(3)断層活動の考察

本トレンチの地質構造は複雑で明確な変位基準に乏しいことから、断層活動を正確に解読することが困難であるが、本トレンチの断層活動を以下のように解釈した(主にN面をもとに考察したが、一部、S面も参考にした)。

断層F1〜F3の前後関係については、断層F3がC1’に覆われてB5まで達しない(S面)のに対し、F2はB5に達しており、F1はB7に達していることから、断層F1〜F3の中でも断層F3が最も古い活動で、F1及びF2とは別の活動である。F1とF2は同時の可能性もある。また、地層のラミナ等細部の観察から、F1がB7を切り、F1の活動に伴ってB6が形成され、F2の活動によってB5が形成され、F3が先端部をC1の崩落土砂C1’で被われてB5を切らない等の関係があるように見える。

開口亀裂Kには、もとは地表にあったと思われる土壌の一部が落ち込んでいる。その形成時期は落ち込んだ土壌の年代以降で、かつ、B2による侵食の前、すなわち、約22,000年前〜約800 年前となる。この亀裂は断層活動によるC層の撓曲・傾動の進行に伴って形成された引っ張り亀裂の可能性がある。これと他の断層活動や地すべりとの直接の関係は不明である。

B5堆積後には断層活動がなく、B2も変形を被っていないように見える。したがって、断層活動はB2の時代には及んでいないと考えられる。

また、C−S2中の地すべりは、地層の撓曲変形がある程度進行した時点で起こったと見られる。この地すべりは断層活動を契機として発生したと思われるが、時期については特定できない。

以上の考察から、本トレンチ壁面において確実に確認できる断層活動は1回である。

<活動@> B7堆積後、B6、B5を崩落・堆積させたF1、F2の断層活動(約12,000年前〜約900 年前)

しかし、前述のように、F3の活動は、F1とF2の活動とは分離できるとみられ、さらにC層は上位の地層に比較して撓曲変形が著しく、上記の活動以前に変形が進行していた可能性が極めて高い。したがって、C層堆積後、活動@の以前に複数回の断層活動があった可能性が高い。これを活動Aとする。

<活動A> C層堆積後、B7堆積前に撓曲変形させた断層活動(約80,000年前〜約12,000年前)

また、B2層(弥生時代以降〜中世以前の年代を示す)堆積以降は、最近の断層活動を示す証拠はない。

なお、上記の考察は以下の年代値を用いて行った。

・ C層:約5〜8万年前(Mf層に対比)

・ B7:12,150±40 yBP

・ B2:1,930±40〜820±70 yBP(同層は千数百年前の地層の可能性もあるが確証がなく、上限値は820±70 yBP、すなわち約900年前となる)

・ C−S3の亀裂Kの土壌:22,220±80 yBP