4−5−2 新十津川地区(新十津川町大和)

本地区では,空中写真判読により北北東−南南西の走向をもつ撓曲帯が,反射法地震探査測線の西端付近と測点400m付近に存在する.このうち後者は,幅200mと規模が大きく,T3面とT5面が東に撓み下がっている.この撓曲帯は,反射法測線から北側に約2.5km追跡できる.

本地区の地層区分は,前述した雨竜地区と同じである.物理探査の結果を解釈するにあたり,測線の比較的近くで掘削されている温泉井(新十津川町泉源井,同町ふるさと公園井など)の地質層序を参考にした.

重力プロファイル調査

重力プロファイル調査は,反射法地震探査測線の北側550mを東西に走る道道24号線上で実施されている.測定結果によれば,地形判読による撓曲帯の東端付近を中心に低異常がみられる(図4−11では低異常の中心部を反射法の測点400mと一致するように平行移動して表示).低異常の大きさは,幅100mの範囲で0.2mgal程度と小さなものである.ただ,この低異常を示す範囲は,後述するように,IP比抵抗映像法(図4−9)の測線360〜440mにみられる200Ωm前後のやや高比抵抗部分とほぼ重なり,また反射法の結果でみられる逆三角形構造の上部西側隅にほぼ一致しいる(図4−10).

IP比抵抗映像法

比抵抗値の測定結果(図4−9)からは,上部の地層は比較的成層した状態で分布していると推定される.最上部には測線全体にわたり50Ωm程度の薄い表土があり,その下位には深度6m位まで100Ωm前後の地層が分布する.6m以深では,場所により比抵抗値がかなり分散する.その中で測線中央部の360〜440mについては,深度6〜10mの部分が200Ωm以上のやや高い比抵抗値で,10m以深では50〜200Ωmと分散する比抵抗値の分布で特徴づけられる.測線の両端付近では70〜100Ωmを示し,ほぼ均質である.

充電率は,全体的に2〜6mV/Vの部分が多く,比較的均質とみられる.ただ,測点360m付近には周辺よりも3倍程度も大きな充電率を示すところがみられるが,同様の変化は比抵抗値を含めて他の探査では顕著な異常として把握されていない.

以上の結果から,本地区の浅部の地層は,他の2地区の場合よりも比較的均質で,成層状態を保って堆積していると考えられる.

反射法地震探査

本地区の最上部には,第四紀の段丘堆積物が分布する.最も浅い部分にみられる反射面は鮮新統深川層群の上部層(美葉牛層)内部の境界面に対応すると考えられる.上部層は,下位の鮮新統中部層の堆積形態に規制され,測線300〜400mを中心として上に凸の背斜状の構造を呈する.一方,測線150mより西側および600mよりも東側は,背斜の翼部にあたり層厚は厚くなる.

これより下位には明瞭な反射面が多数認められる.このうち上位の反射面としては,測点400m付近で最も浅くなり,背斜状の構造を示す上に凸の反射面がみられる.測点400m以東では,東下がりの傾斜を示し,明瞭であるもののやや短い連続性を示す反射面が何枚も存在する.これらは,深川層群中部層(一の沢層)の内部の反射面と考えられる.これに対して,測線400m以西には,数少ないやや不明瞭な西下がりの反射面がみられる.このように,中部層とみられる地層は,東西で堆積構造がかなり異なっており,かつ厚さも西部で薄く,東部で厚いという違いが明瞭である.

下位の反射面としは,測線西端から400mまで深度200m前後を示し,それ以東で徐々に深くなって,東端で深度300mをやや越える明瞭な面がみられる.これは,深川層群下部層(幌加尾白利加層)の上面に相当すると考えられる.本層は200〜300mの層厚をもち西側で厚く,東側で薄くなっている.本層の内部には,多数の連続性の良い明瞭な反射面がみられる.

さらに深部では,測線の西端での深度480mから東に向かって徐々に深くなり,測線400m付近で深度540m,それ以東ははほぼ水平な反射面が見られる.これは,温泉試掘井(新十津川町泉源2号)の地質資料を参考にすれば,中新統増毛層の上面と考えられる.これより深部には,明瞭さはやや劣るもの,いづれもほぼ水平の反射面が多数見られる.これは,増毛層の堆積状況を示しているものと考えられる.

上述したように,深川層群の反射波の表われ方が,測線中央付近を境に東西で異なっている.測点250mで深度200m弱にみられる反射面(下部層上面)の不連続と,東側上位にみられる反射面(中部層上面)の不連続を結ぶ線の延長は,測点550m付近で地表と交わる(F1線,図4−10).これを断層と考えれば,F1はほぼ深川層群の上半部にあたる厚い地層を低角で切り,西側が東側に衝上する逆断層の形態をとることになる.このような逆断層は,上盤の地層に多数の副次的な変形をもたらすことになる.図4−10には,F1の上盤側にこのような変形構造の可能性をもつ反射面の不連続を破線で示してある.また,測点500m弱の深度300m強にやや顕著な反射面の不連続がある.これを鍵としてその上下に不連続を追跡してゆくと,高角で西へ傾斜する断層F2を推定することができる.この断層は測点600m付近で深度約80mに達するが,地表までは追跡できない.

上述した西傾斜の構造に対し,深川層群の内部に東傾斜の構造も認められる.それは,測点350m付近で深度50〜60mの反射面(深川層群中部層上面)を切り,測点500m・深度300mでF2と交わる不連続面である.このような構造は,F1やF2と共役な関係にあり,測点350mから600mにかけて深度300mまでの逆三角形部分が楔状に上部に持ち上がるような動きが考えられる.このような動きが地質時代にあったとすれば,この部分は非常に揉まれた構造を示すこととなり,反射面が乱れて水平方向の連続性に欠ける要因と考えることもできる.

以上に述べたように,本地区で得られた反射法断面では,浅部〜やや深部にはいくつかの変形構造が認められることから,深川層群堆積後の構造運動が想定される.しかし,極浅部では,特に新しい構造運動に伴う変形を示すと積極的に判断される明瞭な反射断面は得られなかった.このことは,撓曲崖における地形変位量が小さいこと,重力プロファイルでの小さな異常,および比較的均質な構造を示唆するIP比抵抗映像法の結果などと符合する.