1−3−3 主要文献の文献抄録

長町−利府断層帯の活動性を評価している主要文献の抄録を以下に示す。

●著者名:田山利三郎  発行年:1933

 題名:北上山地の地形学的研究其の一、河岸段丘A仙台近傍の河岸段丘

 掲載誌:斉藤報恩会学術研究報告 第17号、頁1〜83

 内容:地形(河岸段丘)

 仙台近傍の花川、吉田川、七北田川、広瀬川、名取川、碁石川、白石川、松川に発達する河岸段丘を記載し比較対比を行った。その結果、下位より吉田段丘、広瀬−名取段丘、七北田段丘、王城寺原段丘の各面が識別され、それらは関東地方の後関東ロ−ム段丘下段、後関東ロ−ム段丘上段、武蔵野段丘下段、武蔵野段丘上段にそれぞれ対比される。段丘の分布や河谷の断面形から、北北東−南南西性とこれに直交する西北西−東南東性の地盤運動が推定される。前者の運動を代表するものは長町−利府線に沿う宮城野撓曲で、撓曲線に沿って高位段丘が発達しその内側にやや低位の段丘が見られる。この撓曲は七北田川から岩沼近傍まで認められ、大年寺礫層堆積後、現在に至るまで活動が続いているようである。円田盆地西辺をなす白山撓曲線も類似の撓曲線であり、顕著な不整合を以て覆う礫層堆積後も地殻運動は続いた。また、名取川に沿った大沢、広瀬川沿いの三滝、七北田川の古内付近に背斜拗曲の軸が認められる。この軸はほぼ南北に方向をとり、北は吉岡、南は船岡付近まで延長している。西北西−東南東性の運動についても、吉田川では七北田・名取−広瀬段丘は南岸によく発達し、七北田川以南の河川では、王城寺・七北田段丘は北岸に、名取−広瀬段丘は右岸或いは左岸に発達する事実から、富谷地塊南縁を軸とする拗曲運動が推定できる。

 河岸段丘発達史を編むと以下のようになる。

 @中央分水嶺に発し高位段丘面を流下する河川が存在した。

 A富谷地塊南縁に軸線を有する褶曲運動による富谷地塊の南方傾下、南の地塊の北方傾下が起きた。

 B次に、反対の運動による富谷地塊の北方傾下、七北田地塊以南の地域の南方傾下が起きた(王城寺・七北田段丘形成)。

 C次に名取川−広瀬川間に軸線が移動した(名取−広瀬段丘形成)。

 D次に全体的な沈降あるいは海水面の上昇が起きた(吉田段丘礫層堆積)。

 Eその後、背斜勤曲運動を持続しつつ全体的に隆起した(吉田段丘形成)。

●著者名:田山利三郎  発行年:1934

 題名:仙台近傍最近地質時代の地盤運動に就て

 掲載誌:地震研究所彙報 第12巻、第1号、頁77〜95

 内容:新期地殻変動

 仙台及びその近傍には、青葉山礫層に覆われ、高度300m〜100mの階段状の台地面が発達している。海岸線にほぼ平行な低地と台地の境界は急崖をなしている。新期の段丘は通常礫に覆われ、高位より王城寺原、七北田、名取、広瀬及び吉田段丘と呼ばれ、それらは関東地域のM1、M2、PL1及びPL2にそれぞれ対比されると考えられる。本地域の基盤岩は中新世および鮮新世の時代のものでほとんどは堆積岩である。台地を覆う青葉山礫層は、おそらく更新統である。

 台地の変形とその地表への波及効果をこれら若い段丘と関連づけて考察すると、変形には多くのケ−スが推定されるが、それらは3つのカテゴリ−にまとめられる。すなわち、撓曲運動、拗曲運動、断層運動である。仙台付近の長町から北方へ北東傾向で延びる台地と低地の境界は、矢部教授のいう長町−利府線で、その一部は第一のカテゴリ−にはいる。この宮城野撓曲には、本地域の鮮新統の最も若い地層の一つである大年寺礫層も参加しているが、次に若い青葉山礫層は参加していない。宮城野撓曲線に沿う変形は、より新しい段丘が他では下流傾斜なのにここでは上流傾斜であることで示されるように、その後も幾度か断続的に繰り返しており、仙台の連坊小路−成田町間で宮城野撓曲線と交差する東北本線の線路が再三故障することからも、今なお活動していると思われる。

