(1)調査結果

(1)トレンチ調査地点

図2−1−1にトレンチ調査地点を示す.また,図2−0−1にはトレンチ実施地点付近の平板測量による平面図(縮尺1/500)を示す.

調査地点は,滝川市街より北西約3.5kmの地点にあり,樺戸山地から連なる丘陵地の東縁部と石狩川沿いの低地部の境界部付近に位置し,「日本の活断層」(活断層研究会,1991)による「樺戸断層群」のセグメントaの北端部(雨竜町洲本〜豊里地区)にあたる.

調査地点は,標高170m〜110mで緩く南東方向に傾斜している地形面が,石狩川低地部へ撓み下がる部分に位置している.伏島・平川(1996)によれば,この緩斜面は最終氷期前半に離水したと推定されるLg−1面にあたる.

トレンチは,この緩斜面末端部の低地側へ撓み下がる部分で,斜面の最大傾斜方向(N87゚W〜S87゚E方向)に幅6.5m,高さ3m,延長50mで掘削した.

(2)トレンチ断面の層序

トレンチの集成写真を写真2−1−1写真2−1−2写真2−1−3に,スケッチ図を図2−1−2に,地層区分図を図2−1−3に示す.また,表2−1−1に層序表を示す.

雨竜地区トレンチ断面にみられる層序は,おおまかに下位より以下の5層に区分できる.以下に,各地層の概要をまとめる.

1)第1層(礫支持礫層主体)

第1層は終点側の一部で欠如するものの(北側法面では[N34−N43]間,南側法面では[S38−S46]間)ほぼトレンチ全断面に分布しており,トレンチ底面部からトレンチ法面の高さ最大180cmにかけて分布する.

本層は礫層を主体とするが,一部層厚50cm以下の砂層がレンズ状に介在または礫層と指交関係で接する.層厚はトレンチ断面で本層の基底部が確認できないため不明であるが,トレンチ断面では最大180cm以上の層厚を示す.礫層は主に中礫〜大礫からなり,基質は細礫,極粗粒砂〜中粒砂であり,礫支持である.礫種は安山岩,玄武岩が主体である.礫の配列には明瞭な堆積性のインブリケーションが認められる.レンズ状に介在する砂層は,細礫〜中礫を含む粗〜中粒砂であり,セット厚4〜10cmの平行型またはトラフ型斜交葉理が発達する.

2)第2層(基質支持礫層主体)

第2層は第1層の上に重なる礫層主体の地層である.本層の分布は起点側(北側法面で[N7−N19]間,南側法面で[S10−S18]間)では層厚20〜100cmで整合的に第1層に重なるが,これより終点側ではかなり不規則な分布を示す.すなわち,第1層の上に層厚20〜200cmで分布する部分もあるが,一部欠如したり,後述の第3層中にレンズ状に取り込まれて分布する.

礫層は中礫〜大礫を含み,基質は粗粒砂〜細粒砂からなる基質支持の礫層である.砂層は細礫を含む中粒砂であり,平行葉理が発達する部分も認められる.本層の層相は礫層を主体とするが,上述の分布位置により,層相がやや異なる.すなわち,起点側の第1層に整合的に重なる区間では,本層の最下部には層厚20〜40cmの砂層が分布し,その上位に礫層が層厚10〜30cmで分布する.また,この区間での礫層中の礫には弱い堆積性のインブリケーションが認められる.一方,これ以外の地点では,礫層が主体をなし,層厚10〜20cmの砂層がレンズ状に分布する.また,礫層中の礫にはインブリケーションがほとんど認められず,礫の配列は乱されている.

3)第3層(砂質シルト層主体)

第3層は第2層,もしくは第1層を覆ってトレンチ全断面に層厚100〜200cmで分布する.本層は砂質シルト層主体の地層であるが,層層により下位から,白灰色砂質シルト層(3−1層),灰色シルト層(3−2層),赤茶色砂質シルト層(3−3層),白灰色砂質シルト層(3−4層)に細分される.

なお,本層中にはレンズ状の形態で中粒砂が分布するが,その層相が前述の第2層に似ているため,これらレンズ状の砂層は本層に含めないこととした.以下に各層についてまとめる.

<3−1層>

第3層の主体をなす地層である.本層はシルト主体で,中礫,粗粒砂〜細粒砂が混在し,全体に淘汰が悪く,不均質な堆積物である.白灰色を呈するが,風化によって淡い黄褐色に変色した箇所が多く見られる.3−1層の最上位(上位層との境界)には,厚さ2〜10cmのより砂質で,やや固結度が高い部分がある.また,第1層および第2層の礫(中礫〜大礫)が混入する場合がある.この礫の混入は主に第1層および第2層境界部付近に多く認められる.

<3−2層>

本層は終点側に分布する(北側法面では[N31−N50]間,南側法面では[S28−S50]間).灰色を呈すシルト〜粘土層からなる.厚いところでは60cmに達するが,本層を欠く部分も多い.3−1,3−2層は氾濫原(洪水)堆積物と考えられる.

