(1)調査結果の考察

(1) 鳥戸断層の考察

平成12年度調査では、ボーリングB1/トレンチT1地区(松阪市小阿坂町)の断面で、ボーリングB1−3の深度9.6mの腐植土の14C年代が8,430±40 yBPであるのに対し、上位の腐植土の年代は15,740±50 yBP(深度6.05m)、および15,720±50 yBP(深度7.60m)となっており、地質層序と試料の年代値が逆転する。このため、トレンチT1で見られた逆断層の他に、トレンチの下を通りB1−3を貫く低角逆断層の存在が懸念された。今年度、ボーリングB1−5、B1−6を追加してコア試料の年代測定をした結果を図3−1−1に示す。

B1−5、B1−6の採取コアは乱れが少なく比較的良好で、断層でせん断されたような破砕帯は認められない。

B1−5、B1−6のコアの火山灰分析によると、B1−5の深度6.20m付近、及びB1−6の深度6.0m付近のコアから多量のAT火山灰が検出された。従来の研究から、AT火山灰の噴出年代は約22,000〜25,000年前と考えられている。コア試料の年代が22,700±100 yBP(B1−5の6.20m付近)、21,130±100 yBP(B1−6の6.0m付近)であることから、これらの年代値は地層の形成年代を示すとしても矛盾しない。

B1−5、B1−6の両ボーリングのコアには、中間の特定の深度に酸化鉄やマンガンが濃集した箇所がある。例えば、B1−5の8.2〜9.7m、B1−6の8.4〜10.1mが酸化帯である。これらの地層は、岩相上よく似ている。この中間深度(酸化帯)から得られた試料の年代が、B1−3、B1−5、B1−6とも上位層よりも若く出る傾向がある。以上の結果から、平成12年度調査のB1−3にみられた試料の年代値と深度の逆転は、B1−5およびB1−6においても確認され、約1万年前より若い年代を示す試料を含む地層が、約15,000年〜22,000年前の年代を示す試料を含む地層の下位に存在するらしいということがわかった。このような状況の説明として、以下のようなケースが考えられる。

@ デコルマン*のような低角逆断層が存在し、古い地層が若い地層を被った

(深度はB1−5で7.5m、B1−6で7.7m付近)

試料の年代値がすべて地層の年代をあらわしているとした場合、低角逆断層の存在が考えられる。断層の活動時期については、B1−5の中間の5,900±40 yBPの年代を示す地層が古い地層に被われていることから、断層が約6,000年前以降に活動した可能性がある。このときの鉛直変位量はかなり大きく、およそ10mに及ぶことになる。

A 年代値の異常

採取した年代試料が上位層から下位層に侵入した場合で、例えば、地層の堆積後に、亀裂や植物根に沿って若い年代の炭質物が上位層や地表から移動・濃集した(物理的汚染)ことが考えられる。また、旧地表面と考えられる腐植土層は層序と矛盾しない年代値が得られているのに対し、マンガンの濃集した酸化帯では年代値が若く出る傾向があるため、酸化鉱物の濃集に伴って地中で新しい年代の炭素が付着するなど、酸化帯の形成に伴って年代の異常を生ずる何らかのメカニズムの作用が考えられる。

2つのケースについて考察すると、低角逆断層が存在する場合は、トレンチ内のF3断層の下盤側にもみられることや、Mf層の変形が著しく、累積変位が大きい可能性が考えられることと矛盾しない。しかし、B1−3、B1−4、B1−6のコアからは断層の存在を示す直接的な証拠はなく、また地表面においても調査地点の東方には断層変位を強く示唆する地形は認められない。一方、年代を測定した試料が外部から混入したものとすれば、1万年前より若い年代を示す試料が深度7mより深いところにそろってみられる理由を説明することはむずかしい。ただし、地下水の流動や酸化鉱物の生成に関わって新しい時代の炭素が固定された可能性も否定できない。

以上の結果から、F1〜F3断層よりも深部に完新統を変位させるような低角の逆断層が存在する可能性については、平成12年度調査の時点に比較すると高まったと言えるが、これまで得られた地形・地質情報の限りでは結論することがなお困難であり、東方に延長した地点における追加情報が必要である。

鳥戸断層の低角逆断層の有無については、これまで得られた地形・地質情報では結論を出すことが困難であり、追加情報が必要である。

なお、B1−3とB1−6は岩相も年代も異なるため、間に急傾斜の不整合面が考えられ、B1−3は深い谷を形成した後に堆積した可能性がある。

*(注)デコルマン(decollement):特定の地層から上の一連の地層が下位の基盤から分離し、下盤とはほとんど無関係に変位・変形している構造。横圧力によって基盤と平行に滑動して衝上断層やこれに伴う褶曲を形成する〔新版地学事典〕。

(2) 片野断層の考察−トレンチT3.3

平成12年度調査ではトレンチT3.2でL3構成層相当層が撓曲した断層構造が現れ、解析の結果、片野断層が「約2万年前〜9,800年前に2回活動した」と結論された。今年度は活動時期を詳細に特定することを目的としていた。

今回のトレンチT3.3では、T3.2と近接していることもあって、基本的にほぼ同様の変形構造が現れた(スケッチは図2−2−2、付近の総合断面図は図3−1−2参照)。ただし、地層の細部構造が昨年度と若干異なることから、昨年度の結果と今回の結果を合わせると、地質構造及び断層活動は以下のように考察される。

@ L3段丘礫層相当のB5層、Sg3層の急傾斜帯の肩部は、本調査でC層の上に等厚で乗っていることが明確になり、これらが堆積した後に傾斜が急になった、すなわちB−5堆積後に変位したと言える。また、今回調査で、B5の年代が11,160±80 yBPと測定できたことから、片野断層の最新活動時期を「約11,000〜9,800年前」と特定することができた。なお、片野断層のひとつ前の活動時期については平成12年度までの調査結果と変わらず、約2万年前以降に活動したと推定される。

A B5〜B2層は、断層変形がC層からB2層まで連続しており、また、B5〜Sg1層までの急傾斜部が乱れ、屈曲している。今回のスケッチでもB4層上面〜B2層下面がキンク状に屈曲する構造が確認された。また、B層下部の急傾斜部が著しく屈曲し、堆積構造の乱れや層厚の変化が見られた。これらの点から、B5〜B2層の砂・砂礫互層は断層変位に伴って急傾斜となり、下方に地すべり状にずり落ちたと判断される。この地すべりによって互層の急傾斜部の屈曲とキンク構造が形成され、B1層の西端部は下位のSg1に押された構造ができたと推定される。

昨年度調査ではB2下面の庇状変形が単純に断層のせん断面の延長と考えられていたが、地すべりに際して礫層が移動し、盛り上がったと考えられる。もし、地すべりでなく、単純なせん断ならば、今回調査でB5〜Sg3層がせん断されていないのに上位層がせん断される形状となっているため不自然である。

砂・砂礫互層の地すべり状のずり落ちがB2層で留まるかB1層まで含まれるかは不明なので、断層活動の年代(上限)はこれまでの推定と変わりがない。