(1)概要

A.原理

種子植物やシダ,コケ植物は一般に多量の花粉あるいは胞子を生産する.これら花粉,胞子は植物体と離れて空中に放出され,広範囲の路面や水中に落下する.雨水や河川により湖沼や海域に運搬され,泥質堆積物と共に堆積する.花粉,胞子の外膜はスポロポレニンと呼ばれる物理,化学的に強靱な物質で構成されているため,化石として保存される.分析では泥や砂を化学溶液で溶かし,花粉胞子を集め,プレパラートを作成する.光学顕微鏡観察で,形態の特徴から属を識別し,母植物群を知ることが出来る.これら植物群の質的,量的構成を知ることにより,過去の植生を復元したり,当時の気候や古環境を推定することが可能になる.

B.分析実施機関

コアから採取した試料の花粉分析をパリノ・サーヴェイ株式会社に委託した.

C.分析方法

花粉・胞子化石の抽出方法は,以下の手順で行った(1,2).

試料を10g前後秤量する.塩酸処理により炭酸塩鉱物を溶解し,遠心分離法により水洗を繰り返して除去する.フッ化水素酸処理により試料中の珪酸質を溶解し,遠心分離法により水洗を繰り返して除去する.残渣沈殿物に重液(ZnBr2比重2.2)を用いて鉱物質と有機物を分離させ,浮上した有機物を濃集する.有機物残渣を遠心分離法により水洗を繰り返して洗浄する.有機物残渣に氷酢酸を用いて脱水した後,アセトリシス処理(濃硫酸:無水酢酸=1:9)を行い植物遺体中のセルロースを加水分解する.その後,遠心分離法により氷酢酸に置換し,さらに遠心分離法により水洗を繰り返して,酸分を除去する.最後にKOH処理(10%溶液)により腐植酸を溶解し,遠心分離法により水洗を繰り返して腐植酸とKOHを十分に除去する.

検鏡に当たり,プレパラートの作成は,タッチミキサーでよく攪拌した直後の残渣液を木本花粉の合計が200個体以上になるようにマイクロピペットで適量とり,グリセリンで封入する.検鏡は,生物顕微鏡のプラン・アポクロマート対物レンズを用い,通常400〜600倍(必要に応じて1000倍)で観察し,木本花粉の合計が200個体以上になることを目安として,プレパラートの2/3~全面を走査し,その間に出現した全ての種類(Taxa)について同定・計数する.ただし,花粉化石の産出が非常に少ない試料はプレパラート1~2枚の全面を顕鏡する.

文献

(1)加藤碩一・脇田浩二(2001):地質学ハンドブック.朝倉書店,696.

(2)第四紀学会編(1993):第四紀試料分析法.東京大学出版会,556.