 仙台の約18km南南西の円田盆地の西縁を画す白山撓曲は、北西−南東方向で、最初の出現は青葉山礫層よりも新しいが、その運動は少なくとも広瀬段丘形成後まで繰り返していた。台地が隆起あるいは沈下拗曲し、あるいは今なお拗曲している多くの場所は、これらの新しい段丘の水平的・垂直的分布を比較することで、見いだされる。これらの面のいくつかは、平行な七北田、広瀬及び名取川の河谷を横切る方向に軸が配列している。三滝で広瀬川を横切る隆起拗曲の三滝拗曲軸はその良い例である。更に、隆起拗曲には2つの重要な軸があり、一つは名取川沿いに、もう一つは吉田川と七北田川の間にある。後者は宮城野撓曲にほぼ直交し、七北田段丘後に形成され、地形的には断層(七北田断層)とかつては考えられた構造線にほぼ相当する。吉田川の北は沈下拗曲運動の広大な地域である。

 阿武隈山地の東縁をなす岩沼−久ノ濱断層は、南から本地域の南部に進入している。これは岩沼で長町−利府線に連続するとの考えもあるが、この断層運動が、長町−利府線のように、後青葉山期に再び活発になったのか確かめるには至らなかった。

 鈎取断層は次に重要な断層で、北東から南西に仙台市街の反対側の向山を横切り、その最後の活動は青葉山礫層堆積後にあったとされる。小規模の断層は普遍的に見られ、そのいくつかはおそらく今も活動していることから注目に値する。仙台の苦竹断層で示されるような、若い段丘礫層を切って西から東へ押し上げる逆断層などがその一例である。

●著者名:田山利三郎  発行年:1936

 題名:仙台大年寺山の山崩

 掲載誌:地震研究所彙報 第14巻、第2号、頁271〜284

 内容:山崩れ

 1935年10月27日、本地域には珍しい山崩れが仙台南部の大年寺山東斜面の谷頭で発生した。仙台近傍においては、有史以来山崩れを繰り返してきたのは三滝拗曲線に沿った広瀬川峡谷地帯が有名であって、その区域以外での山崩れの記録はあまりなかった。今回の山崩れは、雨後の10月9日夜に始まり、大きな裂構を生じた。これの方向は1924年の同じ場所での崩崖を暗示する急斜面の方向に一致する。そして27日夜、大雨の後、地帯が陥落し、大断崖が形成された。長さ約80m、幅約20mのブロックが最大9m滑落しており、その前の90m×100mのブロックは前方に1m動いていた。この山崩れの原因として、以下の事柄が考えられる。

 @気候的条件:1935年9月には例外的に雨が多く、また山崩れの発生した日には85.7mmの降水量が記録された。

 A地質的条件:この地域の上部の地層は透水性の岩石(大年寺貝層の黄色砂層と青葉山段丘礫層)からなっており、またその下位の地層は不透水性の砂質頁岩(大年寺貝層)で東に10゜傾斜している。

 B構造的条件:この地域はいわゆる「宮城野撓曲線」に沿ったところにあり、それは今なお活動していると思われる。

●Shoshiro Hanzawa,Kotora Hatai,Junichi lwai,Nobu Kitamura and Toyokichi Shibata  発行年:1953

 題名:The geo1ogy of Sendai and its environs

 掲載誌:Science Reports of Tohoku University,2nd Series(Geology)(東北大学理科報告(地質学)) 第25巻、頁1〜50