<3−3層>

本層は終点側に分布する(北側法面では[N27−N50]間,南側法面では[S30−S50]間).赤茶色を示す砂質シルト層からなる.厚さは最大30cm程度であるが,層厚の変化が激しい.地下資源調査所が別に委託測定した放射性炭素年代測定では29,350±180yBPである.

<3−4層>

下位の3−1,3−2,3−3層を覆う白灰色砂質シルト層であり,トレンチ断面全体に渡って分布する.下位層との境界部は不明瞭である.層厚は80cm程度である.灰色粘土が充填した植物痕が多く見られる.

4)第4層(シルト層)

第3層を覆うシルト層で,ほぼ地形面に沿ってトレンチ断面全体に層厚20〜80cmで分布する.黄灰色を呈する砂質シルトからなり,一部に中礫を伴う.植物痕をまれに含む.

5)第5層(腐植土層)

第4層を覆って分布する.厚さは10〜30cmであり地形面にほぼ沿って分布する.植物片,根を多く含む.

(3)トレンチの地質分布と地質構造

本節では雨竜地区トレンチにおいて,現地形面と地層の分布形態をまとめ,次いでトレンチで観察された変形構造を含めた地質構造について述べる.

1)地質分布

以下にトレンチ付近の地形の特徴および各地層の分布形態についてまとめる.なお,前節で述べたように,第2層はその分布が連続性に乏しく層厚が薄いため第3層と一括して取り扱うことにする.また,第4層および第5層はほぼ現地形面に平行に分布するため,ここでは記載を省略する.

I)トレンチ付近の現地形面の特徴

図2−1−4にトレンチ位置付近の地形図およびトレンチ断面図(北側法面)を示す.

トレンチ位置は緩く南東方向に傾斜している地形面が石狩川低地部へ撓み下がる部分であり,この緩斜面の最大斜面傾斜方向はほぼ東西方向である.

トレンチ付近の斜面はトレンチ起点側(西側)から40m区間は3〜5゚の緩傾斜である.この緩斜面はさらにトレンチ起点側(西側)から30m間では,5゚程度であるが,30〜40m間では3゜以下とさらに緩い傾斜となる.特にトレンチ位置では,この区間(北側法面でN30〜N40区間,南側法面でS26〜S34間)に深さ20〜40cmの軽微な凹状地形が認められる.また,起点側40mより東側では10〜14゚の傾斜をなす標高差1.5〜2mの低崖状の斜面が幅5〜7mでほぼ南北に連続して分布する.

I)第1層の上面の分布形態

トレンチ断面で本層の基底部が確認できないため,その分布形態は不明である.従って,ここでは本層の上面境界について,トレンチ法面での見掛けの傾斜とその形態を各法面の区間毎にまとめる(図2−1−3).

<南側法面>

・[S 0−S20]間:第1層上面境界線はほぼ地形面に平行であり東側へ4〜5゚程度で緩く傾斜している.境界線は凹凸の少ない滑らかな形態をなす部分が多い.ただし,[S3−S7]間および[S18−S20]間ではやや上に凸の形状をなす.

・[S20−S30]間:第1層上面境界線は東側へ8゜程度とやや急傾斜している.境界線は波長60〜100cm程度で波状に起伏する形状をなす.

・[S30−S38]間:第1層上面境界線は東側へ5゚程度と緩く傾斜している.境界線は不規則な起伏に富む形状をなす.

・[S38−S43]間:第1層上面境界線は一部トレンチ底面以深に没するが,この区間ではほぼ水平である.境界線は不規則な起伏に富む形状をなす.

・[S43−S45]間:第1層上面境界線は西側へ15゚と急傾斜をなす.境界線は不規則な起伏に富む形状をなす.

・[S45−S50]間:第1層上面境界線は東側へ8゚で傾斜する.境界線は不規則な起伏に富む形状をなす.

<北側法面>

・[N 0−N20]間:第1層上面境界線はほぼ地形面に平行であり東側へ4〜5゚程度で緩く傾斜している.境界線は凹凸の少ない滑らかな形態をなす部分が多い.ただし,[N20−N21]間では20cm程度上に跳ね上がった形状をなす.

・[N21−N34]間:第1層上面境界線は東側へ6〜7゚とやや急傾斜しており,[N34]ではついにトレンチ底面以深に没する.境界線は波長60〜80cm程度で波状に起伏する形状をなす.特に[N20−N21]間および[N24]付近ではでは東側へそれぞれ30゚,70゚倒れ込む上に凸の形状をなす.

・[N34−N44]間:第1層上面境界線は本区間ではトレンチ底面以深に没する.

・[N44−N50]間:第1層上面境界線は[N44]で法面基底部に分布し,[N44−N47]間ではほぼ水平に分布する.これより終点側では東側へ急傾斜し,[N48]付近で再びトレンチ底面以深に没する.以上述べたように,第1層上面境界線は大局的には起点側(西側)から20m終点側(東側)では地形面とほぼ平行であり,東側へ4〜5゚程度緩傾斜をなす.これより以東では傾斜6〜8゚で緩やかに東側へ撓み下がる.さらにこの撓み下がり区間では,起点側から40m東側に中心を有する幅5〜8mの盆状構造が認められる.

