(1)地震活動のシナリオを描くに際しての問題点と今後の課題

上に述べた地震活動のシナリオは,前提として設けた2つの仮定の他に,坪沼−円田断層の平均変位速度と単位変位量に関するいくつかの不確かなデータをもとに描かれている。それらを以下に列挙し,今後の課題も指摘しておく。

1. 坪沼−円田断層の平均変位速度と放射年代値

断層変位量の計測はトレンチ内だけで行うため,断層を挟んだ引きずりとたわみによる変位成分が十分評価されておらず,単位変位量も過小評価されがちである。したがって,真の単位変位量はトレンチでの計測値(実変位0.92m)より大きく,平均再来間隔はより長くなる余地がある。ただし,坪沼−円田断層の長さ(約12km)に相当する単位変位量(1m)を上回るような場合は,坪沼−円田断層と長町−利府線がひとつの地震断層として活動する場合に相当し,5.3.1項の4で述べたことに反するので,ありそうにない。

2. 単位変位量の計測値と平均再来間隔

断層変位量の計測はトレンチ内だけで行うため,断層を挟んだ引きずりとたわみによる変位成分が十分評価されておらず,単位変位量も過小評価されがちである。したがって,真の単位変位量はトレンチでの計測値(実変位0.92m)より大きく,平均再来間隔はより長くなる余地がある。ただし,坪沼−円田断層の長さ(約12km)に相当する単位変位量(1m)を上回るような場合は,坪沼−円田断層と長町−利府線がひとつの地震断層として活動する場合に相当し,5.3.1項の4で述べたことに反するので,ありそうにない。

3. 平均変位速度と仮想的な“最新イベント”の有無

真の平均変位速度がより小さいなら(1で述べた理由),単位変位量が1m程度(M6.6に相当)であっても,“最新イベント”を想定しなくてもよくなる。これを満足する平均変位速度(1mをイベント1以降の経過時間約7,000年で割った値)は約0.15m/ky(表2 に掲げた0.25〜0.3m/kyの約1/2)以下でなければならない。しかし,今のところこのように小さな平均変位を積極的に支持するデ−タは無い。

4. 長町−利府線と坪沼−円田断層がひとつの断層として活動する可能性

Iの4および上の2で述べた理由から,長町−利府線と坪沼−円田断層がひとつの断層として活動する可能性は低いものと評価する。ただし,5.3.5項で詳しく述べたように,両者がほぼ同時期に活動し,連動地震あるいはマルチプル ショックの地震を発生する可能性は十分にある。

5. 今後の課題

a. 先ずなすべきことは,坪沼−円田断層の断層崖基部でトレンチ掘削を再度実施し,“最新イベント”を実証することである。ここで複数の地震イベントが把握できたなら,平均再来間隔と単位変位量の直接的データを手に入れることにもなる。

b. 長町−利府線に関しては,断層が地表まで達していないため,2回の液状化イベントを除き,地震イベントの直接的データが皆無であった。そのため,back thrustの大年寺山断層のピット掘削によってこれを補おうとしたのであったが,適当な時代の地層が欠如して,当初の目的を達成できなかった。場所を移して同様な試みをする必要がある。

図5−3−1 長町−利府線と坪沼−円田断層における想定断層活動時期の比較