 内容:地質・層序

 本論文では、南は阿武隈山地北端から北は北上山地南東部付近、西は脊梁山脈近くに及ぶ地域の地形・地質・層序及び地史について論じられている。

 仙台地域における第三系は、古生界の割山層、三畳紀の利府層及び中生代の花崗閃緑岩を基盤として、下位より名取層群高舘層、茂庭層、旗立層及び綱木層、秋保層群湯本層及び白沢層、そして仙台層群三滝安山岩、亀岡層、竜の口層、北山層、広瀬川凝灰岩、八木山層及び大年寺層から成り、更新統の青葉山層及び段丘堆積物に覆われる。これらは仙南地域、富谷地域、塩釜地域、松島地域など仙台周辺の地層に対比される。第三系からは植物化石(葉片及び材)、貝化石、有孔虫化石が多産する。地形的にみると、なめらかな海岸線とそれと対照的に不規則に突出した松島湾、若い海岸平野、そして丘陵地域から成り、太平洋に注ぐ河川沿いには段丘が発達する。また盆地地形や地すべり地形も観察される。丘陵と平野とは地形的に急変しており、この地形変化は、長町−利府断層の運動に起因する。長町−利府断層は、鈎取断層、芦の口衝上断層、村田衝上断層及び久の浜−岩沼断層・傾動線とともに本地域の重要な断層のひとつで、50m未満の垂直変位を伴っており、東北本線に沿って北東−南西方向に延びる。この断層は20km以上追跡され、宮城野海岸平野と八木山・七北田の丘陵地域との地形的境界となっている。平野部での井戸観測によれば、この断層で鮮新統の竜の口層と更新統の青葉山層が接している。この南方延長は久の浜−岩沼断層・傾動線である。

●著者名:中川久夫・小川貞子・鈴木養身  発行年:1960

 題名:仙台付近の第四系及び地形(1)

 掲載誌:第四紀研究巻 第1巻、第6号、頁219〜227

 内容:第四系、地形

 仙台付近の第四系は、層序学的及び地理学的研究からそれぞれいくつかの地層と段丘に区分されている。すなわち、更新統本砂金礫層、青葉山層、台の原段丘堆積物、仙台上町段丘堆積物、仙台中町段丘堆積物、完新統仙台下町段丘堆積物、及び宮城野原海岸平野堆積物の各地質ユニットである。以上の地層各々の堆積面は、連続した段丘面として保存されている。

 青葉山面から仙台中町段丘面までの各段丘面は、長町−利府線に平行な軸をもつ緩い褶曲で、さらに平野川では逆断層によってのしあげたような形状で東南方へ傾下している。

 火山灰層は、異なった水系に発達する一連の段丘の対比に有効である。火山灰層は計4層あって、それぞれ異なった段丘に関連する。越路火山灰は青葉山層に付随し、愛島火山灰は台の原段丘堆積物にする。蔵王町付近では平沢火山灰は原段丘堆積物に、永野火山灰は永尾段丘堆積物にそれぞれ付随する。

●著者名:中川久夫・相馬寛吉・石田琢二・竹内(小川)貞子 発行年:1961

 題名:仙台付近の第四系及び地形(2)

 掲載誌:第四紀研究巻 第2巻、第1号、頁30〜39

 内容:第四系、地形

 @仙台市付近の地形面変位:更新統青葉山層の堆積面である青葉山面は、愛島火山灰に不整合で覆われる。この面は高位のものからT,U,V,Wの4つに細分される。細分された各面の境界線は北西−南東方向で、同地域の第三系の撓曲軸の鈎取線に平行であることや、境界部で二ツ沢礫部層以上の地層が急斜したり、層序が乱されたりすることから、青葉山層は二ツ沢礫部層堆積期から越路火山灰部層堆積期にかけて起こった撓曲運動によって4面に細分されたと考えられる。青葉山面はさらに、これとは全く別の北東−南西方向の軸をもつ撓曲運動を受けている。この撓曲は1向斜と2背斜をもって、青葉山面と低位の段丘面を変位させ、各面は南東方向に傾下している。この背斜軸は鹿落、芦の口断層と呼ばれる逆断層を伴っている。

