(3)断層活動の考察

段丘礫層上面の変位量は、F1断層で0.7〜1.0m(のり面上、断層傾斜方向)、F2断層では約1m(のり面上、断層傾斜方向)である。S面の断層近くの段丘礫層が撓曲していることを考慮に入れれば、段丘礫層上面の鉛直変位量はおよそ3.3mとなる(図1−2−8@参照)。前述のボーリング結果によると、断層を挟んだ段丘礫層基底面の高度差は4.5mである。したがって、段丘礫層の層厚が断層を挟んで異なっており、このことは礫層堆積中の断層変位を示唆するものと考えられる。F1断層、F2断層とも礫層Gの上面には崖錐状に礫が崩落した形跡がないことから、両断層はGの上位にSilが堆積した状態で活動したと考えられる。

F1断層の活動時期は、断層面に引きずられた水生植物の茎(図1−2−8@中の14C:M2−C1試料)の年代が、約30,200年前であるから、活動年代は約3万年前以降である。断層変位は耕作土S3までは及んでいないことから、断層の活動時期はS3に含まれる炭化物の年代770±50 yBP以前となる。

トレンチTM2で考えられるFM2断層の活動は次のとおりである。

a G堆積中にGを切って変位させた(約5万年前以前)

b Sil堆積中にF2断層が活動し、下盤側のSilの層厚が増大した

(aとcの間:約3万〜5万年前)

c F1断層が活動してSd2を変位させた(約3万年前以降〜770yBP以前)

ただし、F1、F2断層は、地下深部で1本の断層(FM2断層)に収束している可能性がある。

また、“西方に形成された削り込み流路”も断層活動に起因することが考えられるが、河道の変遷でも形成される可能性があるため、断層活動を契機とした可能性はあるものの、必ずしも断層変位によるものかどうかの確証はない。

火山灰の分析結果からは、S面のS2層から広域テフラATが検出されており、Silには含まれないと見られる(SgNに含まれないため)ことから、SilはAT以前の堆積物で、地層の年代は2.2万年以前と考えられる。

断層の延長部は人工改変されているため、ここではその後の最新活動時期を推定する根拠が得られない。少なくとも耕作土(S3)が変位していないため、出土土器の年代である古墳時代初頭以降の断層活動はないと言える。

ちなみに、トレンチ掘削の際、断層位置は写真判読における逆向き低崖の位置だろうという想定のもとに、ボーリングBM2−1とBM2−2間を中心に掘削を進めていたが、実際にはBM2−1付近が断層で、その外側(西側)にせき止め堆積物に相当するシルト(Sil)が出現した。ボーリング調査で、この下盤側のせき止め堆積物が捉えられなかったのは、ボーリングBM2−1がちょうど断層F1、F2によって段丘礫層が積み重なった場所を貫いたからである。結局、断層位置は、地形から推定された低崖(畦)よりもさらに西側に6m余りずれていた。すなわち、本来の断層活動による低崖は、写真判読に用いた米軍写真の撮影時(1953)には、既に崖が人工改変または侵食により東へずれていたことになる。