6−3−3 断層変位の検討

不連続面

トレンチ法面の南東端に近い区間[S42−44]と[N43−45]には,4b層のくい違いによって示される不連続面が見られる(写真6−2写真6−3).この不連続面の性格を検討する上で重要な点について列挙する.

@不連続面の全体的な走向・傾斜は,ENE−WSW・40゚Nであり,地形面変位の方向におおよそ対応する.

Aシルト層(4b)が,この北西に傾斜する面を境に食い違っており,北西側が南西側へ1.2m程度ずれ上がった(即ち南東側が落ちた)形態を示す.

B不連続面は礫層とシルト層の間では明瞭であるが,両側ともシルト層や礫層の場合には境界は不明瞭である.

C北側法面では,上盤側のシルト層が上方に凸な形で湾曲している.

D南側法面では下盤側の礫層(5a)は不連続面に沿って50cmほど垂れ下がっており,垂れ下がった部分は下方ほどふくらみ,下方ほど粗粒な礫が多い.同様に第6層中の砂礫質ラミナも下方に垂れ下がっている.この垂れ下がりと平行に,シルト層(4b)には砂・礫の平行な配列が見られる.

E不連続面に沿うシルト層には,ほぼ垂直な禾本類の根痕が見られる.

F北側法面では,上盤側が礫質のため境界自体は比較的明瞭であるが,下部と上部では境界面の傾斜がやや異なる.

G北側法面の下盤側シルト層(4b)は,小規模な斜交ラミナの発達する砂層を挟むが,その砂層は不連続面に近づくと,シンセチック正断層的に階段状にずれ下がる.

なお,トレンチの埋め戻し時に,区間[S39−43]と[N41.5−43.5]において約1.5mさらに掘り下げた.その部分での観察事項は以下のとおりである.

H不連続面を挟んで,シルト層(4b)の下位,礫層(3,2 x d)の下位ともに,斜層理の発達した礫層から成る.

I不連続面に続く礫の配列は見られるが,礫の立上がりなどの系統的な変形はみられない.

J南側法面の上盤側シルト層の下部は,バケットの一掻きで消滅したことから,シルト層の連続性は極めて小さいと推定される.

この不連続面は,調査当初の段階では明瞭な逆断層と判断された.それは,大局的に地形面変位と対応した走向・傾斜を示し(@),シルト層のくい違いが見られる(A)ことによる.また,上盤側のシルト層も逆断層に調和的な形態をしている(C).

しかし,堆積物自体が,側方連続性に乏しい小河川の堆積物から成ることを考慮すると,慎重な判断が必要である.下盤側に見られる礫や砂の垂れ下がり(D)や砂層の階段状のずれ(G)などの変形は,むしろ正断層的な変形であり,シルト層のずれのセンスとは逆である.また,この法面では断層運動によって期待される礫の系統的な立上がりや断層面付近での初生堆積構造の撹乱・消滅がほとんど見られない(B,G).このような正断層的な変形や境界面の形態は,むしろ堆積時の河道の側壁(カット・バンク)に見られる構造として解釈される可能性を示している.従って,この解説書では「逆断層」である可能性を示すにとどめる.

この不連続面は,第3層(約2,000年前)以後の堆積物を切り,第7層(約300年前)に覆われることから,「逆断層」であるとすると,最も新しい活動は300年前から2,000年前の間ということになる.見掛けの垂直変位量は約80cmである.

第1層の撓み

区間[S16−30]と[N22−29]では,前述したように第1層の撓み下がりが見られる.ここでは,第1層内のシルト層・礫層の境界も第1層上面境界と調和的に撓み下がっており,上位の地層による削り込みは認められない.従って,この区間の撓み下がりは,テクトニックな運動により少なくとも1a層堆積後に形成された構造であると推定される.ただし,大きく撓むように見える[S20−25]付近は上位がチャネル充填礫層に削剥されており,この部分を除けば,第1層の傾斜は5〜7°程度である.河川堆積物では初生的にこの程度の傾斜をもつ地層はありうるので,変形イベントとしての確実度は大きくはない.

第2層は,区間[S24−31]と[N23−29]で第1層を切っており,1a層の撓み下がりに沿った分布形態をしている.第2層は下位の層にアバットしており,撓み下がった緩斜面(撓曲崖)を埋積したものと考えられる.なお,第2層の一部(2b)も撓曲に参加しているようにも見える.従って,これらが断層運動による撓曲だとすると,その時期は,1a層堆積後〜第3層堆積時(2,000年前)以前であると考えられる.なお,みかけの垂直変位量は約1mである.

まとめ

浦臼トレンチにおいては,約2,400年前以降に堆積した河川堆積物が確認された.中央部付近やや北西寄りでは,撓曲状の構造が見られた.また,南東端では「逆断層」状の不連続面が認められた.これらが断層運動に伴う構造であるとすると,約8,000年前以降〜約2,000年前以前,および約2,000年前以降〜約300年前以前の,少なくとも2回の断層運動があったことになる.それぞれの変位量は1m前後で,松田(1975)の経験式(第1章,式1.2)によれば,マグニチュード6.6程度の地震が発生したことになる.また,地形的な変位から求めた変位速度(0.09〜0.14m/kyr)を松田(1975)の経験式(第1章の式1.3,式1.4)にあてはめると,断層の活動間隔は11,000年〜7,000年程度となり,再び活動するまでには数千年以上の時間的余裕があることになる.

しかしながら,このトレンチでは堆積物の性質から,断層による変位の認定には困難な点が多く,断層活動の確実度は大きくはない.今回認められた構造がすべて初生堆積構造であるとすると,過去2,000年間に活動はなかった可能性が大きく,近い将来に再び活動する可能性も否定できない.