2−5−1 トレンチ調査の概要

(1) 目的

トレンチ調査は、断層の存在の有無、断層の最新活動時期や断層活動の間隔及び1回の活動に伴う変位量(実移動)等を明らかにすることを目的に実施した。

(2) 位置(決定に至る経緯と選定理由)

トレンチ調査は、トレンチ掘削が4箇所と露頭はぎ(崖の整形)が1箇所である。トレンチの概略的な位置は、前述の図1−2−3−2の調査位置図と図2−2−3−4図2−2−3−5の地質図に示した。トレンチ位置を決定するにあたっては、地形・地質状況を優先して選定したが、鈴鹿東縁断層帯では、前縁断層系が活動的で、かつ地形 ・地質的に明瞭な兆候があり、その箇所を中心にトレンチ箇所として選定した。 一般的には断層長が長い地域では、断層の活動形態等が地域毎で変わってくる可能性があり、地域ごとに掘削する必要がある。この地域でも境界断層系について検討し、湯の山地域や水沢地域を当初トレンチ候補地としたが、表層部に巨礫 が存在する等の施工性の悪さや、周辺の地形・地質状況から断層の最新活動時期 を決定できる堆積物が分布しないことが掘削前から判明しており、今回は掘削地 点から除いた。各トレンチ及び壁はぎ箇所の位置決定にあたっての経緯と理由等は以下の通りである。

1) 青川上地点(員弁郡北勢町麓村) 

選定地点は、麓村断層(太田・寒川,1984)が南側に連続する箇所で、中位面を変位させているのが地形的に明瞭な断層崖の箇所である。さらにボーリング調査を行い、段丘堆積物の基底を基準にしたときに断層によるずれが想定された。ただし、崖部直下のボーリング試料からは、断層の存在を示唆するものは確認されていない。

2) 青川中地点(員弁郡大安町石榑北山)

選定地点は、麓村断層の南側への延長沿いで、地形的にも断層崖が明瞭である。極浅層反射法探査結果からも撓曲した反射面が明瞭に識別でき、断層の存在が想定された。またボーリング結果からも深度の浅い位置に東海層群が認められ、西側が隆起した傾向が示された。

3) 青川下地点(員弁郡大安町石榑北山)

選定地点は、麓村断層の南側への延長沿いで、米軍写真からみてもほぼ北東−南西方向に低断層崖が認められる地域である。航測図化を行い現在の地形図と比較し、切盛土の規模を予測しながら選定した。また試験的に放射能探査を行い、断層の位置選定の精度をあげた。

4) 宇賀川地点(員弁郡大安町石榑南)

選定地点は、上記の3地点にくらべ地質露頭の露出がよく、推定した断層崖沿いでの東海層群の撓曲等が明瞭に観察できた。ただし、断層崖であると同時に浸食崖でもある可能性があり、掘削によって断層の存在を把握できない場合も想定された。しかし、ボーリング調査において、掘削地点の年代を決定できると思われる堆積物も認められ、この地点でのトレンチ掘削を行った。

5) 藤原地点(員弁郡藤原町山口)

現地踏査時に員弁川支流の河川沿いで発見した露頭であり、表層に近い箇所の段丘堆積物が断層によって変位を受けているか否かを確認するために露頭はぎを実施した。

この地域は、境界断層系が連続する箇所にあたり、かつ高角逆断層で活動時期は第四紀はじめで終了していると予想していた地点である。これらの状況を確認するために露頭を覆っていた植生を除去し、スケッチを行った。

(3) トレンチの規模

トレンチの開口部の大きさは、以下のとおりである。

・青川上地点(トレンチを2回に分けて掘削している)

長さ:約7m、幅:約3m、深さ:約2m〜7m

・青川中地点

長さ:約15m、幅:約6m、深さ:約4m〜5m

・青川下地点(2箇所掘削)

長さ:約6m、幅:約1〜2m、深さ:約2m

・宇賀川地点

長さ:約7m、幅:約1〜3m、深さ:約2〜3m

(4) 調査実施期間 

・青川上地点:平成8年7月22日〜7月29日

・青川中地点:平成8年8月31日〜9月13日

・青川下地点:平成8年10月2日〜10月18日

・宇賀川地点:平成8年7月29日〜8月12日

・藤原地点 :平成8年7月27日〜8月10日

(5) 担当者

向山  栄(技術士:応用理学)

松本 俊幸(技術士:応用理学)

堤 昭一

白井 一也

益子 雄一

斎藤 孝浩