正に用いたδ13C濃度は、巻末資料に示す。

表2−2−3−8 放射性炭素年代測定結果

試料名(geo−beta):樺n球科学研究所整理番号

測定方法(AE:AMS特急 RE:Radiometric特急)

b)那留断層(確実度V区間)に関する考察

詳細観察を行った小間見地点の露頭位置は活断層研究会(1991)の断層位置と一致している。

地形調査では、変位地形として鞍部が2箇所抽出できているだけである。地質概査では詳細観察を行った地点で活断層の可能性のある断層露頭が発見され、地質精査では、本断層露頭以外には、断層の存在を示す証拠は認められなかった。

断層露頭の詳細観察により崖錐堆積物が地層T〜Xの河成堆積物と礫混じりロームT・Uの二次ローム層に分類された。これらを覆って、黒色土(旧表土)と盛土が分布することが明らかになった。

断層により切られている堆積物は、地層T〜X,礫混じりロームT・Uの7層である。礫混じりロームの上部では堆積構造の乱れが認められないため、これ以前に断層が活動したと考えられる。

断層面の両側に分布する地層は地層T,地層V,地層X,礫混じりロームUの4層である。これらの内、地層T,地層V,礫混じりロームUの3層は断層面により直接切られている。露頭面での断層の垂直変位量は、それぞれ0.8m,0.8m,0.75mであり、ほぼ一定の変位量を示している。

したがって、ここでの断層運動は、礫混じりロームU堆積中に1回の断層変位を受けていると考えられる。

また、基盤岩である中・古生層中には幅約1.2mの破砕帯が存在する。このことから、断層面での変位が全ての変位を示していない可能性がある。そこで、地層の構成物質が細流分に富む地層Vと礫混じりロームUの基底面を基準面とし、露頭面での垂直変位量を求めてみた。平滑な基底面を示す位置での垂直変位量は、それぞれ1.1m,0.8mであり、1mオーダーと考えられる。

ここで得られた、14C補正年代値はC1,C4の若い年代値に矛盾がみられる。露頭から採取した試料はT12の有機質土を除き、AMSでしか測定できないような微小な炭化物である。また、露頭は崖地に位置しており地元の方からヒアリングを行った結果、以前から崖地であるとの情報を得た。したがって、採取した炭化物が堆積時に地層にトラップされた試料でない可能性が指摘される。以上の事実・情報を総括すると、信頼性のある14C年代測定試料はT12であり、T12の14C補正年代値2070±50yBPよりも古い補正年代値を示すC2,C3も信用できる値と考えることができる。したがって、断層変位が生じた時期は、40000(39780±790)yBP以降,2000(2070±50)yBP以前であると考えられる。

断層の単位変位量は、露頭面の垂直変位量でみた場合0.8〜1.1m(1mオーダー)であるが、ストリエーションから想定されるネットスリップを想定すれば最大でも1.5m程度である。

したがって、平均変位速度は露頭面の垂直変位量でみた場合0.55〜0.02m/千年となり、活動度はB〜C級となる。また、ストリエーションを考慮したネットスリップからみても、0.75〜0.04m/千年となり、活動度はB〜C級となる。

4)大野断層

H白鳥インター工事により出現した法面に対しての詳細観察

本地点の調査位置(1/5,000)を図2−2−3−16に、詳細観察結果(1/500)を図2−2−3−17に示す。

活断層研究会(1991)によれば、白鳥町大島東方の段丘面上から、南西に白鳥町中津屋にかけて大野断層が確実度Tとして図示されている。現在(1997年度)高速道路の白鳥インターチェンジが建設中であり、大野断層の断層線を横切るように道路法面が建設された。法面保護工が施工される前に、約200mにわたり、北側と南側の法面観察をさせていただいた。法面に分布する地質は、烏帽子岳火山岩類の凝灰角礫岩と段丘堆積物である。

以下に法面に認められた地層について古い順に記す。

<烏帽子岳火山岩類>

烏帽子岳火山岩類の凝灰角礫岩は礫の大きさ、基質の色調から3層に区分できる。

<<凝灰角礫岩1>>

道路法面に分布する地層の中で最も下位に位置する。礫は亜円礫の安山岩で、径5cm〜1mを超える巨礫からなる。くさり礫を含む。基質は締まりの良い褐色の凝灰質中〜細粒砂である。

