2−1−2 既存文献調査結果

鈴鹿東縁断層帯及びその周辺の地形・地質、断層系に関する文献は、表2−1−2−3−1表2−1−2−3−9の94文献を収集し、それぞれ要旨をまとめ抄録とした(巻末資料1−(1)参照)。資料の内訳は、表2−1−2−1に示す。なお、活断層研究会(1991)での鈴鹿東縁断層帯の各断層の認定に利用した主要な文献は、次のようである。

1) 森一郎・山田純(1977) 一志断層による段丘変位(予報),三重大学教育学部研究紀要,28,p.27−33.

2) 太田陽子・寒川旭(1979) 鈴鹿山脈東麓北部地域の変動地形(演旨),日本第四紀学会演旨集,9,p.77−78.

3) 武久義久(1979) 鈴鹿山脈東麓の活断層,奈良女子大学地理学研究報告,(1),p.119−138.

4) 太田陽子・寒川旭(1984) 鈴鹿山脈東麓地域の変位地形と第四紀地殻変動,地理学評論,Ser.A,57,(4),p.237−262.

(1) 鈴鹿東縁断層帯周辺の地質研究

鈴鹿東縁断層帯に沿った地域の地質は、古い方から地体構造区分で美濃帯に属する中・古生界(ペルム〜ジュラ系)、白亜紀とされている貫入岩類、中新統第一瀬戸内累層群 、鮮新−更新統東海層群(奄芸層群)、及び第四紀の段丘堆積物や新期扇状地堆積物及び沖積層である。

鈴鹿東縁断層帯に沿った地域では、今までの既存文献を総合的にまとめた、各地域の地質調査所の図幅が発行されており、それらは,5万分の1図幅「彦根東部地域の地質」(宮村ほか,1976)、「亀山地域の地質」(宮村ほか,1981)、「御在所山地域の地質」(原山ほか,1989)、及び「桑名地域の地質」(吉田ほか,1991)である。

これらによれば、鈴鹿東縁断層帯に沿った地域の二畳紀〜白亜紀にかけての堆積物は、主な岩相から緑色岩・石灰岩層と泥岩・砂岩の砕屑岩類及び花崗岩類の貫入岩からなる。この中・古生界は、調査地でほぼ南北方向に沿った、鈴鹿山脈を構成している。調査地の中新統は、中新世前期末〜中期初頭とされる千種層である。千種層は、砂岩・泥岩からなり、鈴鹿山脈の東縁で中・古生界や貫入岩類と断層で接するが、分布はかなり局所的である。

東海層群は、鮮新世以降の堆積盆地に堆積した陸成層(河成〜湖成層)である。同じ時代の近接する堆積盆地には、大阪層群や古琵琶湖層群の堆積盆地がある。調査地には主に鮮新世後期から更新世前期の堆積物が分布する。主な層相は,砂・シルトの薄層や亜炭層を挟む淘汰の悪い角礫〜亜円礫層、やや淘汰のよい亜円礫〜円礫層、また砂層や礫層をはさむ泥層あるいは礫層と泥層の互層などからなる。東海層群には、このほかに厚さ数cmから10数cmの火山灰層が多数挟まれる。調査地の東海層群の構造は、菰野町三滝川より北方では、概ね南北方向の走向で、総じて高角度(30゜〜70゜)の傾斜で東に傾く。三滝川より南方は、一部をのぞいてほぼ北西−南東方向の走向で、2゜〜15゜程度で東に緩やかに傾斜するようになる。

第四系のうち調査地には、鈴鹿山脈を源流とした、ほぼ東西に東流する河川に沿って比高の異なった段丘が多数形成されている。菰野町三滝川沿いよりも南側は、比較的規模の大きい扇状地が主に形成されている。

段丘は、大きく低位、中位、高位及び最高位に区分され、さらに各段丘で2つに細分されている。各段丘の堆積物の層相は、礫層であり、一部砂層が挟在する。礫層は、後背地を構成する岩石に左右された層相を示す。たとえば、花崗岩類が後背地を構成する箇所は、礫種も花崗岩が多くなる。

調査地での扇状地堆積物のうち、とくに大きいものは四日市市から鈴鹿市にかけての水沢扇状地堆積物である。調査地ではおもに中期扇状地堆積物が分布する。礫種は、チャート、粘板岩、ホルンフェルスなどであり、礫は、比較的新鮮である。

新期扇状地堆積物は、鈴鹿山麓沿いに分布し、後背地の礫等から構成される。沖積層は、氾濫平野堆積物や谷底平野堆積物として、河川沿いに小分布する。主に礫からなり、一部朝明川沿いなどは花崗岩の巨礫を伴う。

(2) 三重県内の断層系 

三重県内の活断層は、活断層研究会(1991)によれば、68程度分布しており、そのうち松田(1990)による地震規模の大きい起震断層で比較的連続するものは、北東から南にかけて列挙すると表2−1−2−2のようである。

このうち、鈴鹿山脈東縁地域での鈴鹿東縁断層帯以外で活動的な活断層は、古くは貝塚(1950)により指摘され、太田・寒川(1984)、粟田・吉田(1991)での桑名・四日市断層であり、これらの断層は、完新世における断層活動が地形面の変形で認められており、沖積層の変形は、現在調査中であるが、1586年と1854年の地震に伴う断層活動とほぼ対応するようである。布引山地東縁断層帯は、鈴鹿東縁断層帯の南側に連続しており(一志断層系)、八木・寒川(1980)は、中位段丘に変位を与えており、後期更新世の活動を指摘している。

鈴鹿東縁断層帯は、とくに太田・寒川(1984)が総括的な指摘をしており、一志断層系においても変位を与えている地形面からみて、第四紀前半で活動したが、段丘に変位を与えていないもの(Qf)と、段丘を変位させ第四紀後半の活動が明らかなもの(Af)に区分できる。Afのうちでも山地と平野の境界断層系よりも約2km平野側に張り出した前縁断層系と段丘と海岸沿いの沖積低地の境界をなすものがより活動的である、としている。後者は、桑名・四日市断層系である。ただし、境界断層系でも第四紀後半の活動が認められるものも存在する。

以上のように三重県内の活動的な断層は多くみられるが、その中でも鈴鹿東縁断層帯は活動度及び最大に見積もった場合の断層長は最も長く、最初の調査地域として選定したことは妥当である。

表2−1−2−3−1 鈴鹿東縁断層帯に関する文献

表2−1−2−3−2 鈴鹿東縁断層帯以外の活断層に関する文献

表2−1−2−3−3 鈴鹿東縁断層帯以外の活断層に関する文献

表2−1−2−3−4 第四紀の地質及び地形に関する文献

表2−1−2−3−5 第四紀の地質及び地形に関する文献

表2−1−2−3−6 地質一般に関する文献(東海層群,奄芸層群)・その他

表2−1−2−3−7 地質一般に関する文献(東海層群,奄芸層群)・その他

表2−1−2−3−8 地質一般に関する文献(東海層群,奄芸層群)・その他

表2−1−2−3−9 地質一般に関する文献(東海層群,奄芸層群)・その他