Ii)第2層と第3層の分布形態

第4層と第5層はほぼ現地形面に平行に分布している.したがって,前述の現地形面の形態と第1層の分布形態から,第2層と第3層の分布形態が把握できる.図2−1−5に現地形面を基準とした第2層と第3層両層のトレンチ法面での見掛けの層厚図を示す.

図に示したように,起点側から東側20mにかけては,第2層と第3層両層の層厚は90〜 150cmである.これ以東では徐々に層厚が増加して,トレンチ終点部付近(東側)では220〜300cm以上となり,起点側の層厚の倍以上に両層が厚層化していることが読みとれる.

2)地質構造

i)第1層の内部構造

第1層は礫支持礫層が主体をなす.この礫層の礫には明瞭な堆積性のインブリケーションが見られる.インブリケーションの走向傾斜は図2−1−6−1に示したように,南北〜北東−南西走向で西側へ20゚以下で傾斜するものが多い.したがって,トレンチ法面では,これらの礫のインブリケーションはほぼ水平から西側へ10゚以下で緩く傾斜することになる.しかし,図2−1−6−2に示したように,これらのインブリケーションの卓越する方向と異なるものがある.これらの礫の配列は周囲のインブリケーションと斜交しており,初生的な堆積構造とは異なり後生的な変形構造を表している.以下に,礫の配列から認められる変形構造についてまとめる.

<変形構造>

・第1層上部の礫の配列

第1層の分布形態で述べたように,本層の上面境界は起点側(西側)から20m終点側(東側)では凹凸が少ないが,これ以東では著しく起伏に富む波状の境界となる.この起点側から東側20m以東の区間では,第1層上部の礫配列は乱れており,波状の境界に沿った形態をなす.また,一部では,礫が第3層中まで巻き上げられている.これらの礫の配列の乱れは第1層上部(20〜50cm)に限られており,第1層の下部には及んでいない.

・変形構造

上述の第1層上部の礫の配列の乱れの他に,以下の地点で第1層下部に及ぶ礫の配列の乱れが認められる.

・[S6−S7]付近

・[S18]付近

・[S20]付近

・[S25]付近

・[N6−N7]付近

上記の地点では礫が35〜50゚西側へ傾斜して配列している.また,[S6−S7]地点では,この礫の乱れを境にして第1層上面境界は西側が30cm程度撓み上がっている.

I)第2層および第3層の内部構造

図2−1−7に南側法面[S16−S50]間の,図2−1−8に北側法面[S46−S50]間)のスケッチ図を示す.これらの図に示したように,第2層および第3層中には様々な変形構造が認められる.特に,第1層が緩く東へ撓み下がり,終点側付近の第1層が盆状構造をなす区間(起点側から東側20〜50m区間)では,波状の褶曲と層内のスラストで特徴付けられる構造が発達する.

この区間では東に向かうにしたがって,第2層および第3層中には,半波長100〜200cmのやや開いた小褶曲から半波長50cm以下の閉じた小褶曲へと,褶曲の度合いの異なる背斜が西傾斜の小断層に切られながらみられる.これらの小褶曲の軸面はいずれも東側へ倒れ込んだ形態をなす.また,これらの軸面は法面下部では倒れ込みは40゚程度であるが,法面上部に向かうにしたがって軸の倒れ込みが大きくなる傾向がある.また,第2層および第3層全体の層厚は,90〜150cmであるが,東へ行くにしたがい220〜300cm以上と肥大化している.

(4)試料分析結果

1)放射性炭素年代測定

放射性炭素年代測定は,図2−0−7に示した露頭から採取した試料RYU−03,および図2−1−3の腐食質泥層から採取した試料P−3で実施した.測定結果を表2−1−2に示す.

2)花粉分析

雨竜地区トレンチ法面から採取 1した花粉分析試料12試料を処理したが,化石花粉が得られたのはS47−1,S47−3,S47−4,S47−8の4試料のみで,木本花粉個数が200個に達した試料は,S47−1,S47−4の2試料のみであった.花粉産出個数および産出率をSpecies Chartとして,表2−1−3に示す.

次に,試料別に化石花粉群の特徴を述べる.

[S47−1]針葉樹は低率で,コナラ属,シナノキ属,ウコギ科,ハンノキ属が高率である.ヨモギ属,キク亜科が比較的高率で,湿原性のミクリ属,ミズゴケを伴う.

[S47−3]化石数が少ないが,針葉樹が高率で,冷温帯広葉樹は含まない.草本類に乏しい.

[S47−4]S47−3に比べてエゾマツ・アカエゾマツが減少し,ハイマツが高率であるが,類似した花粉群である.草本類に乏しい.

[S47−8]S47−3,4に類似するが,氷期〜完新世初頭の寒冷気候を示すグイマツが1%含まれる.草本類に乏しい.