<<凝灰角礫岩2>>

凝灰角礫岩1を整合的に覆う。礫は亜円礫〜円礫の安山岩で、径5cm〜50cm、ほとんどの礫がくさり礫となっている。基質は締まりの良い黄褐色の凝灰質中〜粗粒砂である。

<<凝灰角礫岩3>>

凝灰角礫岩2を整合的に覆う。礫は亜円礫〜円礫の安山岩で、径5cm〜40cm、希に50〜60cmのものを含む。新鮮礫よりもくさり礫のほうが多い。基質は黄褐色の凝灰質細粒砂であり、所々にレンズ状の凝灰質細粒砂〜粘土質砂を挟在する。

<段丘堆積物>

基本的には凝灰角礫岩3と不整合関係にあると思われるが、N面では薄い黄灰色の粘土を挟んで段丘堆積物と凝灰角礫岩3が接している。方向はN77゜Eを示し、85゜で北に傾斜している。

凝灰角礫岩3が法面下部に分布し、地層の分布は傾斜方向に変位10m以上を示している。粘土の方向はすぐ北に位置する段丘崖と平行であり、地層の変位は地形の傾斜方向と一致するため、ここで認められる不連続面は地すべりによるものと考えられる。大野断層の方向とは大きく斜交する。

礫は亜円礫〜円礫の安山岩で、径5cm〜40cm、希に50〜60cmのものを含む。くさり礫を含まない。基質は黄褐色粘土質細粒砂である。S面では段丘堆積物の上位に黒ボク層が認められる。

白鳥インターチェンジの道路法面には、活断層研究会(1991)に示されている大野断層もしくはそれと平行な地質的な不連続面は認められない。 また、白鳥町中津屋の北方800mの送電線の下の露頭では、中・古生層の砂岩が大野断層を横切るように、長さ50mにわたり連続的に分布している。砂岩は風化により軟質となっているものの、破砕された様子はなく、断層が示されている位置に断層は認められない。

図2−2−3−16 白鳥インターチェンジ工事道路法面調査位置図 図2−2−3−17 白鳥インター付近の高速道路法面スケッチ I 白鳥町(1996):「活断層調査委託報告書」の検討・評価

白鳥町(1996)の検討・評価としては、先ず(イ)調査目的・調査手順 を示し、次に(ロ)各調査の成果(図等) を示し、最後に(ハ)白鳥町(1996)成果から大野断層の実在性を検討する 手順とした。なお、(イ)(ロ)については調査が適切に行われているか検討した結果を「」付きで示した。

(イ)調査目的・調査手順(白鳥町(1996)より引用)

イ)調査目的

上記調査地において、大規模工業団地の計画が進められている。しかし、この地域には空中写真から大野断層と呼ばれる活断層が想定されており、その存在性が問題となっている。本業務は想定された大野断層付近の地質構造を把握し、大野断層そのものの実在性を検討することを目的とした。

注)上記調査地:岐阜県郡上郡白鳥町那留地先

ロ)調査手順

1.既存資料,空中写真により、大野断層に相当するリニアメント(線構造)を判読する。

2.判読したリニアメントを中心に地表地質踏査を行い、地質状況を把握する。

3.電磁気探査,磁気探査,自然放射能探査,電気探査を実施し、地質の不連続箇所を抽出する。

4.抽出された地質不連続箇所を挟んでボーリング調査を実施し、地質構成を確認するとともに、ボーリング孔を利用した標準貫入試験および電気検層により地層特性を把握する。

5.以上を総合的に判断して、大野断層の実在性を検討する。

「調査手順については、大野断層の実在性を検討するという目的に対し有効な方法を選択し、適切な手順で行っていると考えられる。ただし、地表地質踏査を除いて全て間接的な調査方法であり、直接的に断層の有無を調査することを検討していない点(トレンチ調査や断層面を抜くボーリング調査を行っていない点)が課題として残る。」

(ロ)各調査の成果(図等)(白鳥町(1996)より引用、一部編纂)

