(3)長町−利府線(中部地域)

1)断層の位置

 岩切付近から富田付近までの区間でも、丘陵地及び段丘面と沖積平野を境する北西側上がりの撓曲崖として認められる。それらはMF−1撓曲及びMF−5撓曲に代表され、仙台上町段丘面、仙台中町段丘面T、仙台下町段丘面T及び青葉山段丘面U・Vと沖積平野との境界をなしている。地下鉄掘削時のデ−タ(図2−3)でも撓曲は明瞭に確認されたものの、断層本体は発見されていない。したがって、断層はさらに沖積平野側に伏在していると考えられる。長町−利府断層による変位は東北新幹線と交差する元茶畑付近に形成されている小規模な崖(写真2−34写真2−35)によって確認できる。また、大年寺山南東斜面では、向山層と大年寺山層が約40゜、青葉山段丘面Vが約20゜南東側に傾斜している(写真2−37)。したがって、長町−利府断層本体は、大年寺山−三神峯南東斜面麓部と沖積平野の境界部付近にあるものと想定される。

2)断層付近の構造

 図2−7−1図2−7−2に、長町−利府線と直交するF− F´断面図(鶴ヶ谷付近)、G− G´断面図(榴ヶ岡付近)、H− H´断面図(大年寺山付近)及びI− I´断面図(富田付近)を示す。以下に各断面図について説明する。

@F−F´断面図(鶴ヶ谷)

 七北田丘陵を横断する断面図である。番ヶ森山背斜の南西延長部が存在するものの、背斜両翼の傾斜は5゜程度と、きわめて緩くなっている。想定される長町−利府断層の位置は、JR東北本線と東北新幹線の間で沖積層が急に厚くなっている付近である。

AG−G´断面図(榴ヶ岡)

 榴ヶ岡の丘陵を横断する断面図である。地層は、梅田川と交差する付近の清水沼付近まではほぼ水平であるが、宮城野原駅東側では撓曲により南東方向に傾斜していると考えられる。長町−利府断層の位置は、沖積層が急に厚くなる総合運動場付近に想定される。なお、名取ほか(1986)によると、本断面図に近い宮城野総合運動場の野球場付近の仙台上町段丘前面において沖積層の厚さが急増する位置にαトラック密度のピークが見られた。

GH−H´断面図(大年寺山)

 青葉山から広瀬橋付近までの断面図である。竜の口渓谷周辺から鹿落坂断層までは地層傾斜はほぼ水平であるが、鹿落坂断層と大年寺山断層の間には、極めて緩やかな向斜構造がある。この断面図付近で判読されているML−5リニアメントは鹿落坂断層に一致し、ML−9リニアメントは大年寺山断層に一致している。大年寺山南東側では、撓曲により鮮新世の地層が約40゜、更新世の地層が約20゜南東側に傾斜しており、この部分にMF−15リニアメントが判読されている。長町−利府断層の位置は、大年寺山南東麓より約100mほど沖積平野側に想定される。

CI−I´断面図(富田)

 山田から上野を通り、富沢付近までの断面図である。中新世旗立層、綱木層、鮮新世亀岡層、竜の口層、向山層、大年寺層が分布する。これらの地層は、山田から上野付近では北東側に40゜〜60゜傾斜している。これは北西方向に延び る鈎取−奥武士線(撓曲)に伴う構造である。西多賀付近の笊川流域では河床露頭における地層の走向・傾斜から小背斜が竜の口層と向山層にみられ、この小背斜と鈎取−奥武士線間に小向斜が想定される。これらの小褶曲は、長町−利府線の撓曲構造を反映している可能性がある。

3)断層の評価

(1)断層の位置及び長さ

 長町−利府線の北部地域からの延長部が、岩切付近の沖積平野下に伏在している。長町−利府線は、東仙台付近から西多賀付近までの、仙台市街地と沖積平野及び大年寺山−三神峯南東斜面と沖積平野の境界部に形成される撓曲崖の、さらに沖積平野側に伏在していると考えられる。西多賀よりも南西方にもリニアメントが見られるが、名取川河床ではこれらリニアメントに直接対応するような断層及び撓曲は見られない。名取川より南西方には長町−利府線が延長していないと考えると、長町−利府線の調査地中部地域付近での長さは、岩切付近から富田付近まで12kmであると考えられる。

(2)断層の平均変位速度 

 図2−8に中田ほか(1967)による長町−利府線周辺の断面図を示す。断層沿いの段丘面の高度の変化から、平均垂直変位速度は約0.5mm/年以上と算出されている(中田ほか、1967)。