4−1−1 広域重力調査

地形・地質調査では地下深部における断層構造を把握することが困難な場合がある.そのため,断層構造を含め広域的な地下構造を把握することを目的として本断層帯周辺の広い地域で重力調査を実施した.

測定方法

使用した重力計はLaCoste & Lomberg社のG型測地用重力計である.測定は1995年9月下旬から12月上旬までの間に行った.測定間隔は,本断層帯の周辺については相対的に密な測定を行なうため約500mとし,その他の地域では全体の大まかな重力異常分布を把握できる程度(1km〜数km間隔)とした.測定点数は,403点である.

各点の重力値を決めるための基準点は,新十津川町総進にある国土地理院人工衛星観測室前の1等水準点の重力値(g = 980,495.600mgal)を用いた.各測定値には,地球潮汐(中井,1979),器高,ドリフト(時間に対して線形と仮定)などの補正を行なって重力値を決定した.なお,気温の低い時期における測定であったため,ドリフト量はやや大きく0.2〜0.3mgalになることもあった.各測点の標高は,水準点・三角点・土木工事用水準点など高さの判明している点ではそれらの値を用いた.それ以外の測点では,5,000分の1国土基本図および25,000分の1地形図に示されている標高点を用いた.

各測点における重力値には,フリーエア補正・ブーゲ補正(萩原,1975)・地形補正(山本,1984)を施し,さらに正規重力式の近似式による正規重力値を減じることによって,ブーゲ異常値を計算した.この際,ブーゲ補正および地形補正にあたり必要な補正密度を推定するためにg−h関係を調べたところ,2.30g/cm3が得られた.そこで,この密度を用いてブーゲ補正を行ない,また各測点から半径80kmの範囲内で地形補正を行なった.ブーゲ異常値の分布は,1mgalのコンターで表現し,活断層図の中に掲げた.

ブーゲ異常の特徴

ブーゲ異常分布は調査地域の東西で大きく異なり,山地である東側で相対的に高異常域,平野である西側で低異常域が広がっている.このためコンター(等重力線)は南北方向が卓越している.平野では,相対的に密度の小さい新第三系〜第四系の堆積物が厚いために低異常を示し,特に北竜から妹背牛付近では盆状の低異常を示している.一方,密度の大きな古第三系〜先第三系(基盤岩)が分布している山地では高異常を示し,南西部の隈根尻層群(先第三系)分布域では特に高異常を示している.この高異常の分布パターンは基盤の分布に対応し,その地質境界でコンターが著しく密になっている.このことからこの高異常はブロック状に存在する基盤構造を反映し,地質境界では低異常側へ高角度で落ち込んでいることが想定される.

このようなブーゲ異常分布において,断層帯は地質境界である山地と平野の境界ではなく,それよりやや平野側の段丘上に認められる.断層帯のうち樺戸断層群セグメントaの走向は,北竜〜雨竜付近ではほぼ北−南であるが,コンターの走向は北西−南東であり一致していない.雨竜〜新十津川付近では,セグメントの走向とコンターの走向はともに北北東−南南西でほぼ一致しているが,明瞭な断層帯はコンターが密集している部分から東へやや外れたところに位置している.浦臼付近ではセグメントcの走向は北東−南西になるが,コンターはちょうど断層帯付近を境に南北から東側へやや張り出すような形になり,北東側へ向かって低異常の谷が伸び始める.

3層モデルによる地下構造解析

本断層帯を横断する測線は,調査地域内における道路や地形の都合上,多数設定することが困難であった.このため,ブーゲ異常図に示されているA−A’およびB−B’の2測線について,TALWANI et al.(1959)による2次元解析の方法を用いて基盤構造(密度構造)を推定した.モデル計算にあたり長波長のブーゲ異常は基盤の形状に起因すると仮定し,密度構造モデルは3層とした.測線の水平距離に比べてブーゲ異常の変化が大きいので,密度については基盤は2.8g/cm3,古第三系は2.5g/cm3,および新第三系を2.0g/cm3と仮定した.モデル計算のコントロールポイントとして,既存のボーリング井の抗井地質データを用いた.ブーゲ異常図に示した測線A−A'およびB−B'におけるモデル計算結果を,図4−1に示す.図中にFと記した矢印は撓曲帯の位置を示し,数字(地質概要図に記した深層ボーリング井の番号)の付いた縦線はコントロールポイントとした坑井の位置,深度,および新第三系と古第三系の境界を示している.

測線A−A'では,距離約5kmの間でブーゲ異常値が約25mgal変化している.このブーゲ異常の水平勾配が大きい部分では基盤が落ち込み,上位の古第三系も同様に落ち込むが,平野側ではほぼ水平になっている.

一方,測線B−B'では距離約6kmの間でブーゲ異常値が約40mgalも変化している.しかも,測線A−A'に比較してブーゲ異常の水平勾配が大きく,また地質分布から基盤が地表に露出している部分を合わせた結果,基盤が東へ衝上するような構造が得られた.なお,基盤が露出している部分では,計算の都合上重力値が頭打ちになってしまうため,山地側では途中で計算を打ち切っている.

このようにモデル計算を行った測線においては,ブーゲ異常から計算された地下構造の密度境界の位置は,撓曲帯とは一致しない.このことは,地表で確認されている断層形態である撓曲崖はあくまでも地表での形態であり,深部での断層帯の形態とは異なっている可能性を示すと考えられる.本断層帯においては,地表での垂直変位量も高々数m程度と小さいので,地下においても断層運動のくい違い量はあまり大きくないか,あるいは断層を挟む地層の密度差がそれ程大きくないために,撓曲帯近傍では大きな重力異常として表われないと考えられる.