1. 大野断層に相当するリニアメント(線構造)の判読成果

図2−2−3−18 に示すリニアメントA・Bが抽出されている。リニアメントBについては、今回の地形調査で抽出した高位段丘面の西側の段丘崖を抽出している。リニアメントAについて、白鳥町(1996)では、直線的な麓線とそれに連続する山腹斜面の傾斜変換点および鞍部で規定されるとして抽出されているが、断層変位地形として抽出しておらず根拠としては曖昧である。」

図2−2−3−18 空中写真判読によるリニアメントの分布

白鳥町(1996)より引用 2.リニアメントを中心にした地表地質踏査成果

「リニアメントを中心にした地表地質踏査の結果、断層露頭の発見はなされていない。今回の地形概査でも断層露頭は発見できなかった。」

3.物理探査成果(電磁気探査,磁気探査,自然放射能探査,電気探査)

「リニアメントABを跨ぐT測線,Aを跨ぐU測線,Bを跨ぐV測線の物理探査測線が設定され、それぞれ次の物理探査が行われている。

T測線:電磁気探査

U測線:電磁気探査,磁気探査,自然放射能探査,電気探査

V測線:電磁気探査

電磁気探査はVLF−MT法により測点間隔5m、磁気探査はプロトン磁力計により5−10mの測点間隔、自然放射能探査はα線検知用フィルムを用いて5−10m間隔、電気探査はWENNNER法による垂直探査3点が実施されている。

いずれも、測定点もしくは深度方向の1次元の情報として成果が得られている。得られている結果を編纂し、測線毎に図2−2−3−19(図2−2−3−19−1−1図2−2−3−19−1−2図2−2−3−19−2に示す。

これら物理探査の結果から、U測線の165m付近で地質が変化している可能性が大きいことを示している。また、この位置はリニアメントAの近傍に位置しており、リニアメントAがT測線を横切る付近にも見かけ比抵抗の異常値が存在していることを指摘している。

同様にT測線とV測線の見かけ比抵抗の異常箇所が概ねリニアメントBの上に載ることを指摘している。地質構造の変化地点を示していることを予測している。

この地質構造の変化を物理探査結果のみから判断することは困難であるとし、物理探査の章を結んでいる。

物理探査については、方法・結果・評価に関して論旨に矛盾がなく、客観的にみて妥当性のあるものである。

しかしながら、実際に行われた方法では、2次元断面として得られる手法ではないため、測点の位置と不連続点の位置関係が明らかでないことや不連続の地下構造が得られていないことが残念である。

ここで得られている不連続点は今回の地質概査では、地質境界にあたっており、これがテクトニックにより生じた物理探査パラメータの不連続点であるのか、単に堆積環境の違いにより生じたものであるのかは、評価できない。」

図2−2−3−19−1−2、測線の物理探査成果

           (電磁気探査・磁気探査・自然放射能探査)

図2−2−3−19−2、測線の物理探査成果(電気探査)

図2−2−3−19−1−1、測線の物理探査成果(電気探査)

4.ボーリング調査成果(標準貫入試験・電気検層)

「3.物理探査成果 を受けU測線の165m地点(地質構造の変化地点)を挟むように3孔のボーリング調査及び1mピッチの標準貫入試験・ボーリング孔を利用した電気検層(ノルマル法:孔内の電極間隔1m)を実施している。標準貫入試験から得られたN値や電気検層から得られた地層の見かけ比抵抗値はボーリングコアから観察される地層の分布状況に良く対応している。ボーリング調査から作成されたU測線地域の地質層序を図2−2−3−20に示す。

この図によればリニアメントAの西側(B−1,B−2)では地層の層序・層厚とも連続するが、東側(B−3)では層序は同じであるが、基盤の風化層及び玉石混じり砂礫層の層厚が西側と比較して薄く示されている。また、表層付近には西側でみられない粘土〜砂層が分布しており、地下水位も若干異なる様に示されている。

