1−3−5 トレンチ調査結果

トレンチ調査は、断層の存在の有無、断層の最新活動時期や活動間隔及び1回の活動に伴う変位量(実移動)等を明らかにすることを目的に実施した。

トレンチ地点は4箇所であり、藤原町では露頭はぎ(崖の整形)を1箇所実施した。

各地点での調査結果のまとめは、次のとおりである(各地点の図、写真はU章照)。

(1) 青川上地点

青川上地点トレンチは、員弁郡北勢町の青川左岸側に分布する中位段丘面(M2 面)上に位置する。掘削は二度に分けて行い、1回目は、断層崖と推定した崖直下から休耕田にかけて掘削した(Aトレンチ)が、明瞭な断層面が認められなかったため、再度、断層崖斜面を追加掘削した(Bトレンチ)。その結果、Bトレンチにおいて明瞭な低角逆断層を確認した。

トレンチ壁面の地質構成は、下位より段丘を構成する砂礫を主体とした河川堆積層が6層準認められ、最上位は埋土である。最下位の砂礫層中には褐〜明褐色の砂質シルトが挟在し、その上位には暗褐〜褐色の中〜粗粒砂を主体とした砂質土層が分布する。

断層面の走向傾斜*1は、N13゚E18゚Wである。

断層運動による変形を受けた地層は、最下位の砂礫層(砂質シルト挟在)とその上位の砂質土層であり、ともに地層中に変形・切断する断層面が発掘された。断層はさらに上位の砂礫層中で不明瞭になる。

このトレンチでは放射性炭素年代測定*1をAMS法で4試料実施したが、いずれも採取した地形面から判断して異常値を示した。

断層の活動年代は、地層の年代が明らかにならなかったため不明である。既存の文献(たとえば、太田・寒川,1984)によれば、トレンチ付近の段丘面の形成年代が約5〜8万年前であるとしていることから、約5〜8万年前より新しい時期に少なくとも1回以上の断層運動が起こったと考えられる。

(2) 青川中地点

青川中地点トレンチは、大安町石榑北山地内の源太川左岸の中位段丘面(M2面)と低位段丘面(L1)の境界部に位置する。この段丘面の西側には、高さ3〜4m程度の低崖が分布する。このトレンチでは明瞭な断層面は確認されなかったが、断層の可能性のある線状模様及び地層の変形構造が推定された。

トレンチ壁面の地質構成は、最下位に幅20〜200cmの粘土のレンズが挟在する、砂礫層を主体とした河川堆積層が分布し、その上位には段丘を構成する9層準の砂礫層を主体とした河成堆積物が分布する。各砂礫層は、互いに不整合*1関係にある。最上位は埋土である。

断層と推定した面の走向傾斜は、N2゚W15゚W及びN20゚E25゚Wである。

断層運動による変形を受けた地層は不明である。

このトレンチでは放射性炭素年代測定を主にAMS法で7試料について実施した。

その結果、トレンチの下底付近で19820±120yBP*1、20040±80yBP、表層に近い箇所で1060±60yBP〜1170±60yBP、活断層の疑いがある線状模様及び地層の変形構造周辺の地層で320±60yBPの値が得られた。しかし、このトレンチでは明瞭な断層が確定されなかったので、320±60yBPの値は断層の活動年代であるとは特定できない。トレンチ下底付近で得た年代値は、掘削位置が低位面(L1面)であることを考えると地形面と調和的な値を示しており、従来推定していた段丘面の形成年代はほぼ妥当であったと思われる。

(3) 青川下地点

青川下地点トレンチは、員弁郡大安町の源太川右岸側に分布する低位段丘面(L1面)上に位置する。この段丘面上には、米軍写真でほぼ北東−南西方向に連続する高さ2m程度の断層崖が認識されていた。

トレンチ掘削は2回にわたって行われ、2回目のトレンチで明瞭な低角逆断層を確認した。

トレンチ壁面の地質構成は、下位より砂礫層でくさり礫を多量に含みシルト層が挟在する東海層群の砂礫層と、段丘を構成する砂礫層や褐色の粘土〜シルトを主体とし、層状あるいはレンズ状に礫を伴う河川堆積層等である。最上位は耕作土である。壁面では東海層群の砂礫層が、段丘構成層の砂礫層に低角逆断層で接する。

断層面の走向傾斜は、N41゚〜68゚E18゚〜20゚Wである。

断層運動による変形を受けた地層は、東海層群中のシルト層が断層によって生じた撓曲変形及び剪断変形を受けているほか、その他の砂礫層でも断層による地層の変形・切断が認められた。

断層の活動年代は、断層の最新活動を確定できる資料は得られていないが、このトレンチで採取した2試料のAMS法による放射性炭素年代測定で、低位段丘面の形成年代が16410±70yBPと23150±100yBPの値が得られており、16410±70yBP以後に活動があったことが考えられる。

(4) 宇賀川地点

宇賀川トレンチは、大安町石榑南地内の宇賀川左岸で実施された。掘削地点西側は、比高20m程度の侵食崖がほぼ南北に連続し、その上位は中位面となっている。崖の東側は宇賀川に沿った沖積地であり、トレンチ掘削はその沖積地と崖の境界部にある休耕田で実施した。

トレンチ壁面の地質構成は、下位より主として砂岩、礫岩、シルト岩が層状に分布する東海層群砕屑岩類と、その上位には中〜細粒砂からなる砂層レンズが挟在する砂礫層と青灰(暗青灰)を呈した粘着性に富んだ粘土及びこれらを不整合に覆って堆積構造のほぼ水平なシルトから細粒砂層が分布する。壁面では東海層群の砕屑岩類が砂礫層に覆い被さるように接しているのが確認された。 

断層面の走向傾斜は、N35゚E15゚Wである。

断層運動による変形を受けた地層は、東海層群に覆われた砂礫層とその上位の粘土層であり、これらを不整合に覆うシルト〜細粒砂層は変形を受けていない。

放射性炭素年代測定はAMS法等で14試料について実施した。このうち試料を採取した地形面からみて明らかに年代値が古いものは異常値として取り扱った。年代値の分析から、変形を受けた地層の最新年代は880±60yBP、変形を受けていない地層の最も古い年代が700±70yBPであり、断層の活動時期は、AD1020年〜AD1410年の範囲、すなわち平安時代中期から室町時代初期の間であると推定される。

(5) 藤原地点

露頭はぎ地点は、藤原町山口北西の員弁川支流河内谷川沿いの標高180mの地点であり、中位段丘面(M面)が発達している。露頭はぎ地点の南側で河内谷川右岸の中位面にはやや不明瞭ながら北西−南東方向の低崖地形が連続しており、露頭はぎ地点の断層と関連性をもつ可能性が高い。

整形した壁面の地質構成は、頁岩からなる中・古生界と東海層群の礫層(礫率10%、礫種:チャート、頁岩等、基質:褐色シルト)が分布し、これらを不整合に覆って段丘堆積物が分布する。中・古生界は著しく破砕及び粘土化し、東海層群とは低角の逆断層で接している。

断層面の走向傾斜は、N35゚W20゚Sである。

断層運動による変形を受けた地層は、段丘堆積物である。変位量は、段丘堆積物の基底面を基準として鉛直に約60cm程度である。

断層の活動年代は、放射性炭素年代測定試料が得られておらず未定である。