 A第四系の花粉分析:仙台付近の段丘堆積物の泥炭層について花粉分析を行った。その結果、青葉山層及び仙台上町段丘堆積物の花粉群集は、台の原段丘堆積物のものよりも寒冷な気侯を示すことが明らかになった。

 B第四系火山灰層の重鉱物組成:火山灰層について重鉱物分析を行った。越路及び愛島火山灰層の重鉱物は主にmagnetite及びhornbrendeから成り、多量のhyperstheneと少量のaugiteを伴い、愛島火山灰層はそれらに加えてzirconを含んでいる。平沢火山灰層はaugiteの占める割合が独特である。永野火山灰層の重鉱物は主にmagnetiteとhyperstheneから成る。以上のように.これらの火山灰はそれぞれ特徴的な組成を持ち、段丘面対比の有力な手段になる。

●著者名:大内 定 発行年:1973

 題名:広瀬川の河岸段丘の変位

 掲載誌:東北地理 第25巻、第2号、頁84〜91

 内容:段丘地形

 広瀬川沿いの段丘群は、特に愛子盆地と仙台市街地によく発達している。これらの段丘群は様々な研究者によって研究されてきたが、とくに段丘面における地殻変動の影響に注目し、段丘区分・対比の再検討を行った。火山灰による対比の方法に加えて、段丘礫の風化殻の厚さと段丘面の連続性を指標として段丘区分・対比を行い、T、U、V、W、Xの五つの面に分類した。段丘区分・対比の再検討の結果、愛子盆地及び仙台で段丘面の変位がみいだされた。愛子盆地の段丘面の変位は、U、V、W面にみられ、第三系に見られる南北方向の軸をもった撓曲に起因するものと思われる。仙台の段丘面の変位はV、W面にみられ、北東−南西方向の高まりになっており、宮城野撓曲線及びその西側に平行に走る撓曲線に沿う変位と考えられる。これらの変位量の差は、旧い高位段丘面ほど大きい。段丘形成時期と変位量とから、各段丘面の変位速度を算出すると、愛子盆地ではU、V、W面がそれぞれ0.32mm/年,0.37mm/年,0.28mm/年で、仙台ではいずれも0.2mm/年である。これらの変位速度及びその傾向から判断して、仙台及び愛子盆地の段丘面変位は等速的かつ継続的に起きたと考えられる。

●著者名:中田高・大槻憲四郎・今泉俊文  発行年:1976

 題名:仙台平野西縁・長町−利府線に沿う新期地殻変動

 掲載誌:東北地理 第28巻、第2号、頁111〜120

 内容:新期地殻変動

 長町−利府線は、仙台周辺において北東−南西方向の地質構造を示す断層で、その南西延長には村田断層が位置する。仙台周辺で河岸段丘等の地形面を変位させている活断層は、いずれも山地と盆地・低地の地形境界に位置し、現在の地形形成に大きく関与していることを示しており、長町−利府線もまたこうした変動の一端を担っている。長町−利府線沿いの変形の実態を明らかにするために、変形を受けた広瀬川−名取川の段丘群の断面を簡易測量し、段丘の基盤を構成する鮮新統仙台層群の地質構造を調査して、長町−利府線に沿う第四紀地殻変動のより詳細な変動様式、時期、速度、及びその応力場を明らかにする試みがなされた。

 結論として:

 @段丘面は、高位より青葉山段丘(T面〜W面)・台ノ原段丘・上町段丘・中町段丘(T面〜U面)・下町段丘(T面〜V面)に区分された。これらは連続的に変形を受け、長町−利府線に平行な幅1km、長さ10kmの隆起帯を形成し、古期のものほど大きく変位している。この隆起帯の北西縁には大年寺山断層群が走り、小崖や斜面をなす。南東縁には長町−利府潜在断層に伴う撓曲構造があり、急崖や急斜面をなしている。変形様式は基盤の仙台層群とも調和的である。

 A大年寺山断層群及び長町−利府線上での平均的垂直変位量は、青葉山段丘V形成以後、それぞれ0.1mm+/年及び0.5mm/年で、青葉山段丘Vと鮮新統大年寺層との変位量は2:3である。

