6−1−5 火山灰(テフラ)分析

火山灰分析は,採取した試料に含まれる火山ガラス及び斜方輝石の屈折率を測定し,日本各地の豊富な指標テフラ層との同定・対比を行い,年代を推定するものである。

火山灰分析の分析の流れを図6−1−5に示す。

このうち本分析における主たる分類・測定方法の概要を次に示す。

図6−1−5 火山灰分析の流れ

a.偏光顕微鏡による鉱物分類方法

本分析は,主に火山噴出物を検出することを目的として実施した。多くの地域では広域テフラによくみられるタイプの火山ガラスの他にローカルな火山噴出物で発泡の痕跡がみられないものを多く含む。また,リン灰石などの無色透明な重鉱物を識別(石英や斜長石の識別)する必要がある。このため,洗浄した試料は,光学レンズ用光硬化樹脂接着剤(屈折率1.545程度)で封入し,ベッケラインをみながら鉱物を識別した。

一般に火山灰分析を含む砂成分の分析では,識別できる出現鉱物を全て同定し定量化する。データは,目的に適応した有意で最小の区分を用いて分類する。

今回の区分もこの手法に基づき表6−1−6のような鉱物区分で分類した。

表6−1−6 鉱物組成分類方法

b.火山ガラスの形態分類方法

火山ガラスは無色透明,有色透明(主に淡褐色透明),鉱物付着に区分した。

本分類では,Nikon製の微分干渉装置を用い,火山ガラスの形態を立体的に観察した。形態の分類については,Ross(1928)やHeiken(1972)が平板型,Y・X型,多孔質型の3タイプに分類している。吉川(1976)はこの3タイプのうちのY・X型(H型)と多孔質型(T型)との間に中間型(C型)を設け,C型とT型では,球状の発泡(CaおよびTa型)とチューブ状の発泡(CbおよびTb型)とに区分した。町田・新井(1978)は平板型およびY・X型をBubble wall(バブルウオール)型に,多孔質型をPumice(パミス)型に区分している。また,鎌田ほか(1994)はこのパミス型をマイクロパミスと表現して,本来のパミスとの区別を行っている。古澤(1990)は,発泡の形態と大きさとういう2要素に着目して,吉川(1976)の分類のうちH型を,球状の発泡とチューブ状の発泡とに区別し,発泡の大きさと形とを機械的に区分した。

今回の分類も基本的に古澤(1990)に従った。すなわち,ガラス内に残る発泡跡の形態が,球状に発泡したバルーン型(B型),チューブ状に発泡したチューブ型(T型),おそらく大きな曲率のため泡の接合部がみられず,平板ないしはゆるく湾曲した扁平型(P型),および発泡の痕跡がみられないその他(O型)の4型に区分した。また,発泡の大きさは,長さ0.1mmの中に発泡跡が1〜2個しか入らない場合を大径(l),3〜7個入るものを中径(m),8個以上入るものを小径(s)とし,たとえばチューブ型(T型)で中径(m)のものをTm型と表現した(図6−1−6)。この分類方法は,古澤(1990)のそれにその他(O型)を追加したものである。ただし,発泡密度については発泡跡のあるガラスのほとんどがほぼ完全に発泡(泡と泡とが密着)しているため付記していない。特に密度の低いものについては,低発泡と表現している。

以上の基準に従い,接眼レンズに方眼ミクロメーターを装着して,ステージを回転させながら分類を行った。測定する個数は1試料ごとに200個を目途とした。

図6−1−6 火山ガラスの形態分類法

P型:おそらく大きな曲率のため泡の接合部がみられず,平板ないしはゆるく湾曲した扁平型,Bl:大径バルーン型,Bm:中径バルーン型,Bs:小径バルーン型,Tl:大径チューブ型,Tm:中径チューブ型,Ts:小径チューブ型,O:発泡跡のみられないその他の型。

c.屈折率測定方法

火山ガラスおよび斜方輝石の屈折率の測定には,浸液の温度を直接測定しつつ屈折率を測定する温度変化型測定装置“MAIOT”を使用した(図6−1−7参照)。測定精度は火山ガラスで±0.0001程度である(古澤,1995)。

顕微鏡は,Nikon顕微鏡X2シリーズ(偏光・位相差装置付),位相差用対物レンズ(10倍),光源は12V100Wハロゲンランプ,全誘電体干渉フィルター(589.3nm)を使用した。温度変化装置として全面等温度透明加温板(0.1℃の精度で制御可能),プログラム温度コントローラー(0.1℃の精度で制御可能),高感度熱電対(0.1℃の精度で測定可能),パーソナルコンピューターを使用した。

以下に測定の手順を示す。

@顕微鏡ステージ上に設置した加温板に浸液と試料および熱電対とを密封したごく薄いカプセルを載せる。カプセルは,大きさ18×24mm,厚さ0.12〜0.17mmのガラス板(下板)と,直径18mmで同じ厚さのガラス板(上板)との間に,熱伝導性の高いシーリング材を使用して浸液と試料および熱電対を密封したもので,総厚が0.5〜0.6mm程度である。浸液は単一化学式を有する有機化学合成液である。

A加温板の温度を制御して,ほぼ一定の温度変化速度で浸液および試料の温度を室温〜60℃の範囲で変化させる。この様子を,位相差状態の顕微鏡で観察する。観察時の波長はナトリウムD線(589.3nm)である。この画像を観察しながら,ガラスの輪郭が消失する温度を記録する。実際には温度上昇あるいは下降時に1回パーソナルコンピューターに接続されたマウスを左クリックする。屈折率は,あらかじめ作成した各浸液の温度と屈折率との一次式から変換され,パーソナルコンピューターに記録される。測定個数の目処はガラスが30片,斜方輝石が10片である。ただし,値にバラツキがある試料では,モードを把握できるまで測定した。記録された屈折率,熱伝対の温度データはリアルタイムにパーソナルコンピューターに入力され,温度,測定個数などとともに屈折率ヒストグラムとしてモニターに表示される。

図6−1−7 温度変化型屈折率測定(MAIOT)の概念