(3)トレンチ調査−椋本M2地区

図2−3−7図2−3−8参照)

(1) トレンチの地層構成

トレンチTM2はM2面上の逆向き低断層崖の延長付近で掘削した。

トレンチで見られた地層は、下位より、段丘面M2を構成する礫層(G)、砂層(Sd1)、青灰色シルト(Sil)である。Gの上部には砂層(G−S*)が挟まれている。Sil中には頻繁に粗砂、細礫(Sd2、Sgなど)が混じる。その上位には花崗質粗砂(SgN*)と泥炭質黒色土(S2*)が堆積している。SgNは下位のSilに対して不整合である。最上位には表土・耕作土(S3)がのる。S2にはAT火山灰に由来する火山ガラス(二次堆積)が含まれるがSilには含まれない。このことから、SilはG堆積以降、AT以前の堆積物である可能性が高い。

14C年代はSd2付近のSil中の腐植が約3.0万年前、および約3.2万年前、S2(木片)が2,250±30 yBP、S3中の炭化物*が770±50 yBPである。また、S2とS3からは古墳時代初頭とされる土器片*が出土した。人工改変は耕作土S3のみならず、S2まで及んでいると見られる。

*(注) G−S、SgN、S2、炭化物、土器片はS面に見られる。

(2) 地質構造

トレンチ壁面の座標No.6〜10付近に、段丘礫層(G)が上位のシルト(Sil)に乗り上げる東上がりの逆断層が複数条発見された。断層はGからSilを貫き、Sil上部まで延びている。また、段丘礫層中では断層面が不明瞭で扁平礫が断層方向に再配列する傾向があり、Sil中では明瞭な破断面が認められる。断層の走向・傾斜は、F1断層がN6°−16°W/25°−34°E、F2断層がN9°W/48°Eである。

断層の周辺は強く撓曲変形している。段丘礫層上部の砂層(Sd1)は断層活動に伴って流動したと考えられる。

なお、Silは断層の上盤側にも存在するが、下盤側に厚く堆積していることから断層変位によってせき止められ、層厚が増大したと見られる。

(3) 断層活動の考察

段丘礫層上面の変位量は、F1断層で0.7〜1.0m(のり面上、断層傾斜方向)、F2断層では約1m(のり面上、断層傾斜方向)である。S面の断層近くの段丘礫層が撓曲していることを考慮に入れれば、段丘礫層上面の鉛直変位量はおよそ3.3mとなる(図2−3−7参照)。前述のボーリング結果によると、断層を挟んだ段丘礫層基底面の高度差は4.5mである。したがって、段丘礫層の層厚が断層を挟んで異なっており、このことは礫層堆積中の断層変位を示唆するものと考えられる。F1断層、F2断層とも礫層Gの上面には崖錐状に礫が崩落した形跡がないことから、両断層はGの上位にSilが堆積した状態で活動したと考えられる。

F1断層の活動時期は、断層面に引きずられた水生植物の茎(図2−3−7中の14C:M2−C1試料)の年代が、約30,200年前であるから、活動年代は約3万年前以降である。断層変位は耕作土S3までは及んでいないことから、断層の活動時期はS3に含まれる炭化物の年代770±50 yBP以前となる。

トレンチTM2で考えられるFM2断層の活動は次のとおりである。

a G堆積中にGを切って変位させた(約5万年前以前)

b Sil堆積中にF2断層が活動し、下盤側のSilの層厚が増大した

(aとcの間:約3万〜5万年前)

c F1断層が活動してSd2を変位させた(約3万年前以降〜770yBP以前)

 ただし、F1、F2断層は、地下深部で1本の断層(FM2断層)に収束している可能性がある。