 B長町−利府線に沿う小断層のほとんどはdip‐slip型逆断層で、その走向は北東−南西で、大年寺山断層群や1km西に位置する鹿落断層の特徴とも一致する。

 Cぜい性的せん断破壊を伴う仙台層群の変形やその層厚の一様性から考えて、長町−利府線に沿う変動の開始は、鮮新統最上部大年寺層堆積後かなり経過した時期で、第四紀に入ってからと思われる。

 D上述の断層から推定される最大圧縮主応力軸は北西−南東方向であり、大規模な地震の発震機構や、微小地震解析から知られる主応力軸とも一致する。

 Eこの主応力軸の方向は、仙台周辺の頭著な活断層から知られる応力場とも一致する。また歴史地震の震央もこれらの断層線付近に示され、これらの断層が現在も同じ応力場でなお活動的であることを示している。

 このように長町−利府線に沿っては、第四紀を通じて、北西−南東方向の圧縮の応力場の下で、地殻変動が継続的・累積的に起こったと結論される。

●著者名:大槻憲四郎・中田高・今泉俊文  発行年:1977

 題名:東北地方南東部の第四紀地殻変動とブロックモデル

 掲載誌:地球科学 第31巻、第1号、頁1〜14

 内容:地殻変動

 東北地方南東部には多くの活断層が見られる。脊梁山地東縁に発達する活断層群のほとんどは北北東−南南西方向、東落ちで、その一部は逆断層である。北東−南西方向の活断層群は、ほとんど全てが衝上性の逆断層である。北北西−南南東方向の活断層群のほとんどは、垂直に近い断層面を有し、そのうち少なくとも双葉破砕帯は明瞭な左水平ずれ断層である。北北西−南南東方向の活断層群は、既存断層の高角断層が再活動したものと推定される。

 本地域で観察される活断層の多くは、既存断層が再活動したものであり、また変位速度は全て1mm/年以下である。本地域の第四紀の応力場は、主要及び小断層解析、発震機構及び測地学によって復元された。その結果、最大主応力軸(圧縮を正とする)は水平で、その方向はN55゜Wで、最小主応力軸は垂直であることが示された。

 山地、低地帯、丘陵に地形区分される本地域の各地形区境界のほとんど全てで高度が急変する。また、活断層と浅発地震の震央の分布は、これらの境界沿いに集中している。このことは各地形区がブロックとして活動したであろうことを示している。このようなことから次のような定性的ブロックモデルを想定することができる。

 「本地域の地殻は様々な形をした多角形のブロックからなっており、それらは各々既存断層によって境されている。そのようなブロックの集合体に外力が加わると、最も歪を開放しやすい境界で変位する。それでも歪を解放しきれない場合にはブロックが破壊され、より小さなブロックが形成される。すなわちその応力場に応じた新しい断層が生ずる」。本地域には、上述の応力場によって生じた弾性歪みを解放するのに重要な役割を演じると考えられる変位線は4種類あり、それぞれに関連した地殻変動パタ−ンがいくつか想定される。本地域の新期地殻変動の主な現象のいくつかは、こうしたブロックモデルを用いて説明することができる。モデルに基づいて長町−利府線、円田断層(活断層研究会(1991)の坪沼断層と円田断層を合わせたもの)及び双葉破砕帯の3つの活断層間に生じる長期間累積変位の分配を検討してみると、総変位量の最大主応力軸方向の成分(それぞれNP、FP、EP)について

   関係式  NP=FP+EP

が成立することがわかる。また、地形区の起源は、断層の活動に関連するブロックの垂直運動によって説明できる。地震活動の地域的相関を見ると、震央の移動は前に起こった地震による膨張域及び収縮域のシフトに関連するものと推定される。

