3−3 まとめと今後の課題

平成10年度調査において、椋本地区の3箇所のトレンチ調査から明瞭な逆断層構造が捉えられ、解析の結果、布引山地東縁断層帯に関して以下の点が判明した。

・ 断層長 =27 km(このうちセグメント20km)

・ マグニチュードML=7.0〜7.2

・ 1回変位量 =1.6〜2.1m

・ 活動間隔 =10,000〜25,000年

 ・ 活動回数 =4回程度(最近5万年間)

ただし、最新活動時期や今後の活動時期については不明である。

以上のように、主にトレンチ結果から複数回の断層活動が捉えられたが、約2万年前以降の活動が不明のため、現在、本断層帯の次の活動時期が切迫しているのか、または、今後、十分な余裕があるのかについての活動予測は困難である。ただし、これらの調査結果は、これまでの調査から得られたすべてのデータから導かれたもので、トレンチ調査ですべての断層活動履歴が解明されたわけではない。特に、椋本断層の主断層については最も変位量が大きいにも関わらず、具体的に判明した活動履歴はごく一部に過ぎない。今後、何らかの追加調査で新たな情報が得られた場合には、上記の結果とは別の結論に達する可能性もあると思われる。

以下、本断層帯に関して、今後検討すべきと思われる課題について述べる。

@ 椋本断層の主断層の問題:今年度のボーリング、トレンチ調査では段丘礫層中に小規模な断層が発見されたが、活動時期については明らかに出来なかった。これは、被覆する水成の新期堆積物がなかったためで、やや南方の緩傾斜地でトレンチ調査を実施することにより、主断層の活動履歴を解明できる可能性がある(空中写真判読で、古い流れが主断層西側の凸型尾根を乗り越えた形跡がある)。

A 椋本断層の南方延長の問題:椋本断層の南方延長部では低位段丘に断層変位の痕跡が残されていない。これは、椋本断層が中位面の時代に活動を停止したか、または、低位段丘上の痕跡が河川侵食で消滅したかの2つの可能性がある。今後、南方延長上の低位段丘面でボーリング、トレンチ等の具体調査によって断層活動の有無を探ることが可能と思われる。

B 戸島西方断層の問題:これは椋本断層の南方延長に当たるとされており、顕著な撓曲を示す断層変位地形である。これまで、地表踏査以外には行われておらず、段丘面上、及び隣接の沖積谷で具体調査を実施することにより、断層の構造や活動履歴を解明できる可能性がある。

C 片田撓曲の問題:前年度の反射法探査で地表近くまで達する強い撓曲構造が推定されている。今後、地下地質構造の解明のために、深層ボーリングと試料分析の実施が期待される。

D 庄田断層のトレンチの問題:庄田断層は最近の時代に活動した可能性が指摘されている重要度の高い断層である。今年度調査では、山田池南方の枝沢でトレンチ調査を前提としたボーリング調査を行ったが、地権者の意向で中止となった経緯がある。開発行為にとって活断層の存在は困難な問題であり、やむを得ない点もある。また、ボーリング結果では基盤の変位量が捉えられず、この場所をさらに、トレンチまで実施するには難点があった。一方、山田池の谷は、この調査地よりも広い谷であり、また違った地質状況が発掘できる可能性もあるため、山田池付近で庄田断層の活動履歴調査を行う意義があろう。

E 庄田断層の南方延長の問題:Dと同様に、当断層は南方延長部の低位段丘面に変位の痕跡を残していない。これは中位面の時代以降には活動していないのか、または河川侵食で痕跡が消滅したのか、判定する根拠が得られていない。南方延長部の低位段丘上でボーリング等の具体調査によってデータが得られるものと期待される。

F 風早池断層の南方延長の問題:ボーリング調査で変位量が確認され、活断層であることがわかったが、南方延長では中位面M2に変位の痕跡を残していない。M2面において風早池断層の活動による変位や変形がないかどうかを確認することによって、当断層が古い時代のみに活動して中位面以降、活動していないかどうかの判定が出来る。

G 津市長谷山山麓の断層の問題:前年度の踏査で長谷山山麓の地形境界部に、片麻岩類が鮮新世の東海層群に乗り上げる逆断層が確認されている。本年度の地形調査では長谷山付近で断層セグメントが分離する可能性が出てきた。セグメントは地震規模に大きく影響する要素で、今後、断層露頭の詳細観察で断層活動の層準を特定できる可能性が考えられる。