4−3 反射法地震探査

地形判読により撓曲崖として認定された変位地形について,地表下数100mまでの地層の堆積状態,変形構造,および変形の連続性などを把握することを目的として,反射法地震探査を実施した.

方法の概要

反射法地震探査は,地表面で励起された弾性波動が地下の反射面に入射した際に発生する反射波を捉えることによって,地下構造を推定する物理探査手法の一つである(物理探査学会,1989).この手法は,石油・天然ガスなどを対象とした資源探査で,深部構造を調査するために発展してきた.最近は,高い周波数の震源を使えるようになったため,地下浅部を対象とする土木地質調査でも有効であることが分かり,活断層に対しても適用されるようになってきた.

反射波は,或る境界面を境にその上下の地層の各々の弾性波速度Vと密度ρの積である音響インピーダンスρVのコントラストが大きいほど,効率的に発生する.一般に,新しい地質年代の堆積岩では,層相によるインピーダンスの変化が小さいので,反射波の振幅も微小となることがある.そのため,弾性波の発生方法やデータの取得方法に種々の工夫がなされるようになった.

震源としてはダイナマイトなどの爆薬が最も効率が良いとされている.しかし,近年の土地利用範囲の拡大に伴って,ダイナマイトが利用できる地域が限られるようになってきたので,非爆薬系の震源を採用することが多くなってきた.一方,信号対雑音比のよいデータを得るために,共通反射点(CDP)水平重合法を用いることが多くなった(図4−4).この方法は,同一反射点について,起震点−受震点距離を変えて得られる複数の反射波形の,距離変化に伴う時間差を補正した上で重ね合わせ,反射波を強調するものである.近年この方法は,土木地質の分野においても高分解能のデータを提供できるようになった.従って,本断層帯の調査に対してもこのCDP水平重合法を用いることとした.

測線の位置および長さ

探査測線は,活断層図でRと示した雨竜地区(雨竜町豊里),新十津川地区(新十津川町大和),および浦臼地区(浦臼町札的内)の3地区に設定した.測線としては,撓曲帯の走向にほぼ直交する東西方向に直線的な延長を持ち,できるだけノイズの原因となる交通量が少ない道路を選んだ.各測線の延長は1,000mであるが,雨竜地区では測線350m地点,新十津川地区では400m地点,そして浦臼地区では500m地点が,地形判読で得られた撓曲帯の中心部とほぼ一致するように設定した.いずれの測線においても,測線の西側を始点とし,観測計器類を徐々に東側に移動させながら測定した.

探査仕様・観測諸元

観測パターン

・展開方法:終端発振 (end on shooting)

・測線長:1000m × 3測線

・受振点間隔:5m

・起振点間隔:5m

・最小オフセット距離:20m

・測定受振点数:96ch(1shotあたり)

起振源

・震源:重錘落下方式,重錘重量400kg,落下高度およそ2m

・スタック数:1回

受震系

・地震計:上下動地震計,固有周期10Hz

・グルーピング:1グループあたり地震計12個,地震計間隔2m

・記録計:ディジタル地震探査器 DAS−1(OYO Geospace社),144ch

・サンプリング時間:0.5 msec

・フィルター:Low cut 3Hz,High cut( Anti−Alias Filter)1kHz

・記録時間:2.0 sec

今回の測定では,起振源に最も近い受震器までの距離を20m,受震点間隔を5m,そして96受震点の同時観測としたので,最大受震距離は495mである.また,起震点間隔と受震点間隔を等しくしたので,最大48重合である.データの記録形式はSEG−2フォーマットとした.また,テストショットで1sec前後に顕著な反射波がみられたことから,記録時間の長さは2.0secとした.表面波を抑えるための受震器のグルーピングは,幾つかのパターンについてテストを行った結果から,受震器(各エレメント)を測線に沿って2m毎に設置する方式を採用した.

ノイズの状況としては,新十津川地区では測線200m付近が高圧送電線の直下にあたったため,一定周波数の電気的ノイズが誘導された.また,浦臼地区では農業用水路の集水桝に落下する用水の影響を受けた.いずれのノイズも若干の工夫で軽減することができた.

データの処理過程および解析方法

解析は,Advance Geophysical社の解析処理用ソフトウエアPromaxを用いて,図4−4に示した手順で行なった.以下に処理内容の要点を述べる.

・ジオメトリの入力:各測点の座標と観測パターン(起震点と受震点の番号)の入力.

・データ編集:受震信号の極性の正常化,不良記録の除去.

・バンドパスフィルター:表面波やノイズを減衰させるため,20〜80Hzを信号の周波数帯域とする.

・AGC処理:減衰の大きい深部からの反射波の振幅を補正するため,或る一定の時間範囲の振動エネルギーがほぼ等しくなるように増幅処理する.

・高度補正:測線に沿って高度差が大きい場合,記録から読み取った表層速度を用いて共通の標高レベルに受震点高度をそろえる.

・データの並べ替え:各共通反射点ごとの起振・受震ペア記録を集める(CDPアンサンブルの作成).

・速度解析:CDPアンサンブルのオフセット距離を補正するため,適切な補正速度値(スタック速度)を見積って速度分布断面を推定する.調査地区でのスタック速度は概ね2km/secであった.

・NMO補正:上で決めたスタック速度を用いて,各CDPアンサンブルがゼロオフセットの記録になるように補正する.

・CDP重合:NMO補正後のCDPアンサンブル記録波形を全て足しあわせ,各CDP点ごとに1本のゼロオフセット記録を作成する.

・残差静補正:測線断面に沿った反射面の連続性を保つため,地質構造の特徴を損なわない程度にスタック速度モデルを微調整する.ここでは1回だけ補正したが,その補正量は概ね1〜2msecであった.

・マイグレーション:等しい走時をもつ反射波の集合である時間断面記録を,実際の地質構造を表わす記録に戻すための処理.ここでは,F(周波数)−K(波数)領域で処理する方法(Stolt,1978)を採用した.幾つかの速度を仮定して比較検討した結果,マイグレーション速度としては地層の連続性がよく読み取れる1km/secを採用した.

・深度変換:以上の各処理を行なって得られる記録は,地表から反射面までの弾性波の伝播時間に対応した時間断面である.これに速度解析で得られた各地層の弾性波速度を乗じて,時間断面から深度断面への変換を行なう.