●著者名:今泉俊文  発行年:1980

 題名:東北地方南部の活断層

 掲載誌:西村嘉助先生退宮記念地理学論文集巻:号:頁:21〜26

 内容:活断層

 東北地方南部に分布する主要な活断層の諸特徴を検討し、活動周期、活動規模について考察した。本地域は、脊梁山地をはさんで東から阿武隈山地、飯豊山地、朝日山地が南北に走り、その間に盆地や低平な丘陵地が発達している。

 本地域の主な活断層は、切峰面図によれば盆地周縁部や山地縁部のいわゆる地形境界付近に集中し、それらは第三紀層と第四紀層の境界付近にほぼ位置している。これらの活断層系は、@仙台活断層系、A白石〜福島活断層系、G長井〜米沢活断層系、C会津活断層系、E阿武隈山地東縁活断層系の5つに分けられる。

 @〜Cは、主として北東−南西方向で逆断層タイブである。断層活動が撓曲崖や地形面のたわみなどの変位地形として認められることが多い。Dは双葉破砕帯中が再活動したもので、性格が異なっている。それらの各活断層の長さは、ほとんどが10km程度であるが、活断層系としてみると40km前後にも達し、それぞれの活断層系の位置する盆地や平野の規模に呼応することから、これらの断層が地形形成に深く関与していることを示唆する。平均変位速度は、およそ0.5mm/年程度である。地形面の変位状態については、約2万年前以前に形成されたと思われる地形面には明瞭な変位が認められるが、それより新しい沖積面や沖積層にはほとんど変形が及んでいないようである。本地域の活断層の特徴をもとに、断層線の長さと地震の規模、地震の規模と変位量、地震の周期と平均変位速度など関係式から、それぞれの活断層系において、いずれも最大規模M7.5、少なくとも2〜3mの変位を伴う大地震が、3,000〜5,000年の周期で起こることが推定される。

●著者名:石井武政・加藤完・寒川旭  発行年:1985

 題名:αトラック法による長町−利府線の断層調査(予報)

 掲載誌:地質調査所月報,36巻:36号:3頁:111−118

 内容:αトラック法

 ラドンとその娘諸核種が放射するα線は、飛跡検出器に対して放射線損傷を起こさせフイルム上にトラックを残すので、一定期間に残されたトラックの密度はラドンの相対濃度の指標になる。これを地中に存在するラドンが放射するα線に対して応用したものがαトラック法である。活断層付近では地中のラドンガス濃度が高いことが知られており、この方法は平野の地下に伏在する活断層調査に適用出来ることが期待されている。

 今回、仙台市中心部を北東−南西方向に走る長町−利府線について、αトラツク法による断層調査を試みた。長町−利府線の地形リニアメントを横切るように3本の測線(仙台市宮城野原公園総合運動場Sd、仙台市岩切Iw、利府町八幡崎Rf)を設定し観測を行った。その結果、測線Sdで475/cm2・dayを最高に100−200/cm2・dayのピ−クが認められたほか、測線Iwでは63/cm2・dayの比較的明瞭なピ−クが,測線Rfでは102−101/cm2・dayの若干不明瞭なピ−クが認められた。いずれの測線でもピ−クが観測された地点の直下もしくは近傍にラドンの供給路としての長町−利府線が存在すると推定される。

 ラドンの供給路としての断層面が傾斜している場合には、上盤側でラドンガスの相対濃度が高くなることが知られている。長町−利府線は北西上がりの衝上断層と推定されているが、仮に主断層の延長部が地表に達しているとした場合、ピ−クが出現した観測点の南東側にその延長部があると期待される。このことは、測線Iwでピ−クが出現した観測点のやや南東側に地形リニアメントが認められることと調和的である。これまで主断層の位置は沖積層に覆われてやや不明確であったが、今回の調査によっておおよその位置を推定する資料が得られたことになる。

●著者名:北村信・石井武政・寒川旭・中川久夫  発行年:1986

 題名:仙台地域の地質

 掲載誌:地域地質研究報告5万分のl地質図幅

 内容:地域地質一般

 「仙台」図幅地域の地形・地質を詳説している。長町−利府線関連部分について以下にまとめる。

 長町−利府線は仙台市長町から宮城郡利府町にかけて延びる活断層である。本断層の上盤側は丘陵・台地の縁を画する撓曲崖の地形を呈しているが、その主断層は沖積面下に伏在している。

