(3)断層活動の考察

断層はG、SdからSil−1まで切っていることが確実である。SgはN面では強い撓曲変形を受けており、S面では断層によりせん断されている。Sil−2は上下を水中堆積層(Pt、Sg)に挟まれ、下盤側の層厚増大と撓曲が認められる。また、TSにも撓曲が認められる。Sil−1はトレンチだけでは下盤側の下限が不明のため、ここでは断層変形の有無を論じられない(後述)。

以上の点から、本トレンチでの断層活動は以下のように推定される。

a Sil−2堆積中(Sg〜Pt間:2.5〜3.5万年前)

b TS堆積後   (TS以降:2.2万年前以降〜現在まで)

Pt〜TS間は、N面で断層の下盤側の層厚が厚い傾向があるが、S面では等厚であるため、この間には断層活動を認めがたい。

本トレンチでの断層活動の全容は総合解析で検討する(後述)。

以下、参考まで、トレンチTM3の断層活動を模式的に示すと図2−3−2のようになる。

〔段階@〕では段丘礫層Gの上にSil−1が堆積し、その後、〈断層変位1〉があり、地表に低断層崖が生じた。活動時期はSil−1の堆積後期になると思われるが、年代幅はGの末期から上位のSgまでの間(約3.5〜5万年前)になる。

〔段階A〕ではさらにSgが堆積して平坦化し、その後、Sgが堆積した。Sg堆積前に多少侵食した可能性もあるが詳細不明のため、ここではSil−1の堆積によって平坦化したものと考えた。

〔段階B〕ではSil−2堆積中に〈断層変位2〉が起こった。その際、Sgは撓曲した。活動時期ははSil−2の堆積後期と思われるが、年代幅はSil−2の下位層Sg(約3.5万年前)と上位のPt(約2.5万年前)の間になる。

〔段階C〕ではさらにSil−2堆積して平坦化し、その後、Ptが堆積した。Aと同様にPt堆積の前に多少侵食された可能性もあるが、流送力は弱かったと思われるためSil−2の堆積で埋められたと考えた。

〔段階D〕では、さらに上位にCl、AT、TSが順次堆積した。このときの堆積環境は、ATの保存が良いこと、粒度のそろった凝灰質シルトTSが不純物を交えずに堆積していることから見て、水中堆積と考えられる。この段階での断層変位は認められない。

〔段階E〕ではTS堆積後に〈断層変位3〉があった。これは水平層のTSが撓曲していることによる。TSの上位には土壌S1〜S3が堆積しているが人工改変が加わっているため、断層活動の年代はTSと密着するATの年代以降(2.2万年以降)と考えられ、それ以上は特定できない。実際は過去数百年以内は含まれないと思われるが、具体的な歴史記録がないため不明である。

図2−3−2 椋本トレンチTM3の断層活動模式図