(3)露頭調査結果

(1)断層の認定および地質構成

 調査の結果、基盤の花崗岩が段丘礫層に乗り上げる明瞭な逆断層とこれらを不整合に覆う新期堆積物が見られた。露頭スケッチを付図6のスケッチ図に、それを簡略化した解釈図を図2−10に示す。露頭写真は巻末資料にまとめた。

 断層は次の3点から比較的明瞭に認定することができる。すなわち

@:露頭の下部において基盤の花崗岩が段丘礫層に乗り上げている。また、その部分の花崗岩は破砕されている。

A:礫層の内部には断層運動によって生じたと考えられる巻き込み構造がみられる。

B:段丘礫層は比較的明瞭な境界面をもって土壌化した地層の上に低角で乗り上げて乗り上げている。

露頭の地層構成は上位より以下のとおりである。

   D 表土

   C 新期砂礫層

   −−−−−−−−−−−−−−(傾斜不整合)

   B 黒色土/砂 互層

   −−−−−−−−−−−−−−(傾斜不整合)

   A 段丘礫層(礫・砂・砂質シルト)  

   −−−−−−−−−−−−−−(傾斜不整合)

   @ 花崗岩(細粒花崗閃緑岩)

@ 花崗岩(細粒花崗閃緑岩)

白亜紀後期、領家帯の西野花崗岩に相当する細粒の黒雲母花崗閃緑岩である。岩盤は風化が進行し、礫層との境界部は粘土化が著しい。下部の断層付近は破砕質で暗紫灰色の縞状である。粘土化部分には一部の段丘礫がめり込んでいる。

A 段丘礫層(礫・砂・砂質シルト)

低位面相当の扇状地堆積物(Lf)に相当する。ただし、花崗岩に接する層準は風化が進行しており、中位段丘Mの構成物である可能性もある。礫は花崗閃緑岩、閃緑岩、片麻岩から成り、一部はマサ化している。礫層は概略4層認められ、間に細砂・シルト質砂を挟む。断層付近では礫が乱雑に密集し、断層変形に伴うクサビ状堆積物の可能性もある。断層下盤側の段丘礫層上部は褐灰色の砂質シルトで、土壌化層と見られる。

B 黒色土/砂 互層

段丘礫層を不整合に覆う傾斜した互層である。黒色土は概ね4層ある。間の細砂・細礫は比較的淘汰が良いと言える。この互層は一部は水平層のようにも見えるが、全体としては傾斜しており、砂の堆積構造もほぼこれと平行である。

本層の堆積環境は後述するような2つの可能性、すなわちa.斜面堆積の場合(一部の砂層が水平であることから)とb.水平堆積の場合(全体に砂層の淘汰が良いことから)の2つが考えられる。

C 新期砂礫層

下位の互層を不整合に覆う水平堆積層で、細粒分をあまり含まない。この剥ぎ取り露頭の左方の崖では層厚がさらに厚くなる。

D 表土

崖錐角礫や土壌から成る。露頭の上部はオーバーハングしているため、下位層との境界は不明瞭である。

(2) 断層活動の考察 

本露頭で確実に認められる断層活動は、礫層が土壌化層にのしあがった際の活動である。礫層堆積中の断層活動については堆積構造および累積変位量が比較的大きいと考えられることから推定が可能であるが、確実な証拠はない。また、黒色土/砂互層の堆積以降の活動については現在のところ不明であり、Bの互層の堆積環境をどのように考えるかによって異なる。なお、花崗岩基盤の変位量は、下盤側の段丘礫層/花崗岩の境界が不明のため正確にはわからないが、下盤側の花崗岩上面が河床以下にあるとすると4.2m以上と推定される。

a.斜面堆積の場合

段丘礫層が断層で変位した後、礫層の上面が多少侵食され、崖下にBの互層が傾斜して堆積したと考える。このときの断層活動は段丘礫層堆積途中に2回程度と推定される。互層の堆積後には変位がないことになる。

ただし、互層の傾斜は左方の崖においてもすぐ水平に戻らないことや、各地層の厚さが横方向にあまり変化しない点は、長期間にわたって変化のない堆積環境が維持されていたことを示すもので、斜面堆積と考えるには無理がある。このような問題を検討するためには黒色土の年代値を測定するとともに、堆積物の堆積環境を推定するための粒度組成や微化石の分析が必要と考えられる。

b.水平堆積の場合

断層活動は、段丘礫層Aの堆積中に1回以上、黒色土/砂互層Bの堆積後に1回(B〜Cの間)の計2回以上と考えられる。

ただし、互層を傾動させた断層運動の断層面は段丘礫層を切る断層面とは別にあるのかどうかという問題がある。同じ断層面によってこのような形態を生じるのは困難な点がある。この場合でも断層活動時期を特定するために黒色土の年代値が必要である。 

@ 西野花崗岩

A 段丘礫層(礫・砂・砂質シルト)

B 黒色土/砂 互層

C 新期砂礫層

D 表 土

図2−10 露頭解釈図(S=1:50) (3) 地形断面との対比

露頭解釈図と地形断面は、それぞれの縮尺が違いすぎるが、試みに比較すると、地形面Lfの変位量は2.1m、地形断面の下盤側の地形面は勾配1/15とほぼ一定の傾斜であることから、互層Bは露頭スケッチよりもやや緩傾斜で西方に続くと見られる。

地層の変位量や傾斜等の詳細は、断層の下盤側におけるボーリングにおける検討が必要である。