 大年寺山断層は長町−利府線に並走し北東−南西方向に延びている南東傾斜の逆断層の集合体である。大年寺山断層と長町−利府線との間は、幅1km弱、長さ10kmにわたって地形的高まりを形成している。

 鹿落坂断層は大年寺山断層北西1kmにおいて北東−南西方向に延びている南東傾斜の断層である。

 これらの断層に沿ってより古い段丘面ほど変位量が大きく、変位の累積性が認められる。この事実から平均垂直変位速度を見積もると長町−利府線は0.5mm/年でBクラスの活動度を示し、大年寺山断層は、0.1mm/年でBクラス、鹿落坂断層については0.03mm/年でCクラスである。

 長町−利府線の背後の鮮新統は最大45゜、青葉山層は22゜の傾斜を示している。この急傾斜部の南東側では鮮新統を基盤とする沖積層が急激に厚くなり“前縁凹地”的な構造も認められ、北東−南西走向で北西隆起の逆断層が伏在しているのはほぼ確実である。しかし、長町−利府線が沖積層も変位させているかどうかについては明らかでなく、広瀬川宮沢橋付近の地下鉄工事の際の露頭では変位は認められなかった。宮沢橋付近で得られた長町−利府線の活動によると思われる垂直変位量は約250mで、約45万年前から活動していると考えられる。これらの断層は、北東−南西方向に最大圧縮主応力軸をもつ応力場で形成されたと考えられる。古文書に記録された被害地震のうち1736年の地震は長町−利府線の活動による可能性が高いと指摘されている。

 坪沼・村田断層は図幅南西部に認められ北東−南西方向の北西側隆起の明瞭な変位地形が追跡される。それぞれ4〜5kmの長さを持ち、雁行状に配列している。坪沼断層は数カ所で露頭が確認され、50゜前後北傾斜している逆断層であることが確認されている。変位量は60mと見積もられている。村田断層については、白石図幅の東部地点で中新統の沼田凝灰岩の急傾斜構造(N85゜E・70゜S)を確認している。両断層の平均変位速度は0.3〜0.4mm/年と算出されている。

●著者名:活断層研究会  発行年:1991

 題目:[新編]日本の活断層−分布と資料−

 掲載誌:東京大学出版会、頁138−143.

 内容:活断層

 活断層研究会(1991)によると「仙台平野西縁では長町−利府線及びこれに平行した数本の活断層が発達する。これら活断層群は北東−南西の走向をもつ縦ずれ断層で活動度も比較的高く,B級のものが多い。この断層の南方には円田断層、白石断層があり,大きくみると福島盆地西縁の断層に続くものと思われる。

 長町−利府線は田山(1933)によってその一部が宮城野撓曲崖と呼ばれたように,地形的表現は撓曲崖的であるが,地下では西上がりの逆断層と考えられる。この断層北5qは地形的に顕著ではなく,Hanzawa et al.(1953)はここでは断層は北西落ちとし,ここの南部では逆に北西隆起であるとした。中川ほか(1961)は大年寺山断層との間の隆起部に背斜軸があるとしている。断層の平均変位速度について,大内(1973)も算定を行っている。

 坪沼断層は北村ほか(1986)によると,高舘層と愛島火山灰の逆断層露頭としているが,大月(1987)では越路火山灰に対比されている」とし,表1−3のように評価している。

●著者名:平野信一.松本秀明  発行年:1994

 題名:仙台平野の沖積層中に見いだされる2〜3の大地震痕跡

 掲載誌:季刊地理学、第46巻、第3巻、頁187−188

 内容:地震痕跡

 仙台市街地を南西−北東方向に走る活断層・長町−利府線と、副断層である大年寺山断層と鹿落坂断層の活動時間や活動時期に関する資科をまとめた。鹿落坂断層は最終間氷期の形成とされる台の原段丘まで変位させているものの、下位の仙台上町段丘は変形させていないため、最近数万年間の活動は長町−利府線と大年寺山断層に限られるであろう。

