(1)長良川上流断層帯の地質

本調査地域は、北西端を岐阜県大野郡高鷲村とし、南東端を岐阜県郡上郡八幡町とした、南北に伸びる幅約2〜6km、長さ約30kmの狭長な範囲である。北半分は、長良側の左岸を中心とした地域であり、南半分は長良川の右岸と左岸に分かれた帯状の地域である。

地質に関する文献は、調査地域の南半分の地域には脇田 浩二(1984):1/5万図幅「八幡地域の地質」が存在し、調査地域全体としては中部地方土木地質図編纂委員会 (1992):中部地方土木地質図解説書(中部地方土木地質図1)が存在する。

これらによれば、本地区に分布する地質は、古い時代から概ね以下のように大別されている。

 A.中・古生層(堆積岩類)(地体構造区分で美濃帯に属する)

 b.奥美濃酸性岩類

 c.烏帽子岳火山岩類および大日ヶ岳火山噴出物

 d.段丘堆積物

 e.沖積層および崖錐堆積物

本地域の基盤岩である中・古生層(美濃帯)は山地を形成し、砂岩,泥岩(頁岩),チャート,緑色岩,石灰岩等の多様な岩相からなる。調査地域南部には泥質岩が優勢で、チャート・石灰岩・緑色岩類の砕屑岩あるいは異地性岩塊が特徴的に分布する。調査地域中部では砂岩が非常に優勢で、頁岩・チャートを伴う。美濃帯の研究史としては、1980年以前まで石灰岩中に確認される紡錘中の化石などから古生層(二畳系)と考えられていたが、1980年以降には頁岩やチャートなどからジュラ系の放散虫が報告され、古生層起源の異地性岩塊を含むジュラ系とされている。

奥美濃酸性岩類は南北に広がる調査地域のうち、八幡断層の西側に帯状に分布する。また、調査地北部に広く分布する。流紋岩・流紋岩質凝灰岩・酸性岩岩脈から構成され、白亜紀の酸性岩活動により形成されたとされる。一般には奥美濃酸性岩類は美濃帯を不整合に覆うとされているが、調査地域の中・南部では八幡断層により接していると考えられている。

烏帽子岳火山岩類および大日ヶ岳火山噴出物はいずれも鮮新世後期から更新世前期の火成活動により噴出したと考えられている。安山岩質溶岩および火砕岩から構成されている。烏帽子岳火山岩類は、一部に砂岩〜シルト岩・円礫岩などの湖成層を伴う。調査地域での、鳥帽子岳火山岩類の分布は調査地南東部と中央部の長良川左岸の狭小な範囲に限定される。大日ヶ岳火山噴出物は、調査地北端部に限定される。烏帽子岳火山岩類の溶岩のK−Ar年代は1.2〜1.5Maと報告されている(清水ほか、1988)。大日ヶ岳火山噴出物の溶岩のK−Ar年代は約1.0Maと報告されている(東野ほか、1984;清水ほか、1988)。

段丘堆積物は長良川本流及び支流沿いに分布している。脇田(1984)は八幡地域周辺に分布する段丘を古期段丘と新期段丘に区分している。層相はおもに安山岩および流紋岩の礫を含む砂礫層である。調査地域内の段丘の形成年代に関する研究は行われていない。

沖積層は、長良川沿いの谷底平野に分布する。主にルーズな泥・砂・礫からなる。崖錐堆積物は、山地と低地の境界付近に普遍的に分布する。主にルーズな泥・砂・礫からなる。調査地域南西部の落部集落の西側斜面には、規模の大きな崖錐が分布する。