(2)総合検討

(1) 段丘面の形成年代の検討−特に低位面について

トレンチT1/ボーリングB1地区、およびボーリングB6/露頭調査地区ではLf層とL3層の年代がいくつか得られており、これを下記に示す。

@ T1/B1地区のLf層の年代

・ トレンチ内のLf相当の砂層が約1.2万年前

・ ボーリングB1−3のLf層が8,430±40 yBP〜15,740±50 yBP

A B6/露頭調査地点のLf層の年代

・ 露頭のLf相当の土壌が約1.0−1.1万年前

・ ボーリングによるM層上面の土壌化層が約1.0万年前

B T3/B5地区のL3層の年代

・ トレンチT3.2のL3層(フラッドローム)が約1.1万年前

以上の年代値を総合すると、Lf層の年代の上限は概ね約1.0〜1.2万年前で、L3層も同様である。ただし、この年代値の上限は、場合によっては約8,000年前まで時代が下ることも考えられる。これらの年代はLf層のほぼ上限を示すもので、低位相当の扇状地Lfの形成時期はほぼ更新世だが、一部は完新世にまで及んでいた可能性が示唆される。

なお、平成11年度までの調査では、地形面の年代を主に八木・寒川(1980)、太田・寒川(1984)の研究に基づいていた。これらに本年度の年代測定結果を加味すると、Lf面の形成年代は1〜3万年前、櫛田川沿いのL3面は1〜1.5万年前となる。したがって調査地の地形面の年代は以下のように想定される。

・ H1面   :15万年前

・ H2面   :12万年前

・ M面/Mf面:5−8万年前

・ L1面   :2.5万年前

・ L2面   :2万年前

・ L3面   :1−1.5万年前

・ Lf面   :1−3万年前

(2) 布引山地東縁断層帯の活動履歴

今年度の調査で明らかになった布引山地東縁断層帯(南部)の活動は以下のとおりである。

@ 鳥戸断層:トレンチT1地点

トレンチT1において、F1〜F3の3断層が確認された。F1断層は、約12,000 yBPの炭化物を含む地層を切っていることから、約1.2万年前以降に活動した。上位の820yBPの地層には変位が見られないから、この活動は約900年前以前である。F2断層はF1とほぼ同様の地層を変位させている。

F3断層に沿っては、中位段丘構成層Mfに著しい変形が認められ、F1,F2の活動より前の活動を示唆しているが、その年代は特定できない。

上盤側の中位段丘構成層中には、亀裂に沿って約22,000年前の土壌が落ち込んでいる。これは断層活動に伴う亀裂の可能性がある。しかし、その形成時期については、上に述べた2回の断層活動のどちらに当たるかはわからない。

なお、F1断層よりさらに平野側において行ったボーリング調査の結果、腐植土層の年代に一部逆転が認められた。このことが別の断層の存在を示す可能性もあるが、現在のところ断層の存在については確定できない。

A 山口断層:トレンチT2地点

平成11年度の露頭調査において、約1万年前の土壌に衝上する逆断層が確認された。このことから、この断層は約1万年前以降に活動したと言える。また、断層上端付近に、この土壌化層上に崩落した可能性の高い礫層が見出されること、およびその上位を覆う腐植混じり砂層の年代がほぼ1万年前であることから、断層活動の時期は約1万年前である可能性が高い。

なお、トレンチT2においては、断層上に位置する約1,300yBP以降の砂層には変位が認められないことから、この年代以降には活動がない。

B 片野断層:トレンチT3.2地点

トレンチT3.2においては約2万年前に形成されたと推定されるL2面構成層を切る逆断層が確認され、この断層は上位の砂礫互層(L3相当)を変位させている。この上位に乗る9,800yBPの年代を示す土壌化層A3(礫混じり暗褐色土)には変位が認められないことから、最新の活動は9,800yBP以前である。

L3相当層はアバット状に堆積しており、断層の下盤側にのみ確認される。このことから、L2面形成以降(約2万年前以降)、L3相当層堆積以前にも、1つ前の活動があったと推定される。

これらの結果と平成10年度の椋本断層の調査結果を併せて表示すると、布引山地東縁断層帯(北部・南部)の活動は図1−2−2のようになる。

図1−2−2 布引山地東縁断層帯(北部・南部)の断層活動総括図

(3) 布引山地東縁断層帯の断層分布と平均変位速度

布引山地東縁断層帯の北部と南部の活断層図を編集して布引山地東縁断層帯全域の活断層編集図(1:50,000)を作成した(付図4)。

図1−2−3に布引山地東縁断層帯(北部・南部を含む)の地形面の平均変位速度分布を示す。同図には参考まで鈴鹿東縁断層帯(平成7年度調査)の結果も併せて示した。図中の区分は「境界断層、前縁断層、その他(花崗岩基盤岩中の断層)」の3つとした。横軸は便宜的に布引山地東縁断層帯南方の中央構造線を起点とする“距離”をとった。同図には平均変位速度の分布傾向を破線で示した。ただし、変位基準がないか、または変位地形が不明瞭なために変位速度が不明の部分は疑問符“?”を付けた。例えば布引山地東縁断層帯(北部)の椋本断層の南端33km付近(安濃町安部:戸島西方断層の延長)は変位速度が極めて小さくなることが確認されている。

図1−2−3から、平均変位速度の全体の分布傾向にはいくつかの山があることがわかる。布引山地東縁断層帯は、北部・南部とも平均変位速度が0.1(m/千年)前後で、ほぼ同等と見ることができる。これに対し、鈴鹿東縁断層帯では0.1〜0.3(m/千年)と、布引山地東縁断層帯より大きい傾向がある。

図1−2−3 地形面の鉛直平均変位速度分布図

(4) 断層長による地震規模の想定

起震断層における地震のマグニチュード(ML)と断層の長さ(L)との間には松田(1975)の経験式がある。

布引山地東縁断層帯(南部)の断層長は、小山断層から片野断層までの断層帯の総延長が約22kmである。したがって、布引山地東縁断層帯(南部)について、三重県が地域防災計画を策定する場合にはML=7.1とするのが妥当である。