 王ノ檀遺跡は長町−利府線から南西1.5kmの沖積低地上にあり、約3,000年前の縄文時代後期の層に噴砂跡が確認される。また、北目城跡遺跡は名取・広瀬川の合流点付近の自然堤防上にあり、縄文時代後期から晩期の層中にレンズ状に広がっている噴砂跡が認められる。さらに、若林区荒井の中在家南遺跡と押目遺跡、同区小泉や今泉付近の遺跡からも、縄文時代晩期から弥生時代前期の地盤に液状化跡や小河川の河岸崩壊跡が発見されている。仙台及び石巻平野の沖積層中から根付きの流木が複数産出されているが、これらの14C年代はいずれも約3000年前前後を示している。過去の大地震の際には地震の揺れに起因した山地斜面崩壊や士石流の発生などによって、多量の流木が発生した例が知られている。異なる産出地点の複数の流木がほぼ同時代を示すことは、その原因を一つの突発的な事象に求めることも可能であろう。

 以上のように、地盤振動の痕跡はいずれも約3,000年前前後に集中し、このときに仙台地方を大地震が襲った可能性が考えられる。しかしながら、長町−利府線の活動に起因するものかどうかについては、今後さらに調査する必要がある。

●著者名:大槻憲四郎・根本潤・長谷川四郎・吉田武義  発行年:1995

 題名:広瀬川流域の地質

 掲載誌:広瀬川流域の自然環境、頁1−83

 内容:地質一般・防災

 広瀬川流域の地層の分布・岩相・層序、産出化石・古環境・年代、地質構造など、地質全般について述べている。以下に長町−利府線に関連した部分をまとめる。

 宮城野平野と河岸段丘・丘陵地との境界は、北東−南西方向に延びる活断層の長町−利府線に一致する。この構造線が逆断層性の活断層であるとする根拠は以下の通りである。

 @大年寺〜三神峯では仙台層群が最大45゜ほど、これを覆う青葉山段丘礫層が22゜も南東に傾いている。

 A長町−利府線近傍のボ−リングデ−タから、宮城野平野側で沖積層が急に厚くなること、および長町−利府線を挟んだ仙台層群の分布高度に250m程度の差がある。

 B段丘礫層を切る小断層は、いずれも長町−利府線と平行な逆断層である。

 長町−利府線から600m程北西には大年寺山断層群が、更に1km北西には鹿落坂断層が平行して走っている。これらはともに北西落ちの逆断層で前者の総変位量は25m程度、後者は12m程度で、段丘面を変位させている活断層である。長町−利府線とこれらに挟まれた細長い地帯は地質構造的にも地形的にも隆起帯となっている。段丘面の変位量とその形成年代から断層の平均変位速度を見積ると、長町−利府線は0.5mm/年以上、大年寺山断層群は0.1mm/年、鹿落坂断層は0.03mm/年である。

 長町−利府線が明瞭に追跡出来るのは延長約15kmであるが、そこに発生する最大規模の地震のマグニチュ−ドは6.8程度で、断層変位量は1.2mと概算される。地震の際には断層直下で震度6の烈震となり大きな災害をもたらすと予想される。この規模の地震発生の周期は2〜3千年であり、より小規模の地震がより短い周期で起こる場含もあり得る。これに対して実施すべき策としては、

 @反射法、ボ−リング、トレンチ調査などで、地震の周期と最近の大規模地震からの経過時間を明らかにすること。

 A振動は地盤の種類によって増幅率が異なるので、きめ細かく建築基準を設定すること。その際、宮城県沖地震の際の調査結果が参考になるであろう。

 B長期的な都市計画の一環として長町−利府線に沿う細長い地域を緑地化するなどの施策をすること。

などである。

 野草園、緑ヶ丘、金剛沢などの地すべりは長町−利府線に沿って分布するもので、地震発生の際に、一斉に活動する危険性が極めて高く、事前の対策が必要である。