(2)尾白利加川沿いの地質調査

尾白利加川沿いの直立・逆転帯の幅は800m程度であるが,同帯は尾白利加川の河床に広く露出しており,ルートマップおよび柱状図を作成しながら,堆積相・地質構造の観察を行なった(図1−1−3および図1−1−4).

1)堆積相について

観察部分は,層厚約700mで,深川層群である.堆積相の違いにより,下位から下部累層(細粒砂岩・砂質泥岩層,層厚190m+),中部累層(板状泥岩・細粒 砂岩・火山角礫岩層,410m?),および上部累層(礫岩・砂岩・板状泥岩層,55m+)の3累層に区分できる.各部層の堆積相の特徴は以下のとおりである.

[下部累層] 細粒砂岩相は,極細粒部も含み、一般には火山ガラス質で無層理であるが,泥質岩と互層状となったり,葉理部を細切れに挟んだりする.砂質泥岩相は,一般には無層理であるが,ときに細粒砂岩と細かい互層を成す.最上部の約30mの層厚部分は,極めて凝灰質な砂岩層(ガラス質・軽石質で極細粒〜粗粒,ときに泥質薄層を挟む)で葉理が顕著である.その砂岩層の直下約5mの層厚部分(泥まじり細粒砂岩)には,密集レンズ状または散点状に海棲貝化石を含み,Fortipecten takahashii,Acila,Turritellaなどが確認できる.細粒砂岩および砂質泥岩中には,ガラス質またはスコリア質凝灰岩,粘板岩の円礫よりなる砂礫岩,板状泥岩などの薄層がときに挟まれ,層理を知る手がかりとなる.全体の堆積環境としては,外側陸棚から内側陸棚が想定される.ほぼ幌加尾白利加層に相当するが,一の沢層を一部含む.

[中部累層] 板状泥岩相は,いわゆる“湖成堆積物”様を呈し,泥岩,砂質泥岩および極細粒〜細粒砂岩のcm〜mm単位の細かい互層よりなり,ときに泥岩優勢または砂岩優勢となる.10cm前後の厚さの亜炭または泥質亜炭(材化石をともなう)をときどき挟む.細粒砂岩相は火山ガラス質であり,葉理が顕著である.下部には,層厚25mの極めて凝灰質な砂岩層(ガラス質・軽石質で極細粒〜粗粒,斜交葉理が顕著)を挟む.火山角礫岩相は,玄武岩質の主にスコリア・岩片(火山角礫)より構成され,数cmから10数mの厚さの級化層の集積層をなし,火山性の土石流堆積物とみなされる.下部と中部にはその集積層が挟まれるが,下部の集積層は厚さが13mであり,角礫の最大径は7cm前後である.その上半部には,貝化石が含まれる.中部の集積層は,挟まれる板状泥岩相を含め厚さは150m程になる.その上部には,厚さ10m前後の級化層が2層挟まれる.その下部は厚さ10cm前後の級化層の集積よりなるが,一部では厚さ30m弱の部分がスランプ褶曲帯となっている.下部の火山角礫岩層(級化層の集積層)の直上には,厚さ10mの乱堆積層が挟まれ,下位から軽石質粗粒砂岩(高角度斜層理発達)およびチャンネル埋積泥岩礫(同時礫,亜炭質,最大径数m)まじり粗粒砂岩層より構成されている.全体の堆積環境としては,ラグーンが想定できる.一の沢層と美葉牛層の大部分を合わせたものにほぼ相当する.

[上部累層] 尾白利加川の河床では,主に礫岩相が観察され,粘板岩などの先新第三系岩の円礫を主体とし安山岩礫なども含む(中〜大礫主体).本地区の範囲外である恵岱別川の恵岱別橋付近の土取場で本累層40mの層厚部が観察されるが,亜炭を挟む板状泥岩および礫〜砂礫岩・葉理砂岩の互層より構成されており,ラグーン縁辺の河口の堆積環境(蛇行河川と後背湿地)が想定できる.美葉牛層の一部に相当する.

本地区の尾白利加川河床以外の深川層群調査露頭のうち,A地点露頭(大規模草地への道路沿い)の層厚40mの部分は中部累層の下部,B地点露頭(同)の約70mの部分は下部累層,C地点露頭(同道路入口付近)の約65mの部分は中部累層の最下部,D地点露頭(トレンチ地点西方の土取場)の約30mの部分は中部累層の下部,E地点露頭(雨竜頭首工付近)の約100mの部分は中部累層の下部に,それぞれ相当する.さらに,トレンチ地点付近の調査井に出現した深川層群(美葉牛層とされている)は,上部累層に相当する.

2)地質構造について

尾白利加川河床の調査部分(層厚約700m)のうち大部分は西傾斜の逆転層となっている.特に,曲の沢合流部付近の2つの断層存在部では変位が激しく,50〜60°の西傾斜を示すところがある.新しい新竜橋の下流部(尾白利加川曲流部)では,幅100m程の間で逆転層(80°程度の西傾斜),急傾斜層(70〜80°の東傾斜),緩傾斜層(30°の東傾斜)へと,急激に構造形態が変化するのが観察できる.地層の走向は全体としてほぼN−S方向である.

同河床では,3つの断層(地質断層)の存在が確かめられる.東からそれぞれをOF1,OF2およびOF3とする.OF1は,o−5地点(新竜橋付近)に存在し,板状泥岩中にN5゚E83゚Wの走向・傾斜(地層に平行),3cm幅の黒色粘土化帯(シェアゾーン)となり,それを中心に幅1mの部分が破砕帯となっている.地層のずれはあまりないようである(センスは不明).OF2は,o−15地点(曲の沢合流点付近)に幅2m程度の破砕帯をともなって存在しているが,断層面は固結している.みかけ上,下部累層と上部累層の境界部にあたり,断層面はN26゚W58゚Wの走向・傾斜を有するが,地層の走向とやや斜交し,傾斜方向が反対であることが注目される.地層のずれはある程度存在していると思われるが,センスは不明である. OF3は,o−17地点に存在し,泥質岩・砂質岩の細互層中にN11゚W84゚Wの走向・傾斜(地層にほぼ平行)を有する5cm幅の黒色粘土化帯である.地層のずれはあまりないようである(センスは不明).

OF1およびOF3は地層に平行であり,かつ層理の顕著な部分に生じていることから,撓曲帯の形成に伴う層面すべりを反映したものと判断される.また,断層部が固結していないことから,OF2よりは新しくさらに活動的であると判断される.

尾白利加川河床以外の露頭については,E地点露頭は同河床と同様に逆転層(60〜80°の西傾斜)を示すが,A〜D地点露頭については30〜50°の南東〜北東傾斜で,同河床の地質構造から比較すると緩くなっている.なお,D地点の深川層群が中部累層の下部,トレンチ地点付近の調査井に出現した深川層群が上部累層であるとみなし,地層の厚さが側方にあまり変化しないとすれば,両者の間の部分には少なくとも中部累層の中〜下部300m程の層厚部がほぼ直立して存在しているとみなされる.