そして、リニアメント付近の地質構造の不連続の原因を一般には断層,不整合,地すべりの何れかが考えられるとし、結論として段丘による不整合を想定している。

また、B−1の基盤(凝灰角礫岩)の固結度が低いことから、断層による撹乱も考えられるとしている。

これらボーリング結果の整理・結果の考察は論旨が明確で妥当な評価であると考えられる。

以上の成果をもとに、U測線の地質想定断面図を図2−2−3−21に示す。物理探査成果およびボーリング調査成果のそれぞれの成果から断層の有無を明確に判断することは出来ず、結果的に地質構造の不連続の原因を段丘による不整合を想定して断面図を描いている。しかし、リニアメントを跨いで分布する玉石混じり礫層の対比がされておらず、基底面(凝灰岩)の比高差についても説明がなされていないので、段丘による不整合を想定する根拠にも乏しい。」

図2−2−3−20 U測線地域の地質層序

図2−2−3−21 地質想定断面図(U測線)

5.大野断層の実在性

「空中写真判読により抽出したリニアメントA・Bを対象にT測線〜V測線の3つの調査測線を設置し、物理探査・ボーリング調査を実施している。

リニアメントAについては、U測線でのボーリング調査により段丘崖として解釈し、各種物理探査結果の異常を説明している。T測線で見かけ比抵抗の異常があることから、段丘崖が連続している可能性が高いと指摘している。しかし、これら一連の調査は地質構造を間接的に調べたものでしかなく、大野断層の存在の可能性を完全に否定したものではないとし、断層も有無を明確にするためにはトレンチ調査により直接観察することが必要と結んでいる。

リニアメントBについては、電磁気探査の結果のみから断層が線構造として現れたものである可能性が大きいとしている。

以上の調査を客観的に判断した場合、行われた調査は大野断層の実在性を評価するための予備的な調査(断層の有無を直接観察するための候補地選定のための調査)であると位置付けることができる。

各種調査の測線の設定方法については、空中写真判読によりリニアメントを抽出しているが、断層変位地形を抽出し(活)断層を抽出したと言えるものではない。結果的には、長めの測線を設定し測線上の断層を有無を判定することが可能な測線配置になっている。

測線上で行われた調査は、いずれも地質構造を間接的に捉えるものであり、また、点もしくは1次元の情報として捉えるものであり、2次元断面上での地質構造の不連続を得られていない。

したがって、調査結果からは、U測線で物理探査結果の不連続が認められ、ボーリング調査により地質構造の不連続を確認したことが客観的に妥当性のある成果と考えられる。また、T測線・V測線では、見かけ比抵抗の不連続が認められたことが客観的に妥当性のある成果と考えられる。」

(ハ)白鳥町(1996)成果からの大野断層の実在性の検討

白鳥町(1996)成果からの大野断層の実在性については、直接観察が行われていないため検討できない。

今回の調査に利用可能なデータとしては、

・U測線で物理探査結果の不連続が認められ、ボーリング調査により地質構造の不連続を確認したこと

・T測線・V測線では、見かけ比抵抗の不連続が認められたこと

の2点である。

これら不連続の位置は、今回の地形地質調査で作成した地形分類図・地質図によれば、いずれも地形境界・岩相境界にあたり、断層により生じた不連続とは考えられない。

A)大野断層に関する考察

活断層研究会(1991)では、確実度Tの断層として大野断層が示されている。その抽出根拠は、空中写真判読による逆向き低断層崖をあげている。

地形調査では、活断層研究会(1991)に示されている断層変位地形(逆向き低断層崖)は抽出できなかった。確実度Tの大野断層の位置には高位段丘面下位の段丘崖が抽出された。

現在(1997年度)高速道路の白鳥インターチェンジが建設中であり、大野断層の断層線を横切るように約200mわたりに道路法面で地層が露出している。地質概査では、この法面の詳細観察を行った。その結果、大野断層もしくはそれと平行な地質的な不連続面は認められかった。

また、白鳥町中津屋の北方800mの送電線の下の露頭では、中・古生層の砂岩が大野断層を横切るように、長さ50mにわたり連続的に分布している。砂岩は風化により軟質となっているものの、破砕された様子はなく、断層が示されている位置に断層は認められない。

大野断層の存在を示す証拠は確認できず、活断層研究会(1991)に示されている大野断層は存在していないと考えられる。