2−2−3 トレンチ調査結果

トレンチ掘削箇所は平成7年度調査の「宇賀川トレンチ」の北方、約15 mに位置する(図2−2−1)。本トレンチでは、完新世の地層を剪断する西上がりの低角逆断層が確認された。トレンチに出現した地層は、上位から以下のとおりである。

a  盛土(木材、瓦礫などの廃材を多数含む、旧耕作土もある)

b1 粗砂〜有機質シルト(ピート)互層(ピートには未分解の植物片が多い)

b2 礫混じり砂(シルト分含む)

c1 礫混じり砂

c2 砂礫(花崗閃緑岩、または古期堆積岩の小礫を含む、ピット下部のみ)

To 東海層群(砂岩、シルト岩)

To層は砂岩、シルト岩の互層で、一部に礫岩をはさみ、東に急傾斜する構造を示す。To層は、トレンチのすぐ西側では地表の段丘崖斜面に露出している。c層はTo層を不整合に覆っており、前述の完新世の地形面の構成層である。すなわち地形面形成時の河道の側方侵食崖と断層の位置が、ほぼ重なっていると考えられる。b層は、c層を整合的に覆い、内部にはほぼ水平な堆積構造が明らかに認められるが、トレンチの西側の部分では西側斜面からの崖錐の層相を示す。a層は人工的な盛土である。また、トレンチの西端部〜西面には地すべりと考えられる不連続面が複数認められ、これらは互いに斜交している。トレンチ壁面スケッチ図・写真を図2−9図2−10に示す。また、各地層から採取した試料の14C年代値の測定結果を表2−2に示す。

表2−2 宇賀川トレンチ年代試料測定結果

断層は、トレンチの南北両面で観察されたが、南面は崩壊が著しく、詳細な観察はできなかった。北面では、断層は基盤である東海層群To層を剪断し、変位させている。また、グリッドNo.4付近が側方侵食崖に当たっているため、c層は断層の下盤側にしか分布しないが、断層面に接する部分は明瞭な剪断面であり、c1層、c2層とも断層によって剪断されている。c層を覆うb2層は、トレンチの西側の上盤から下盤の一部にかけて連続して分布しており、断層直上においても変形は認められない。b1層は堆積構造が明瞭であり、変形していないことは明らかである。

また、上盤側の東海層群中には東傾斜の不連続面が認められる。この不連続面は、地すべりに起因するすべり面と考えられる。すべり面は、下盤側では少なくともトレンチ内では観察されず、トレンチ底面より低い高度に連続すると考えられる。地すべりが発生したとすれば、少なくともM面が侵食を受けて東に傾斜する急斜面が形成され、その下端が現在の平坦面の高度付近まで低下した後と考えられるので、その時期は完新世であると推定される。断層は、このすべり面を切ってc層までを動かしている(図2−11)。したがって断層は地すべり発生より後に活動したと判断できる。

トレンチに見られる断層の活動時期は、c1層堆積後、b2層堆積前であり、それぞれの地層から得られた年代値(c1層:3180±50 y BP、b2層:2780±80 y BP)を考慮すると、この間に起こった1回分の活動をあらわしていると考えられる。よって、活動時期は、補正年代で3180±50〜2780±80 y BPであり、較正年代を用いると約3500〜2800年前であるといえる。

断層の変位量については、c1層が下盤側にしか分布していないため、最新活動時期の変位量は直接知ることはできない。東海層群To層については、変位前の詳細な地形はわからないので、上面の変位量を正確に見積もることはできないが、To層の上面の風化部と思われる粘土化帯(層位的に対比できるものではないが、最新活動以前の連続面ととらえられるもの)のずれの量は、鉛直方向に少なくとも0.6 mと観察される。しかしTo層が断層をはさむ範囲で強く褶曲していること、および断層面直近では撓みが見られることから、東海層群上面粘土化帯の変位量は0.6 mよりもさらに大きい可能性が高い。

なお、平成7年度調査においては、断層活動の時期がもっと新しい可能性を指摘したが、その際には、本トレンチにおいても確認されたb1層、b2層のうち、崖錐性の部分の解釈が今回とは異なっていた。今回、b2層の一部が断層を覆う構造が初めて確認されたため、断層活動はb2層以前であることが判明した。

図2−6 宇賀川地区・宇賀川南地区調査位置図(S=1:2,500)

図2−7 航測図化地形断面測量結果−宇賀川地区

図2−8 地質断面図―宇賀川地区

図2−9 宇賀川トレンチスケッチ図

図2−10 宇賀川トレンチ写真

図2−11 宇賀川トレンチ地すべり面