(6)坪沼断層

1)断層の位置

 名取市中沢付近から仙台市太白区根添付近まで直線的な急崖の連続的な配列によって、SL−4リニアメントが判読される(写真2−38)。本断層はこのリニアメントに沿って分布し、高度のやや高い急峻な丘陵部と、開析されて広い沖積平野の発達した高度のやや低い丘陵との境界をなしている。

2)断層付近の構造

 中沢の露頭で見出された断層は、高舘層中に発達する破砕幅約160cmの規模の大きい断層(断層面の走向・傾斜:N40゜E・70゜NW)で、坪沼断層の本体とみなせる。しかし、この露頭状況からでは変位量は不明である。坪沼川がSL−4リニアメントを横断する付近では、高舘層が南東側に約60゜の急傾斜を示している(写真2−40写真2−90−1写真2−90−2)。また、根添付近ではリニアメント部で高舘層が崖錐堆積物に衝上する本体の逆断層とみられるものが確認されている(写真2−39写真2−40写真2−89)。

 大八山牧場への進入路で見出された逆断層(断層面の走向・傾斜:N58゜・E40゜N)は高舘層が愛島火山灰に衝上し、その変位量が北西上がり数mであるが、その変位規模からみて派生断層と考えられる。

 図2−9−1図2−9−2にJ−J´断面図(生出−中沢−山田)、K− K ´断面図(碁石−坪沼−菅生瀧前)を示し、以下に断層付近の地質構造について記述する。

@J−J´断面図では坪沼断層は高舘層と茂庭層に北西上がりの変位をあたえており、その垂直変位量は両層の境界面で約90mである。

AK−K´断面図では、本断層南東側では茂庭層、高舘層及び槻木層の各層とも断層に向かって傾斜するが、ほぼ水平に近い構造をなしている。しかし、本断層の北西側では高舘層及び槻木層が規模の大きい緩やかな背斜状の構造をすが、断層付近で急に折れ曲がり、急傾斜帯を構成している。この急傾斜帯で上記の根添の断層露頭が確認されている(図2−10露頭スケッチ)。この断層は走向・傾斜はN68゜E・78゜NWの逆断層である。その破砕幅は約60cmで、幅1〜6cmの断層ガウジを伴う。北西側の上盤は高舘層の安山岩及び凝灰角礫岩よりなり、南東側の下盤は崖錐堆積物よりなる。その変位量は露頭の範囲内で3m以上である。この正確な変位量については今後の詳細を待って検討する必要がある。

 この付近での断層の変位量は高舘層と茂庭層との地層境界で約170mである。

また、本断層を挟んだ北西側の丘陵の侵食小起伏面の分布高度と南東側のそれを比べると前者の方が高く、その高度差は約165mである(大槻ほか、1977)。

3)断層の評価

(1)断層の位置及び長さ

 本断層の長さは、中沢付近から根添付近までの約5〜6kmである。

(2)断層の平均変位速度

 本断層北東端付近及び南西部で見積もられる垂直変位量は、茂庭層基底でそれぞれ約90m及び170mである。また、侵食小起伏面では約165mの垂直変位量が見積もられる。この断層の活動開始時期は、中新世以降の周辺の地殻運動の傾向から長町−利府線と同時期の約45万年前と考えられるから、断層の北東端付近は平均垂直変位速度0.2m/1000年となり、その活動度はB級に属す。それの対して、南西部での平均垂直変位速度は0.37m/1000年となり、その活動度はB級に属する。

 根添付近の断層露頭での垂直変位量は3m以上である。また、この崖錐堆積物中より採集した有機質シルト中の炭質物による14C年代測定値は、13770±260y.B.Pであった。仮に新しい植物根などの混入がなく、この値がこの地層の年代値を直接表していると考えると、上記の変位量3m以上に対する平均垂直変位遠度は、0.22m/1000年以上となる。この値は上記南西部で見積もられた平均変位速度値にかなり近いものとなっている。したがって、坪沼断層は南西部から北東部に向かって、その活動度が減衰する傾向にあると推定される。