(4)布引山地東縁断層帯の評価

(1) 布引山地東縁断層帯の分布と形状

@ 断層帯の平均変位速度と断層長      (図1−2−4 参照)

地形断面測量による地形面変位量の計測結果を表1−2−6に示す。平均変位速度は変位量を各地形面の形成年代で除して求め、これを図1−2−4にプロットした。同図には参考まで、既存調査の鈴鹿東縁断層帯(平成7年度)の平均変位速度分布も併せて表示した。

本断層帯の各地形面の平均変位速度は、概ね0.1(m/1,000年)、最大で0.16(m/1,000年)である。

図1−2−4によると、平均変位速度は椋本地区で最大となり、安濃町安部地区で小さくなる傾向が認められる。すなわち、断層帯の北を起点として距離0〜20km(亀山市安坂山〜安濃町南神山)で1つの山型のカーブを描く。また、距離23km(津市片田新町)以南も1つのユニットと見ることができる。このように、布引山地東縁断層帯は、平均変位速度の分布から2つのセグメント*に分かれる可能性がある。しかし、南部のセグメントは、南端で収束するかどうかは不明で、さらに南方へ続く可能性も考えられる。 

以上の検討から、地震規模の想定に必要な断層長は、断層帯全体が活動する場合が最大地震となるため、断層帯全体の延長27kmを最大値とすることが出来る。一方、上記の個々のセグメントだけが活動する可能性も否定できない。

* (注) 大規模な活断層が活動する際、端から端まで一挙に破壊する場合と、いくつかのセグメント(segment:区切り、区分の意)に分かれて、それぞれが独立に活動する場合がある。このように、分割して考える方法をセグメンテーション(segmentation)と言う。逆に、地表では独立しているように見える複数の断層が同時に活動することもあり、このような断層群をまとめて扱う方法はグルーピング(grouping)と呼ばれる。

表1−2−6 地形面の変位量と平均変位速度

図1−2−4 布引山地東縁断層帯−鈴鹿東縁断層帯の鉛直変位速度分布図

A 断層帯の形状       

平成9年度、10年度の地形・地質調査、物理探査からトレンチ調査に至る一連の調査結果を総合して活断層図にまとめた。

同図は断層変位地形と各々の調査位置を表示したものである。主な変位地形については番号を付けて一覧表とした。表示した断層変位地形は、変位地形が明瞭な活断層、変位地形がやや不明瞭な活断層、及び撓曲崖である。沖積低地においては物理探査(浅層反射法探査)から推定された断層を伏在活断層とした。段丘面は高位面、中位面、低位面を塗色表示した。調査地南部の津市から久居市にかけては地層の撓曲変形が顕著であるため、風早池断層を含めて撓曲帯とした。

同図によると、布引山地東縁断層帯の形状は、方向がほぼ南北でややNW方向に寄る。断層帯のうち、明星ヶ岳断層、一志断層(長谷山東麓部分)は境界断層系に、白木断層、椋本断層、戸島西方断層、風早池断層及び庄田断層は前縁断層系に属する。このうち、前縁断層系は境界断層系よりも断層変位地形が明瞭で、段丘面の変位の累積性が認められる。境界断層系では変位基準がほとんどない。

椋本〜戸島西方断層は、複数の断層変位地形が平行して比較的長く連続する。庄田断層は断層帯南部で南西方向に分岐している。

B 断層帯の構造

断層帯の構造は、基本的に断層の西側が東側に乗り上げる逆断層である。ただし、椋本断層は西上がりの逆断層(主断層)の他に、これに付随する2条の東上がりの副断層があり、逆向き低断層崖を伴う。これは逆断層の典型的な形態である。

また、関町付近では段丘面が西に逆傾斜している。これは、椋本断層のように明瞭な逆向き低断層崖は形成されなかったものの、それに近い変位があった可能性を示す。

庄田断層は、断層帯の南部の大局的な地質構造が風早池断層につながる(久居撓曲)のに対し、これとは別方向に分岐するように延びている。

(2)布引山地東縁断層帯の活動性

@ 確実度

本断層帯の断層を活断層研究会編(1991)の定義に沿って区分すると表1−2−7のようになる。

本調査のボーリングとトレンチ調査によって、椋本断層と風早池断層の確実度はさらに上がった。本断層帯の確実度は、境界断層系では“U”であるが、今回調査した前縁断層系では“T”である。

表1−2−7 断層帯の確実度

A 活動度

地形面の地区ごとの平均変位速度を表1−2−8に示す。各地区の活動度は、松田(1975)の分類に基づくと、椋本地区だけが“B級”に分類され、その他の地区は大半が“C級”である。したがって、本断層帯の活動度は“B〜C級”である。なお、これらの値は鉛直成分で計算したものであり、ネットスリップの活動度はこれより大きくなると思われる。

表1−2−8 地形面の平均変位速度と活動度

B 経験式に基づく活動性評価

椋本地区ではある程度の活動回数、活動年代の情報が得られたが、それ以外の地区ではそのような情報が得られなかったため、松田の経験式から、本断層帯の活動間隔、単位変位量を比較検討する。

松田(1975)によると、最大マグニチュード(ML)、断層の長さ(L)と単位変位量(D)の対応関係については、以下のような関係があるとされている。

   logL(km)=0.6ML−2.9 …………………………… (1)

   log D (m) =0.6MD−4.0 …………………………… (2)

布引山地東縁断層帯の延長は最大27kmである。このときのマグニチュードは(1)式より、ML=7.2と推定される。また、このML=7.2を与える単位変位量Dを(2)式から求めると、D=2.1mとなる。椋本トレンチTM3で得られた変位量1.2〜1.5mは、これが副断層の変位量であることを考えると、主断層のDより小さく矛盾はない。

一方、椋本断層の主断層(FM1)を本断層帯の一部と考え、この主断層(FM1)の変位量が断層帯の変位量と同一と見なすと、最近5万年間の断層帯の鉛直変位量は7.5mである。断層帯の活動回数は、この変位量を単位変位量Dで割って求めると、3.6回(7.5÷2.1)、すなわち、約4回である。このときの活動間隔はインターバルが3〜5回分としておよそ10,000〜17,000年となる。

さらに、断層の長さを前述のセグメント長、約20kmとした場合でも、結果は変わらない。これを表1−2−9に示す。

表1−2−9 断層帯の単位変位量・活動回数・活動間隔の推定

以上の経験式に基づく検討から、本断層帯は、“活動間隔 10,000〜17,000年で、最近5万年間に4回程度活動した”と推定し得る。

したがって、現時点における断層帯の評価としては、断層活動時の最大地震規模はマグニチュード7.0〜7.2、1回変位量は1.6〜2.1m程度と推定される。一方、トレンチ調査の結果では、椋本断層の活動間隔は25,000年以下と推定されていることから、布引山地東縁断層帯の活動間隔は10,000〜25,000年程度という推定となる。